2018年11月13日に静岡で開催しました「食品業向け品質管理勉強会」イベントでの講演「食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向」についてレポートいたします。
【目次】
◆1.ISOマネジメントシステムの概要
◆2.ISO22000食品安全マネジメントシステム要求事項の全体像
◆3.ISO22000食品安全マネジメントシステム要求事項の解説
①運用の計画及び管理(≒HACCPシステム)
②組織の計画及び管理(≒経営レベルでのPDCA)
◆4.まとめ
▲ 中小企業診断士
ISO22000食品安全マネジメント
システム審査員(JRCA登録)
柴田 巧 氏
本年2018年6月にISO22000:2018年版が発行されたこととあわせ、ISO22000の基本的な考え方を解説します。
1.ISOマネジメントシステムの概要
ISOとは
ISOはInternational Organization for Standardization(国際標準化機構)の頭文字で、そのままでいくとIOSですが、通称はISOです。ISO規格は、もともとは製品規格、例えば非常口のマークやカードのサイズ、ネジといった製品の規格として誕生しました。ただ、製品規格に終わらず、マネジメントシステム規格なども登場し、ISO9001やISO140001、本日お話しするISO22000などが定められました。品質、環境、食品安全、情報セキュリティなど、組織活動、企業経営を管理していくための仕組みに関する規格です。
ISOマネジメントシステムの認証制度の仕組み(1)
品質、環境、食品安全など、それぞれの規格に「要求事項」と呼ばれる基準が定められています。その組織に直接的な利害関係がない、第三者的な認証機関が要求事項を満たしているかどうかを審査。要求事項を満たしていれば、登録証を発行します。認証制度を維持するために、認証機関を審査する認定機関が置かれており、日本の場合、JABが、それにあたります。認証機関は各国の認定機関から認定を得て審査活動を行っています。
ISOマネジメントシステム認証の仕組み(2)
認証を得るためには初回審査を受けなければいけません。登録証が発行されると基本的には1年に1回定期審査(維持審査、サーベイランス審査とも)があり、3年目に再認証審査(更新審査)が行われ、登録証が更新されます。
講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より
PDCAサイクル:ISOはPDCAのかたまり
ISOはPDCAのかたまりです。ISO22000の2018年版(最新版)の序文では「Plan」「Do」「Check」「Act」を下記のように定義しています。例えば、不良品を減らすという目標に対して実行した後、実際に不良品がどの程度減ったのかをチェックし、目標に達していなかったら、それを改善するためにどうするのかを考え、手を打ちます。
講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より
PDCAサイクルで昇りつめる
右側の図は回転しながら坂を登っていくイメージです。右側が時間軸、縦軸が達成すべき目標で、目的・目標を設定し、方法を決め、教育訓練し、実行し、結果をチェックして(改善・改良の)処置をしていけば、時系列とともに達成する目標に近づきます。
講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より
ISO認証取得の効果
認証取得の効果として下記の点が指摘できます。重要なポイントは定期的に審査を受けなければいけないので、継続的に企業活動を改善できることです。重要な要求事項である内部監査やマネジメントレビューなどの仕組みも自律的な業務改善を後押しします。
講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より
ISOマネジメントシステム規格の主な種類
ISOマネジメントシステム規格には品質、環境、食品安全、情報セキュリティ、労働安全衛生に関するものがあります。それぞれの業界に特化した医薬品、自動車、航空宇宙などのセクター規格も設けられています。
2.ISO22000食品安全マネジメントシステム要求事項の全体像(俯瞰的に、鳥の目で)
ISO22000の食品安全マネジメントシステムとは?
ISO22000(FSMS=Food Safety Management System)は、ざっくりいうと品質のマネジメントシステムISO9001とHACCPが合わさったものです。
講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より
ISO22000の改定(ISO22000:2018)
ISO22000は2005年に発行されました。その後、改定は1回もなく、2018年6月19日に初めて改定されました。規格の章構造が先行して改定されたISO9001の2015年版と統一されました。この章構造のことを高次構造(High Level Structure)と呼び、HLSと略されます。2005年版の認証を取得している企業は2018年版の規格発行から3年以内に2018年版に移行する必要があります。
ISO22000:2018の大項目
右が改定前のバージョン、左が更新されたバージョンです。どちらもPlan、Do、Check、ActのPDCAサイクルを意識して構成されています。改定前、8章はCheckとActからなっていましたが、2018年版ではCheckが9章に、Actが10章にと2つに分けられました。
講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より
ISO22000:2018の概要
まずは会社の置かれている状況を経営陣・管理職を中心に理解します。次に食品安全方針を見直し、方針が決まったら、経営レベルのいろいろなリスクや機会を洗い出し、食品安全目標を立てます。状況が変われば、目標を見直したり、変更の計画を立案・実行したりする必要があります。
経営レベルでCheckにあたるのが内部監査であり、マネジメントレビューです。マネジメントレビューは経営層による再確認・見直しを指し、次のActの段階の改善や食品安全マネジメントシステムそのものの更新につなげます。内側の運用・実務レベルの項目に関しては後ほど詳しくふれます。
4の組織の状況の理解、5のリーダーシップ、6の計画、7の支援(外部から提供されるプロセス、製品又はサービスの管理を含む)がPLAN、8の運用がDO、9のパフォーマンス評価がCHECK、10の改善がACTです。 8の運用を細分化すると下の図になります。運用の計画及び管理(PRPs、トレーサビリティシステム、緊急事態の準備及び対応、ハザード分析、管理手段の妥当性の確認、ハザード管理プラン、検証計画)がPLAN、計画(食品安全)の実施、モニタリング及び測定の管理、製品及び工程の不適合の管理がDO、検証活動、検証活動の分析結果がCHECK、初期情報並びにPRPs及びハザード管理プランを規定する文書の更新がACTです。二重、三重にPDCAサイクルを回すことが求められています。 講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より HACCP(ハサップ)とはHazard Analysis and Critical Control Pointの各単語の頭文字を取ったものです。Hazard Analysis(ハザード・アナリシス)とは食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生する恐れのある微生物汚染、異物・化学物質の混入などの危害要因をあらかじめ分析することで、日本語で危害要因分析といいます。さらっと書いてありますが、ハザード分析は、ものすごく労力がかかります。 ハザード分析の結果に基づき、製造工程のどの段階で、どのような対策を講じれば、より安全な製品を得ることができるかというCritical Control Point(クリティカル・コントロール・ポイント=重要管理点)を定めます。クリティカルとは「ここを外したらまずい」という意味で、必須管理点と呼ぶ人もいますが、最近のHACCPのテキストは重要管理点としています。重要管理点を連続的に監視することで製品の安全を確保する衛生管理手法がHACCPです。ポイントは検査に頼るのではなく、不良品そのものをつくらない、流さないことです。 ISO22000:2018の8 章はHACCPです。一番下の土台は前提条件プログラム(Prerequisite Programs)で、一般的な衛生管理を指します。手洗の励行、設備の洗浄、製造環境の整備、防虫・防鼠の実施などが含まれます。その上にハザード分析を可能にする予備段階があり、食品安全チームをつくったり、製品記述書やフローダイアグラムといわれる製造工程図を書いたりします。さらに、その上で実際にハザード分析を実施、CCP(重要管理点)やOPRPと呼ばれる管理ポイントをつくるというイメージです。 講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より もうすこし詳しくHACCPと一般的衛生管理との関係を示すと2階建ての家のようになります。1階が一般的衛生管理、2階がHACCPです。一般的衛生管理はISO22000の8.2項、HACCPは同じく8.5項にあります。 繰り返しになりますが、HACCPは「原料の受け入れから加工・包装・保管までの工程について、食品の安全を確保するうえで問題となる危害要因を分析し、加熱工程、金属探知工程などを最重要管理点として管理する」ことです。一般的衛生管理は食品安全の基礎・1階部分で、HACCPは一般的衛生管理が十分にできていることが前提となります。 基礎・1階部分の食品安全を達成するための前提条件を、より詳しく示したものが下の図です。ISO22000の2018年版の要求事項をそのまま書きました。ゾーニングとは食品の製造工場の中で重点的にきれいにしておきたい場所を明確にすることです。企業によって清潔区、準清潔区、汚染区、一般区といった名称をつけて区分しています。ペストコントロールは防虫・防鼠のこと、交差汚染とは汚いものと、きれいなものを一緒にしてしまうと全部が汚染されることをいいます。そのため、交差汚染の予防手段を確立することが重要になります。 HACCP構築のステップは「HACCPチームの編成」「製品の記述」など5つの準備手順と「ハザード分析」「重要管理点(CCP)の特定」など7原則の12ステップからなります。5つの準備手順を見ていただけばわかる通り、HACCPの要求事項はISO22000の要求事項に、すべて含まれています。 講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より 5つの準備手順のうち、フローダイアグラムの構築を、どのようにすればいいでしょうか。フローダイアグラムとは耳慣れない言葉かもしれませんが、製造の工程(流れ=フロー)を図にしたものです。 「水産加工場品質管理の手引き」から「しめさば」加工のフローダイアグラムを紹介します。原魚のほか、海水、井戸水、食塩、砂糖・食酢・調味料、包装資材それぞれの流れがあります。フローダイアグラムをつくる際、例えば金属探知機を使っているのであれば、テストピースサイズを、殺菌しているのであれば、殺菌の温度・時間などのパラメータも併記しておくといいでしょう。ゾーニング(清潔区・準清潔区・汚染区などの区分)を併記すること、施設の図面・動線(モノ・ヒトの動きなど)作成することも重要です。 講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より 図の上の行の(1)~(6)がISO22000の要求事項です。フローダイアグラムのすべての工程について、生物的・化学的・物理的な危害要因(と思われるもの)を列挙し、それらの危害要因が会社にとって重要かどうかをイエス/ノーで判断し、その根拠と、イエスの場合の対処法(管理手段)を記載します。全部の工程を取り上げますから、ワークシートは、ものすごく大きくなります。 講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より フローダイアグラムを作成し、現場確認を終えたら、ハザード分析に取りかかります。図表の真ん中あたりにある「調味酢漬け」の工程がCCP(重要管理点)になっています。この工程は重要で、ここが不十分だと病原菌が生き残り、消費までの間に増殖する可能性があります。管理手段は、まさに22番の工程のpHと漬け込み時間の管理です。この工程にしっかり取り組む必要がありますから、CCPに特定した例です。 同じくハザード分析でCCP に特定された金属探知工程を取り上げます。金属探知機で調べて金属片が製品の中にないことを管理基準とします。動作が確認できている金属探知機に連続的に全製品を流し、弾かれずに通ったものが金属がないものです(モニタリング)。万一、テストピースを排除しない場合、該当する範囲の製品を特定して隔離します。金属探知機の調整を行った後、金属片を除去した製品をもう一度、金属探知機に通し(改善措置)、検証し、記録します。 以下、2018年版の新規要求事項を説明します。「外部および内部の課題」は外部・内部環境の変化などによって生じた課題について記述します。例えば外部環境の変化に伴う課題は、お客さまのニーズが変わり、ある製品が売れなくなり、別の製品が売れるようになった、あるいは規制が緩和され、競合会社が参入してきたといったことです。内部環境の変化に伴う課題は例えば人員が高齢化していて若い人がいない、あるいは設備の老朽化が進んでいるといったことです。サイバーセキュリティ、食品偽装、食品防御も2018年版で新しく登場しました。 食品安全マネジメントシステム(FSMS)に密接に関連する利害関係者は誰か、その利害関係者は会社に何を求めているのかを明確にしなければいけません。利害関係者とは、お客さま、従業員、供給者(仕入先、外部委託先)、当局(農林水産省、地方自治体、保健所)などを指します。会社は利害関係者と、その利害関係者の要求事項に関する情報を特定する必要があります。例えば取引先(供給者)は取引の継続や単価・数量の拡大を望んでいるといったことです。 4.1 と4.2 を踏まえ、食品安全マネジメントシステム(FSMS)の適用範囲を決めなければなりません。この適用範囲は、きちんと文書化する必要があります。 4.1 、4.2 、4.3 を踏まえたうえで、リスクや機会を決定して取り組む必要があります。簡単にいえば、リスクとは経営レベルでの望ましくない影響、機会とは望ましい影響のことです。望ましい影響を増大させ、望ましくない影響を防止・軽減しなければなりません。 リスクや機会の取組みを食品安全マネジメントシステムに、きちんと組み込み、有効性の評価なども行う必要があります。注記に補足説明があり、リスクの対処の仕方としてリスク回避、リスク源除去、リスク共有、リスク容認があげられています。影響がさほど大きくないのなら、リスクを受け入れるという選択肢もあるわけです。 目標は食品安全方針と整合していることが求められます。規格には、(実行可能な場合)測定可能である、と明記されており、数値化していると、なおいい。例えば、クレームを前年は何件だったので、今年は何件以下にするといったことです。 資源はヒト、モノ、情報、方法など、いろいろあります。下の2つ(7.1.5と7.1.6)が2018年版で新たに加わりました。「外部で開発されたFSMSの要素」とは、例えば、受託加工なので、顧客から指定された条件があったとすると、そのまま丸ごとやるのではなく、条件に沿って設備や人員、製造方法などをアレンジしているかという要求事項が加わりました。ここは大事なポイントの1つです。 「外部から提供されたプロセス等の管理」は購買先や外部委託先、アウトソース先の管理がしっかり行われているかどうかが問われるということです。これに関してはFSSCを導入している企業は、要求事項に組み込まれているため、すでに取り組んでいますが、ISO22000だけの企業は、しっかりと取り組む必要があります。 「力量」は教育・訓練の話です。必要な力量を明確にし、その力量を身につけられるよう教育・訓練し、その教育・訓練の有効性を評価します。もちろん教育・訓練の記録、力量を証明する記録を残さなければなりません。 「認識」とは食品安全方針や関連するFSMS目標などに関する認識を持つことです。覚える必要はないのですが、きちんと認識しておかなければなりません。「FSMSの有効性に対する自らの貢献」「FSMS要求事項に適合しないことの意味」とは、それぞれのメンバーが食品安全方針などのルールに従って仕事をしていれば、安全な食品を提供できるという意味です。もし自分がルールを逸脱したら、安全でない食品をつくってしまうかもしれないということを一人ひとりが腑に落とし込むことが求められています。 「文書化した情報」とは2005年版の記録と文書のことです。ISO22000やISO9001に「文書化した情報を維持する」とあれば文書、「文書化した情報を保持する」とあれば記録を指します。 モニタリング、測定、分析、評価、内部監査などの結果をマネジメントレビュー(社長・経営陣へ報告)し、その結果を受けて社長・経営陣が判断、いろいろな指示・命令を出します。ポイントは必ず記録として残すことです。マネジメントレビューの記録がなければ不適合になります。 内部監査では適合性と有効性をチェックします。例えば「クレームを減らす」という目標を立てたら、クレームが減少していれば有効ですが、減少していなければ有効ではありません。有効でなかったら、どのように改善していけばいいのか、内部監査を、改善策を考えるきっかけとしましょう。 PDCAの最後のACTの部分で不適合が出たら、是正措置をとります。「なぜなぜ分析」で原因を掘り下げ、有効な対策を打たなければなりません。 講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より 本日、申し上げたことを最後に個条書きにまとめました。 講演資料:食品安全マネジメントシステムISO22000の基本と最新動向より 今回のレポートで取り上げたISO22000について、関連情報をご紹介します。 「スーパーカクテルCore FOODs」は、調達から生産、販売まで一元管理を実現し、業務プロセス最適化と製造業務のPDCAサイクル確立をご支援します。 食品、化成品などプロセス型製造業向けの製販一体型統合パッケージです。 食品の販売・生産・原価管理にお困りの際は、是非製品資料をご覧ください。食品業向けパッケージ「スーパーカクテルCore FOODs」の製品カタログダウンロードにつきましては下記お問い合わせフォームより承っております。 【本セミナーレポートに関する免責事項】 また第三者が提供している情報が含まれている性質上、3.ISO22000食品安全マネジメントシステム要求事項の解説
①運用の計画及び管理(≒HACCPシステム)HACCPとは?
ISO22000:2018の8 章要求事項(イメージ)
HACCPと一般的衛生管理との関係
ISO22000:2018 8.2 前提条件プログラム
HACCP構築の12ステップ
フローダイアグラムの例
ハザード分析の例(その1)
ハザード分析の例(その2)
HACCP プランの例
3.ISO22000食品安全マネジメントシステム要求事項の解説
②組織の計画及び管理(≒経営レベルでのPDCA)規格条項解説 4.1 組織及びその状況の理解
規格条項解説:4.2 利害関係者のニーズ及び期待
規格条項解説:4.3 食品安全マネジメントシステムの適用範囲の決定
規格条項解説:6.1 リスク及び機会への取組み(1)
規格条項解説:6.1 リスクおよび機会の取組み(2)
規格条項解説:6.2 FSMSの目標達成及びそれを達成するための計画策定
規格条項解説:7.1 資源
規格条項解説:7.2 力量 7.3 認識
規格条項 7.5 文書化した情報
規格条項解説9 パフォーマンス評価
9.2 内部監査に対する要求事項
規格条項解説 10 改善
4.まとめ
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