食品表示法制定を知る!来る経過措置期限に備えて

食品表示法制定を知る!来る経過措置期限に備えて

新しい食品表示制度への経過措置期限となる平成32年3月31日まで残すところあと約1年半。駆け込みリスクに備えて、3回連続で食品表示法の制定経緯や対応準備・注意点をご紹介して参ります。

はじめに

年々、消費者嗜好の多様化や技術の進歩などから食品表示に多くの制約・制限が生じています。
そしてそれが食品表示責任者の判断を迷わせる要因となっています。食品表示検定上級の合格率が毎年10%~20%であることからもその理解の難しさが伺えます。言い換えれば、経験・学習だけでは十分に対応できない点が多く存在し、曖昧な対判断は、表示違反などを引き起こすリスクにつながります。様々な原料や加工方法、販売先規模などで表示が異なるためです。だからこそ、その理解と準備に余裕のある対応が必要になります。ところが、往々にして多くの食品メーカーは期限の間際に駆け込むため、資材・機械供給業者が一極集中の対応に追われ、通常以上のリードタイムで納品せざるを得ず、食品メーカーの当初予定していた販売時期に間に合わなくなることも予想できます。いわゆる「駆け込みリスク」です。本シリーズでは第1回から第3回にかけて法律改正の経緯、準備すべきことや、特例などの注意点をお伝えすることで、食品表示変更の「駆け込みリスク」を回避していただくことを願っております。

食品表示の難解さ

 適切な食品表示を図るにはその理解が必要です。しかし、一筋縄にはいきません。表示条件や制約に多くのパターンが存在するからです。時間に迫られれば迫られるほど判断に焦りが生じるため、その難易度を理解したうえで、余裕を持った表示改訂に備える必要があります。

 食品表示検定協会が実施する食品表示検定試験において、受験出願者数は、中級試験では平成26年(2014年)から、また上級試験では平成25年(2013年)から年々増加しています。食品表示法が公布された平成25年(施行は平成27年より)に沿うようにその関心がまっています。一方上級の合格率は昨年度の平成29年も19.4%と決して高くなく、その難解さや完全な理解には相当の学習が必要であることが伺えます。それゆえに大量販売を伴う商品では特に自社判断に頼らず専門家への確認を図るなど、誤表示による損害を避ける措置が必要となります。

図表1. 食品表示検定合格実績推移
<中級> (人) 

前期 後期
年度 出願者 受験者 合格者 合格率 出願者 受験者 合格者 合格率
2017 3,407 3,133 1,616 51.6% 4,901 4,617 2,978 64.5%
2016 3,318 3,089 1,297 42.0% 4,627 4,341 1,939 44.7%
2015 2,695 2,487 1,023 41.1% 3,850 3,633 1,895 52.2%
2014 2,561 2,351 1,265 53.8% 3,287 3,067 1,587 51.7%
2013 2,751 2,508 779 31.1% 3,560 3,310 1,676 50.6%
2012 2,162 2,012 1,057 52.5% 3,004 2,811 1,218 43.3%
2011 2,094 1,968 708 36.0% 3,091 2,915 1,836 63.0%

<上級>(人)

年度 出願者 受験者 合格者 合格率
2017 651 612 119 19.4%
2016 616 578 78 13.5%
2015 618 578 81 14.0%
2014 603 549 90 16.4%
2013 554 515 74 14.4%
2012 564 536 56 10.4%
2011 775 754 143 19.0%

出典元:一般社団法人食品表示検定協会ホームページより
(http://www.shokuhyoji.jp/html/backnumber_results.html)

 平成25年に制定された食品表示法では、従来の食品表示関連3法(食品衛生法、JAS法、健康増進法)を統合したことでより理解しやすくなると思われましたが、そう甘くはありません。このような複雑さが生じた背景を食品表示法の制定の変遷とともに理解し、経過措置期限までに安全な対応を備えることが大切なこととなります。

食品表示法制定への変遷

(1)食品表示に関連する旧法律

 平成27年度の新たな食品表示法施行までは、いわゆる食品表示に関連する旧3法を理解する必要がありました。それは、厚生労働省が管轄する食品衛生法と健康増進法、そして農林水産省が管轄するJAS法です。それぞれの法律に食品表示に関するものが含まれており、一つの表示を確認するためには、複数の省庁、担当窓口に問い合わせする必要がありました。それぞれの3法の果たす目的や表示関連内容などは、以下の東京都福祉保健局ホームページから参考にすることができます。

図表2. 食品表示に関する旧3法の関係


出典元:東京都福祉保健局ホームページ(一部筆者追記)
(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/hyouji/files/2015_leafret.pdf)

これ以外にも、不当景品類及び不当表示防止法(公正取引委員会)、食品安全基本法(内閣府)も食品表示に関連する法律として各省庁での分散対応となっていました。

(2)消費者庁の設置

 食品表示法が交付される4年前の平成21年5月に3つの関連法(消費者庁及び消費者委員会設置法、消費者庁及び消費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律、消費者安全法)が成立し、消費者庁は同年9月に発足となりました。統合のきっかけには、平成20年の幼児の食品窒息による事故で、行政が縦割りであったが故にその対応の遅さが露見されたことなどがあります。このような事故を背景に、今でいう「消費者ファースト」の視点から、消費者関連の省庁を設置し迅速な対応を目指しました。この中に従来から分散していた食品表示に関する窓口を消費者庁に一元化する動きがあり、消費者はもとより供給者側にとっても、曖昧なケース確認などをより一元的に問い合わせできるようになったのです。

消費者庁ホームページ 消費者基本計画 消費者安全の確保に関する基本的な方針について
(http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/basic_plan/pdf/160401houshin.pdf)

図表3. 消費者行政推進基本計画において移管・共管対象とされた法律(29本)

出典元:内閣府ホームページ
(http://www.cao.go.jp/houan/doc/170-3gaiyou.pdf)

【参考】消費者庁ホームページ 消費者基本計画 消費者安全の確保に関する基本的な方針について
(http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/basic_plan/pdf/160401houshin.pdf)

(3)新食品表示制度の策定

 消費者からの問い合わせ窓口を一元化した後、続いて法律の一元化が図られることになります。従来3つに分かれていた食品表示の法律を皆さんご存知の「食品表示法」という新たな法律で一本にまとめられることとなりました。公布されたのは消費者庁が設置された平成21年から4年後の平成25年でした。消費者庁発行の「早わかり 食品表示ガイド」には以下のように説明されています。

 『統合されたのは、食品衛生法(昭和22年法律第233号)、JAS法(昭和25年法律第175号)及び健康増進法(平成14年法律第103号)の3法がありました。しかし、目的が異なる3つの法律にそれぞれルールが定められていたために、制度が複雑で分かりにくいものになっていました。

 食品表示法(平成25年法律第70号。以下「法」という。)は、上記3法の食品の表示に関する規定を統合し、食品の表示に関する包括的かつ一元的な制度を創設するものとして策定されました。法律の目的が統一されたことにより、整合性の取れたルールの策定が可能となったことから、消費者、事業者の双方にとって分かりやすい表示制度の実現が可能となりました。』

 このように従来、各法律、各省庁で統括されていた商品表示の重複領域や窓口が一本化され実務担当者による判断や消費者問い合わせへの苦労が軽減されたのです。

図表4. 食品表示法で一元化された領域

出典元:消費者庁ホームページ
(http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/130621_gaiyo.pdf)

食品表示法による新たな義務と経過措置期間

 食品表示に関する管理は一所一括にまとめられましたが、油断してはいけません。ただ法律と管轄を一本化しただけではありません。平成25年に公布された食品表示法は平成27年より施行され、次の食品表示があらたな義務として加わったのです。

  1. 加工食品と生鮮食品の区分の統一
  2. 製造所固有記号の使用に係るルールの改善
  3. アレルギー表示に係るルールの改善
  4. 栄養成分表示の義務化
  5. 栄養強調表示に係るルールの改善
  6. 栄養機能食品に係るルールの変更
  7. 原材料名表示等に係るルールの変更
  8. 販売の用に供する添加物の表示に係るルールの改善
  9. 通知等に規定されている表示ルールの一部を基準に規定
  10. 表示レイアウトの改善

出典元:消費者庁ホームページ
(http://www.ffcr.or.jp/upload/tenka/ef51a5c71da346a927323a6e7bf4f0de4b25675b.pdf)

 もちろん、移行への猶予期限(経過措置期間)も、各対象により消費者庁より以下のように発表されています。

A:食品表示基準の制定に伴う対応

対象 猶予期限
■ 生鮮食品表示 平成28年9月30日(猶予期限終了)
□ 加工食品及び添加物記号 平成32年3月31日
□ 製造固有記号 平成32年3月31日

B: 食品表示基準の改定に伴う対応

対象 猶予期限
□ 原産地表示 平成34年3月31日

出典元:消費者庁ホームページ
(http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/country_of_origin/pdf/country_of_origin_171027_0002.pdf)

 新たな表示義務が追加されたことで、従来通りの表示のままでは、やがて罰則が生じることとなります。そのため新たな表示制度へと対応が迫られるのですが、見落としがちな制度対応への警鐘が次々と出されるなど、その混迷はなかなか収まりを見せません。一見、食品表示の一元化で、対応が簡単になると思われた制度ですが、このような細則により一層の注意が必要となったのです。次回、第2回ではその細かな表示対応の中でも留意すべき点をご紹介し、最終回の第3回では、表示変更に対する「駆け込みリスク」についてご案内いたします。

徳永 税 執筆者 
柏の葉技術経営研究所 代表
中小企業診断士 / 1級総菜管理士 / 中級食品表示診断士 / JHTC認定HACCPコーディネーター
徳永 税 氏

東京大学大学院総合文化研究科 修士課程修了。1級総菜管理士・中小企業診断士。
食品メーカー開発部門にて新製品の研究開発、工場で品質保証の責任者としてFSSC22000食品安全チームリーダーを務める。
2012年、柏の葉技術経営研究所を設立。FSSC22000、ISO22000認証取得、HACCP構築、製品開発の支援を行う。

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