セミナーレポート

食品業界の今と2024年のトレンド

2024年4月17日に開催しました「食品業界の今と2024年のトレンド」についてレポートいたします。

 コロナ禍以降、食品業界は激動の時代を迎えています。原材料費や物流費の高騰やEC市場の拡大、新たな食材が注目されるようになるなど、業界を取り巻く環境は大きく変化してきました。

 今回は、2023年の食品業界の動向を整理し、2024年のトレンドはどうなっていくのかの予測について株式会社矢野経済研究所 大篭 麻奈氏に解説いただきました。

食品業界を取り巻く環境

実質GDPの推移:インバウンド回復は追い風も個人消費がマイナス

 2023年の実質GDPはインバウンド回復などにより、小幅でプラス推移となりました。国内の個人消費は物価の上昇や実質賃金の低下を背景に、やや鈍い動きとなりました。

消費者物価指数:食品は高い上昇率が続く

 生鮮食品を除く消費者物価指数は、負担軽減策による電気・ガス代の押し下げ効果が一巡し、前月より0.8%上昇しました。生鮮食品を除く食品は2023年後半からやや落ち着きを見せていますが、依然として高い上昇率が続いています。

消費者物価指数:食品は高い上昇率が続く

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

日経平均株価:史上初の40,000円を突破

 2024年に入り、日経平均株価は急上昇し、史上初となる4万円を突破しました。アメリカでは堅調な経済を背景にNYダウ平均株価が史上最高値を更新し続けています。また、円安を背景に輸出関連株が堅調で、価格転嫁の影響もあり、幅広い業種で業績伸長が見られます。

為替相場:金融政策転換発表後も続く円安水準

 ドル円相場は日銀によるマイナス金利政策の解除決定後も、介入水準の円安が続いています。円安による輸入コストの増加は大きく、食品業界では国際的な食糧価格の上昇が落ち着いても下がり幅が相殺される状況が続いています。

消為替相場:金融政策転換発表後も続く円安水準

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

インバウンド:コロナ前の約8割まで回復

 2023年のインバウンド消費総額は円安が追い風となり、2019年比で109.9%とコロナ前を上回りました。消費総額でも中国の構成比が低下しています。

中国の回復が鈍い

 地域別ではアジアの比率が約8割とコロナ前後で変わりませんが、韓国が増加し中国が減少と構成比に違いがあります。また、北アメリカや東南アジアなども増加しています。

中国の回復が鈍い

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

インバウンド:消費総額はコロナ前を上回る

 2023年のインバウンド消費総額は円安が追い風となり、2019年比で109.9%とコロナ前を上回りました。消費総額でも中国の構成比が低下しています。

インバウンド:消費総額はコロナ前を上回る

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

国内観光客:国内旅行者数はコロナ前の85%で推移

 2023年国内の旅行者数はコロナ前の約85%まで回復しました。うち、日帰り旅行客の回復が鈍化しており、特に30代と60代が低い傾向です。

国内観光客:国内旅行者数はコロナ前の85%で推移

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

国内観光客:菓子類の購入者単価はコロナ前より大幅増

 「出張・業務」区分での菓子類の購入状況は1.5倍以上と物価上昇以上の伸び率で、職場等へのまとめ買い需要と考えられます。

国内観光客:菓子類の購入者単価はコロナ前より大幅増

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

食品業界の現状

値上げ:2023年は乳製品などで大幅な上昇が目立つ

 2022年以降、食品業界で値上げが相次ぎました。総務省「小売物価統計調査」では、乳製品と水産加工品の上昇が目立ちます。乳製品は飼料の高騰や円安による乳価の引き上げ、水産加工品は水産原料の高騰や円安による輸入コストの増大が背景にあります。2022年は小麦加工品や油脂加工品で大きく値上がりしましたが、今はやや落ち着いています。

値上げ:2023年は乳製品などで大幅な上昇が目立つ

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

食品製造業の景況感:価格転嫁が進み堅調 2023年末は先行き不安視も2024年に回復

 食品製造業では2022年から価格転嫁が進み、複数回値上げする製品もありました。日本銀行「短観」によると、2022年は急速な円安進行や原材料の高騰などにより、足元・先行きともに景況感が悪化しましたが、2023年はやや改善の兆しが見られます。大企業に比べ中堅・中小企業の景況感はやや悪い傾向でしたが、足元では改善の兆しが見られます。先行きのDI(景気動向指数)も、2023年末はやや悪化傾向でしたが、2024年以降、改善の兆しが見えています。

食品製造業の景況感:価格転嫁が進み堅調 2023年末は先行き不安視も2024年に回復

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

2022年度上場企業の決算状況(食品製造業・卸売業)

 2022年度の食品製造業・卸売業の売上高は、値上げの影響により食品カテゴリー全てで増収となり、特に食用油や粉類は大幅に増収しました。一方で、営業利益は約半数のカテゴリーで、営業利益率も飲料と食品卸を除く全てのカテゴリーで前年より低下しました。

2022年度上場企業の決算状況(食品製造業・卸売業)

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

2023年度上場企業の決算状況(食品製造業・卸売業)※12月累計

 2023年度はやや改善が見られました。売上高は食用油を除く全てのカテゴリーで、営業利益は全てのカテゴリーで前年を上回りました。営業利益率も拡大の傾向があります。

2023年度上場企業の決算状況(食品製造業・卸売業)※12月累計

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

加工食品市場: “手軽”“本格的”“小容量”が広がる “健康”トレンドも引き続き好調

 加工食品市場は近年、「手軽さ」「本格的」「健康」がトレンドです。2023年は、これに「小容量化」が加わりました。2022年以降、既存の加工食品は度重なる価格改定による割高感対策として、商品を小容量化し、手に取りやすい価格帯にする動きがありました。物価上昇で節約志向が強まり、今後も内食化が増加する見通しです。

 外食ブランドが監修する加工食品が増加しています。単価は高めですが、家庭で手軽に外食レベルの本格的な味わいを楽しめる点が支持されています。

 加工食品の市場規模は、2021年度以降、業務用食品の需要回復と価格転嫁の影響で、プラスで推移しています。

加工食品市場: “手軽”“本格的”“小容量”が広がる “健康”トレンドも引き続き好調

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

飲料:睡眠・免疫ケアなど機能性飲料が好調

 2022年度の飲料市場は行動制限の緩和や猛暑により、止渇目的の清涼飲料水や炭酸飲料などの需要が回復しました。家庭需要が多い乳系飲料などは、巣ごもり需要の反動から縮小しています。2022年度下期からは、飲料メーカーによる価格改定でやや動きが鈍化しました。2023年度も販売数量減が懸念されていましたが、猛暑と人流回復が追い風となり、5兆円を突破する見通しです。

 コロナ禍で「免疫」や「睡眠」などの新たなニーズが顕在化し、乳酸菌飲料市場が活況でした。他にもレトロ/ニュートロ人気を反映し、喫茶店ドリンクやクラフト系飲料などをペットボトル飲料に導入する動きがあります。ECではラベルレス商品が定着しています。

菓子:ギフト需要回復 自家需要はコスパの良さが重要

 2023年度の菓子市場は土産需要が回復し、コロナ時に縮小した和・洋菓子市場がプラスで推移しています。製造小売系の和・洋菓子は、多くの企業で価格改定がありましたが、需要回復がそれを上回り、マイナス影響はほとんどありません。インバウンド回復も追い風となっています。

 焼き菓子ブームが継続中で缶入りクッキーが人気ですが、2023年度に缶容器の価格が値上がりし価格転嫁が進んだことで、明暗が分かれています。新商品にガレットを投入するブランド企業が増えています。生菓子は2023年以降ドーナツがブームで、飲食業界やパン業界からの参入も見られます。他にも、カプセルトイを活用したマーケティング、ブランディングの手法が注目されています。

酒類:飲酒スタイルは多様化 低アルやノンアルは堅調、ストロング系は縮小

 2022年度の酒類市場は業務用需要の回復により好調に推移しましたが、長期トレンドでは縮小傾向が続きます。ビール・ウイスキー・ワインは業務用で増加した一方、巣ごもり需要の反動で一般家庭用は減速しました。低アルコール飲料は15年ぶりに縮小し、家庭用缶ビールが苦戦しました。

 2023年度の市場規模は前年比0.6%増と予測しています。2023年度は酒税法改正によりビールが減税となり、各社でビールの新ブランドを投入し強化しています。一方、新ジャンルは価格上昇で他のカテゴリーへ流出するなど、転換期を迎えています。

 若年層を中心にRTS(Ready To Serve:スピリッツやリキュールなど)が人気です。ビールは若年層向けに飲みやすさにフォーカスした商品開発が目立ちます。今後ストロング系はシュリンクすると予想されています。それはWHOが飲酒による健康リスクを発表し、これを受けて厚生労働省が純アルコール量に基づく「節度ある適度な飲酒」と指針を発表したためです。各メーカーは対応を迫られています。

レトルト食品:レンジアップへのシフトが進み、より“簡便化”と“本格的”が求められる

 レトルト食品は近年、レンジアップへのシフトが続いています。今後はより簡便で、本格的な味わいが求められるでしょう。味わいのトレンドとして、レトロブームの延長でボロネーゼやナポリタンのパスタソースが増加しました。

インスタント食品:割高感が出た袋麺で3食タイプを投入

 即席袋麺は5食入りが主流ですが、2023年頃から3食入りが増えています。健康志向や世帯人数の減少、度重なる価格改定で、5食入りに割高感が出てきたことから、3食入りにし、店頭回転を高める取り組みが進められています。

冷凍食品:変わりゆく冷凍食品売場と冷凍食品の用途

 市販用の冷凍食品市場はコロナ禍で拡大した後、反動を受けて減少しました。値上げもあり金額ベースでは伸長していますが、数量ベースでは微増にとどまっています。冷凍食品に特化した店舗がオープンするなど、売り場に変化が見られます。ケーキなどの生菓子や惣菜の分野などで、自販機を活用した販売が広がっています。冷凍食品はこれまで弁当用途などがメインでしたが、オフィスワーカーのランチなど新しい需要を獲得しています。日配の惣菜や弁当需要を取り込めると、冷凍食品市場はより拡大すると予想されます。

トレンド①:完全栄養食

 完全栄養食市場はコロナ以降、大きく拡大しています。海外ではプロテインパウダーの商品形態が多いですが、国内ではなじみのある加工食品形態で拡大が続いています。

トレンド①:完全栄養食

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

トレンド②:プラントベースフード

 プラントベースフード市場は2020年以降、拡大が続いています。環境への配慮や健康志向の高まりが背景にあります。これまでは代替肉が中心でしたが、2023年度はシーフードや代替卵の商品化が進みました。海外ではブームが一巡したといわれていますが、日本ではインバウンド対応もあり、業務用需要が拡大しています。

トレンド②:プラントベースフード

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

トレンド②:プラントベースフード(植物性ミルク)

 植物性ミルクの市場規模も拡大が続いています。市場の約6割は豆乳が占めていますが、大豆由来以外の植物性ミルクも拡大しています。特にオーツミルクは新商品が相次ぎ、市場をけん引しています。

 海外での摂取動機は環境のためであることが多く、製造方法や容器なども環境に配慮しているかを気にする傾向があります。日本ではアーモンドミルクが広く飲まれていますが、海外ではアーモンド栽培で大量の水が使われることを気にして、オーツミルクを選ぶ消費者が多いようです。

トレンド②:プラントベースフード

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

食品スーパー:値上げ効果もあり2019年比でプラス推移が続く

 食品スーパーは、食料品の値上げ効果もあり、プラス推移が続いています。2023年は、2月を除く全ての月で前年同月実績を上回りました。2024年1月・2月も、前年同月比増となっています。

食品スーパー:値上げ効果もあり2019年比でプラス推移が続く

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

食品スーパー:節約志向による内食化で堅調 美味しさ・クオリティ・楽しさ等が重要

 売上高DIは2022年9月以降、回復基調です。2023年は前月を下回る月もありますが、おおむね堅調に推移しました。来店客数DIは2022年より回復基調ですが、マイナス推移が続いています。客単価DIは値上げ効果でプラス推移が続いています。

 値上げの初期は購入点数が減少し、客単価にマイナス影響がありました。今は節約志向による内食化のため、おおむね堅調に推移していると捉えていいでしょう。

食品スーパー:節約志向による内食化で堅調 美味しさ・クオリティ・楽しさ等が重要

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

コンビニエンスストア:来店客数はコロナ前に回復せず

 コロナ禍でオフィス街を中心に来店客数が落ち込みました。徐々に回復していますが、コロナ前と比較して100%回復には至っていません。既存店の平均客単価は、110~120%の間で推移しています。これは食品の値上げにより客単価が引き上げられたためで、既存店売上高のプラス推移はこの影響と見られます。

コンビニエンスストア:来店客数はコロナ前に回復せず

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

大手CVSチェーンの2024年度商品戦略:タイパ・コスパ意識高まる

 大手コンビニチェーンの商品戦略には、タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)を意識した商品展開が目立ちます。これは2023年からある傾向で、2024年も続く見込みです。

大手CVSチェーンの2024年度商品戦略:タイパ・コスパ意識高まる

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

食品通販:配送料値上げによるマイナス影響が懸念

 食品通販市場はコロナ禍で拡大しましたが、2022年度は人流の回復により反動減となりました。2023年度も伸び率は鈍化しています。食品は比較的堅調ですが、反動は避けられない状況です。

 コロナ禍で生まれた需要の一部定着や、ギフトの堅調な推移、値上げによる販売金額増加が、市場にプラス影響を与えています。一方で、お取り寄せグルメなどの商品はコロナ禍で拡大した反動が大きくなっています。節約志向の強まりから、サブスクリプションサービスも明暗が分かれています。

 物流コスト上昇による配送料の値上がりや、それに伴う食品通販サービスの割高感、「送料無料」表示の見直しなどが、今後足かせになると予想されます。

食品通販:配送料値上げによるマイナス影響が懸念

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

外食:インバウンド回復と値上げの浸透でコロナ前水準を上回る

 外食市場は2021年度以降、徐々に回復しています。2022年度は行動制限の緩和などが市場にプラスに働きました。2023年度はインバウンド回復や価格改定の浸透による押し上げ効果により、大きく回復すると見ています。外食の回復に伴い、業務用食品の需要回復も見られます。フードデリバリー市場は、コロナ収束後も需要は堅調ですが、店内営業の忙しさや人手不足により、小規模個人店を中心にデリバリー対応をやめる店舗が出ています。

外食:インバウンド回復と値上げの浸透でコロナ前水準を上回る

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

中食(日配惣菜・米飯):首都圏を中心としたおにぎりブーム、キッチンカーも好調

 日配惣菜や米飯が対象の中食市場は、単身・共働き世帯の増加に伴い、堅調に推移しています。長期保存が可能なパウチ惣菜や冷凍弁当・惣菜のニーズが増加していますが、日配の惣菜・米飯も引き続き堅調です。キッチンカーのように、人が集まる場所に移動して販売する事業モデルが台頭しています。弁当・惣菜は、商品や販売手段を変えながら、消費者の日常に深く浸透しています。

中食(日配惣菜・米飯):首都圏を中心としたおにぎりブーム、キッチンカーも好調

講演資料:「食品業界の今と2024年のトレンド」より

まとめ

 国内の企業業績は比較的堅調に推移していますが、実質賃金の上昇までには至っておらず、節約志向は今後も強まると予想されます。日常生活では節約し、旅行などの余暇では思いっきり楽しむなど、消費の二極化が広がると予想されます。外食などのぜいたくを控え、内食化する傾向が続くでしょう。家庭で手軽に楽しめる本格的な味、外食クオリティーのおいしさ・楽しさをいかに提供するかがポイントになると考えられます。また、インバウンド需要の獲得が、業績貢献につながると考えられます。

大篭 麻奈氏
講師ご紹介
株式会社矢野経済研究所
フードサイエンスユニット フードグループ
大篭 麻奈 氏

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