セミナーレポート

完全施行が目前に迫るポジティブリスト(PL)制度と企業の対応


 2025年2月19日に開催しました「完全施行が目前に迫るポジティブリスト(PL)制度と企業の対応」についてレポートいたします。

 食品衛生法等の一部を改正する法律により2020年6月1日から施行されたポジティブリスト制度の経過措置が2025年5月31日で終了し、ポジティブリスト改正も施行されます。
 本セミナーでは、完全施行を迎えるポジティブリスト制度の概要のまとめと、食品メーカーの対応と留意点について、西包装専士事務所 代表 西 秀樹 氏に解説いただきました。

包装を取り巻く環境

 包装を取り巻く環境として、安全問題の頻発、国際商品化、環境問題などが挙げられます。

講演資料:「完全施行が目前に迫るポジティブリスト制度と企業の対応(PL)」より

食品包装法規制の基礎

材料別使用割合

 食品包装の多くにプラスチックが使われているため、規制対象はプラスチックになります。


講演資料:「完全施行が目前に迫るポジティブリスト制度と企業の対応(PL)」より

食品包装の安全性とは

 食品包装の安全性を保つために、原料樹脂と容器包装のそれぞれに規制が必要です。PL(ポジティブリスト)制度化により、原料樹脂はPL適合が基本となります。容器包装は溶出量規制が基本ですが、PL制度化後も規制はこれまでどおりです。

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販売国の食品包装規制が適用される

 販売国での食品包装規制が適用されるため、輸出国の規制は直接関係しません。しかし、GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)は世界共通であり、必要に応じて品質監査を行うことができます。

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日本の法規制とPL制度化

食品衛生基準行政、食品衛生法

 これまで樹脂の規格はありませんでした。そこで、食品衛生法18条「器具等の規格及び基準」に第3項を追加してPLを規定することになりました。

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表1 食品衛生法の規制対象

 資料に規制対象となる器具等の事例を示しています。例えばタンクは表面が金属でも、内側に樹脂コーティングがあればPLの対象となります。

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表2 食品衛生法の規制の内容

 食品・添加物等の規格基準は1つしかありません。原料樹脂のPLは約40年間業界自主基準でしたが、東京五輪を契機に2020年、国のPL制度へ移行しました。

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PLとNL

 PLは安全性を評価して使用が認可された物質のリストです。食品添加物などが含まれます。
 一方、NLは発がん物質など安全衛生上、人体や環境に有害な恐れのある有害物質のリストです。PLは世界基準であり、リスク管理の基本となります。

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表3 一般食品の規制の構成(告示第370号)

 表中のDは、材質別の規格です。ガラス、合成樹脂、ゴム、金属の4材質のみで、紙の規制はありません。表中のEは用途別の規格です。印のある項目は改正予定です。

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表4 合成樹脂の規格(告示第370号)の概要

 合成樹脂の一般規格は、主に重金属の規制です。個別規格は14樹脂にあり、溶出試験は最も重要な試験となります。

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表5 食品衛生法における着色料

 これまで包装材料のPLが唯一着色料にだけあり、食品に使ってよいものは、容器包装に使ってもよいとされています。
 しかし、色材のPLは作られなかったため、添加剤扱いとなります。

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図1 日本の食品包装規制の仕組み

 これまで業界自主基準であった原材料のうち、樹脂、添加剤、色材は2020年6月にPL制度に移行しました。これにより、原料樹脂と容器包装それぞれの規制が整いました。

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業界自主基準の現状

 現在、印刷インキ、ラミネート用接着剤、紙には規格がなく、規格化は今後の課題となっています。

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表7 印刷インキのNL(印刷インキ工業連合会)

 印刷インキのNLには約1,000物質あります。世界はPLにしています。日本も規格化する必要があると思います。

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日本の樹脂の証明書類の流れ

 添加剤や着色剤は樹脂メーカーが購入し、PL導入適合証明を加工メーカーに出します。加工メーカーは食品メーカーに包装の告示第370号適合証明書と、樹脂のPL適合証明を提示します。このように、樹脂と包装両方の食品衛生法適合が義務化されました。

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PL制度化の進捗状況、現行制度の問題点

 現行制度の問題点は、欧米のPL制度に適合しないが、日本の制度上では特に問題のない物質の流入があることです。

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改正の趣旨と経緯

 2018年に改正が成立しました。改正の趣旨で、厚労省が初めて「国際的整合性」に触れました。2025年6月1にはPL制度が完全施行され、同時に改正PLが施行されます。ここからは主に改正PL制度を見ていきます。

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HACCPの制度化②

 日本でHACCPの普及率は、全体で29%と大変低い状態です。

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諸外国のポジティブリスト制度導入の動き

 世界中でPL制度が導入されています。日本は2020年に導入し、韓国、台湾、カナダなどでも導入が検討されています。

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農林水産物の輸出入額の推移

 日本の輸出額をさらに伸ばすためには、GMPとPLの導入が必須です。

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PL規制対象

 PL規制の対象は、基ポリマーと添加剤です。食品接触面の樹脂は全てPLに収載されなければ使用できません。

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表1 樹脂の主な添加剤

 樹脂の中身はさまざまですが、安定剤、界面活性剤、滑剤が主な添加剤となります。

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事業者間の適切な情報伝達(概要)

 原材料製容器製造事業者とは樹脂メーカー、容器等製造事業者は加工メーカー、容器等販売事業者は二次加工メーカー、食品製造・販売事業者は食品メーカーを指します。
 加工メーカーはPL適合を確認できる情報を提示することが法的義務となっています。そして、食品メーカーは消費者にPL適合を確認できる情報を提供する法的義務はありますが、情報伝達の方法は特定されていません。尋ねられた場合に適合していることを示す必要があります。HACCPでも購入原材料の容器は規制対象になっています。
 樹脂メーカーは、PL適合を確認できる情報の提供が努力義務となっています。私は、これはおかしいと思っています。添加剤の配合は樹脂メーカーしか知りません。そのため、樹脂メーカーが情報を発信しなければ、その先に進みません。何度も指摘しましたが、改正されませんでした。

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現行の4PLと改正PL

 現在、PLは4つ、収載物質数合計は約4,600ですが、2025年の改正で、約2,600とスリム化します。基ポリマーが約1,800物質、添加剤等が840物質と、PLが2つになります。
 改正PLでは、重複・類似物質を統合し、天然高分子物質や無機物質は使用可能であるため除外されました。また、日本のローカルルールとして、モノマーがコード化されました。これは樹脂メーカーが確認すればいいことです。加工メーカーや食品メーカーはあることだけを知っておいてください。

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◇現行PLの問題点

 現行のPLには、同一や類似物質に複数の番号が存在する問題がありますが、改正により、統廃合されます。

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①合成樹脂の原材料の範囲

 無機のフィラー類や天然高分子物質はPLから除外され、第1表(基材)、ポリマーと、第2表(添加剤)に集約されました。

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②第1表(基材)の再整理<全体像>

 基ポリマーは5区分に整理されました。ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)は区分2のbに、ポリエチレンテレフタレート(PET)等は区分3のdに入りました。物質名は化学用語で分かりにくくなっています。
 例えば区分1のe「フッ素置換エチレン等」とは、ピーファス(PFAS)に含まれるフッ素樹脂のことです。

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樹脂は21グループ化

 樹脂は21グループ化され、材質で5区分に分けられました。フッ素置換はフッ素系樹脂、エステル結合はPET、アルケン類はPE、PP、ブポリブテン(PB)、芳香族炭化水素はポリスチレン(PS)、アミド結合はポリアミド、ナイロンのことです。

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PEとPPの呼称例

 13グループの必須モノマーに、101アルケンがあります。資料の表にCAS登録番号がありますが、これがPE、PP、PBを指しています。全てが「アルケン13-101から成る重合体」となり、PEとPPの区別も、ホモかコポリマーかの区別も分かりません。

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PEのCAS登録番号

 CAS登録番号とは化学物質に付与しているもので世界共通ですが、PLを見ても分からないため気にしなくてよいです。SDS(Safety Data Sheet:安全データシート)にCAS登録番号が記載されています。樹脂メーカーから入手できます。

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添加剤の改正PL(和英併記版)

 添加剤の改正PLは和英併記版となっています。購入先が海外の場合は、和英併記のPLを提示し、使用している添加物の確認を依頼する必要があります。PL適合性を確認するために、物質名が収載され、使用制限を満たす必要があります。PL適合性の確認ができたら証明書が発行されますので入手してください。

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経過措置期間(第196号)

 5年の経過措置期間が設けられていました。PL制度の完全施行と改正PLの発行は同日で、残り3カ月を切りました。PL制度は世界共通であり、日本もようやく追いつくことができました。

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PL適合証明書―2-回答文の例

 PL適合証明書は、製品名とPL適合の趣旨が書かれた簡単な文書です。シンプルすぎて不安に思われるかもしれませんが、これが世界共通であり、慣れるしかありません。日本ではPL適合証明書をホームページに掲載する会社が増えています。

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器具・容器包装製造事業者における製造管理(概要)

 製造管理の基本的な考え方はISO 9001sと類似しています。樹脂は適正製造管理に、それ以外の紙や金属は規格がないため一般衛生管理基準に従う必要があります。ISO 9001sを取得していれば、これらの管理基準はクリアできます。

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残された問題点の例

 着色用MB(マスターバッチ)使用時のPL適合証明には、樹脂メーカーとMBメーカー双方から添加剤配合入手が必要ですが、秘密保持の面から難航することが多く、課題として残っています。

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QA集から(消費者庁)

 複数の層からなる構成体の解釈について、食品に接触する樹脂面はPL適合、全ての樹脂が合成樹脂の場合、非接触面は人の健康を損なうおそれのない量であればPL対象外です。これは世界共通の認識であり、数値も決まっています。しかし、それを証明するのは困難です。
 そのため、接触面の樹脂も非接触面の樹脂も全て、PL適合の物質を使ってください。紙や金属など食品に接触する層が合成樹脂以外の材質の場合はPL対象外です。この解釈は変則的で、質問が多く、悩ましい部分です。

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人の健康を損なうおそれのない量について

 接触面の樹脂の外側にインキ・接着剤があると、その中に含まれる樹脂が移行する可能性があります。その量が0.01mg/kgであれば、人の健康を損なうおそれのない量とされます。機能性バリアの国際的に共通する考え方で、WHOも採用しています。

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拡散モデルによる移行量把握も可(EU)

 SGSジャパン株式会社が拡散モデルを示しています。しかし、証明するのには費用がかかります。

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企業の対応

法規制適合証明の進め方

 法規制適合証明は2点の証明書が必要です。PL適合証明書は樹脂メーカーから加工メーカーに、加工メーカーから最終加工メーカーに、最終加工メーカーは食品メーカーに伝達します。多くの場合は、消費者にまで開示せずここで終わります。輸入品は和英併記のPLを提示し、確認を依頼してください。樹脂メーカーと直接折衝するため、比較的容易に進みます。

 問題は加工品輸入です。加工メーカーを通して折衝するため、樹脂メーカー名の開示には難航する例があります。粘り強い説得が必要です。販売国の法規制順守が必要です。販売先の基準をよく調べてください。

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日本人は物作りは上手いが、基準作りは苦手?

 食品包装協会の理事長が「日本の包装はガラパゴス化している。2018年を脱ガラパゴス化元年にしよう」と発言されています。
 企業の品質保証部の方は、ぜひもう一度PL制度への対応を確認してください。特に金属のタンクやチューブは要注意です。残り3カ月です。

講演資料:「完全施行が目前に迫るポジティブリスト制度と企業の対応(PL)」より


 講師ご紹介 
西包装専士事務所
代表
西 秀樹 氏

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お役立ち記事


制度概要と事業者に求められる対応、経過措置から罰則までわかりやすくまとめました。

お役立ち資料


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