食品用器具・容器包装のポジティブリストとは? 改正食品衛生法をチェック

公開日:2024.2.13
更新日:2024.2.16

食に関わる全事業者必読、食品業界はこう変わる

2020年に施行された改正食品衛生法において、食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度が導入されました。食に関わる全事業者が対象となり、罰則もあるため、制度についての正確な理解は不可欠です。本稿では、制度概要と事業者に求められる対応、経過措置から罰則までわかりやすくまとめました。ぜひお役立てください。

ポジティブリスト(PL)制度とは?

食品用器具・容器包装のポジティブリスト(PL)制度とは、食品と接触する可能性のある食品用器具・容器包装について、安全性を評価し使用を認められた物質や使用可能な量などの条件をまとめた一覧表(ポジティブリスト)を作成し、それ以外の使用を原則禁止するという規制の仕組みです。

ポジティブリストでは、基ポリマーごとに「食品区分」「最高温度」「合成樹脂区分」が設定されます。


また、原材料として混入される添加剤についても合成樹脂区分ごとに使用の可否や使用制限が記載されています。

厚生労働省「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(2025年5月31日まで)」より転載

ポリマーとは?

同じ種類の分子が多数結合して高分子となるとき、結合前の小さな分子をモノマー(単量体)と呼ぶのに対して、複数のモノマーが重合した化合物をポリマー(重合体)と呼ぶ。【例】エチレンが重合したポリエチレンなど

厳密には天然高分子(天然樹脂)と合成高分子(合成樹脂)に分類される。プラスチックの必須構成成分。

1.2020年の改正食品衛生法で義務化

食品用器具・容器包装のポジティブリストは、平成30年(2018年)に公布された食品衛生法等の一部を改正する法律においてHACCP(ハサップ)制度化とともに導入され、令和2年(2020年)6月1日に施行されました。食品用器具及び容器包装については、食品衛生法第18条に基づき規格基準が定められていましたが、第3項として新設された恰好です。

制度の目的は、食品衛生管理の向上及び国際整合的な規制の整備であり、その効果については大いに期待されています。一方で、罰則があり、容器等製造・輸入・販売事業者のみならず、食品製造・販売事業者もリストの遵守が求められるため、食にかかわる事業者は例外なく注意が必要です。

杉浦 嘉彦

HACCPの詳細については株式会社鶏卵肉情報センター 杉浦嘉彦氏の連載コラムでも詳説しています。

2.ネガティブリストとポジティブリストの違いは?

改正前の食品衛生法では、禁止されている材料・物質や基準値をリスト化し、それ以外を許可するネガティブリスト(NL)制度が採用されていました。ただ、この方式では、リストに掲載されていない未知の物質については、適切な対応ができません。食品用器具・容器包装について新素材が続々と開発される現代の食品業界の実態を踏まえれば、いささかそぐわないといえるでしょう。

それでもこれまでは業界団体の自主規制によって成り立っていましたが、HACCP同様、海外基準に合わせた法改正が為され、制度導入に至ったという経緯です。

海外のポジティブリスト事情は?

米国では1958年、EUでは2010年にいち早くポジティブリスト制度が導入されています。その他、イスラエル、インド、中国、インドネシア、ベトナム、オーストラリアなどでも同様の制度が採り入れられており、韓国やタイでも検討中。食品の輸出にあたっては相手国側の規制に従う必要性があることを考えれば、ビジネスのグローバル化に対応するためにも、わが国でも国際基準に適合したポジティブリスト制度構築は避けられない流れであるといえるでしょう。

ポジティブリストの対象は?

1.対象となる物質

現在、ポジティブリストの対象となっているのは、合成樹脂製の器具・容器包装です。ペットボトルやラップに代表されるように幅広く使用されていることから公衆衛生への影響が特に大きいこと、欧米などの諸外国においてポジティブリスト制度の対象になっていることが主な理由です。

表1 合成樹脂の分類

熱可塑性あり 熱可塑性なし
プラスチック 熱可塑性プラスチック
【例】ポリエチレン、ポリスチレン
熱硬化性プラスチック
【例】メラミン樹脂、フェノール樹脂
エラストマー 熱可塑性エラストマー
【例】ポリスチレンエラストマー、
スチレン・ブロック共重合体
ゴム(熱硬化性エラストマー)
【例】ブタジエンゴム、ニトリルゴム

器具

飲食器、割烹具(調理器具)、その他、食品または添加物の製造・調理・貯蔵・運搬・陳列・授受などに供され、食品または添加物に直接接触する機械、器具など。※農水産業における機械・器具は含みません。

コップ、茶碗・箸、スプーン、包丁・まな板

容器包装

食品または添加物を入れ、あるいは包んでいる物で、食品または添加物を授受する際、そのまま引き渡すものをいいます。箱、袋、包装紙などがこれに当たります。


2.対象とならない物質

合成樹脂には、熱可塑性を持たない弾性体であるゴムは含まれません。その他、金属などの無機物や紙、木製など、天然物由来の器具・容器包装も対象となりません。一方で、紙容器や金属缶であっても、表面に合成樹脂のラミネートがあれば、当然ながらポジティブリストの対象となります。

その他、原材料に含まれる物質が化学的に変化して生成した物質、また、食品に接触しない部分に使用された物質(印刷インキや接着剤など)で、健康を損なうおそれのない量を超えて溶出・浸出しない物質も、ポジティブリストの対象外となっています。

おそれのない量とは?

改正食品衛生法では、食品に接触せず人の健康を損なうおそれのない量を超えて食品に移行しない場合、リストに収載された物質以外でも使用可能とされている。厚生労働大臣が定める量は0.01mg/kg食品

ただ、厚生労働省は「まずは合成樹脂を対象としてポジティブリスト制度を導入する」という言い回しをたびたび使用しており、それ以外の材質については、引き続き規制の必要性や優先順位を検討する意向を示しています。ポジティブリストについては、時勢に合わせて随時更新が為されていくものと考えられるため、最新情報へのアップデートは不可欠といえるでしょう。

ポジティブリストのメリット

ポジティブリストは細かな規制が並ぶ内容となっており、対応を求められる食品事業者側の業務負担はけっして小さくありません。一方で、さまざまなメリットもあります。

1.製品開発と工程管理の効率化

許可された安全な物質があらかじめスクリーニングされているため、それに基づいた効率的な製品開発や工程管理が可能になります。

2.食品品質の安全性を確保

食品品質と安全性、ブランド価値をアピールしやすくなり、顧客からの信頼獲得に役立ちます。また、製品リコールなどのリスク低減を図ることができるでしょう。

3.グローバル展開がスムーズに

ポジティブリストは国際的な食品安全管理基準とも連携しているため、海外事業者や海外の顧客との取引でのトラブルを未然に防ぎます。

事業者に求められる具体的な対応

ポジティブリスト制度は、食品製造・加工・調理・輸入・流通・小売を含む食品関連業務に携わる全事業者に適用されます。その事業規模は問いません。

事業者に求められる具体的な事項は主につぎの3つ――適正製造管理規範(GMP)の遵守事業者間の情報伝達器具・容器包装製造事業者の届出です。

1.適正製造管理規範(GMP)の遵守

食品用器具・容器包装製造事業者は、製造管理に関する省令で定められた基準に従い、適正製造管理規範(GMP;Good Manufacturing Practice)の遵守が必要となります(改正食品衛生法第50条の3)。

適正製造管理規範については、食品衛生法施行規則 第66条の5のなかで定められています。

適正製造管理規範――食品衛生法施行規則 第66条の5

  1. 令第1条で定める材質の原材料は、ポジティブリストに適合するものを使用する
  2. 器具/容器包装の製品設計にあっては、ポジティブリストに適合すること及びその製造工程が同基準に適合していることを確認する
  3. 必要に応じて食品衛生上の危害の発生、そのおそれを予防するための措置を分析、管理が必要な要因を特定する
  4. 前号の管理が必要な要因については、食品衛生上の危害の発生を防止するために必要な製造/管理の水準と管理方法を定め、適切に管理する
  5. 原材料及び器具/容器包装が適切な管理水準を満たすことを確認する
  6. 適切な管理水準を満たさない原材料または器具/容器包装、回収した、あるいは食品衛生上の危害が発生するおそれのある器具/容器包装については、対応方法をあらかじめ定めておく
  7. 適切な管理水準を満たさない原材料または器具/容器包装、回収した、あるいはその他食品衛生上の危害が発生するおそれのある器具/容器包装については、前号の規定により定められた方法に従い対応する
  8. 製造に使用した原材料及び製造した器具/容器包装の一部を必要に応じて保存する

2.事業者間の情報伝達について

食品用器具・容器包装については、当然ながら製造から流通までのサプライチェーンのなかで複数の事業者が関与することになります。そのため、製造者から食品販売業者へ、食品用器具・容器包装がポジティブリストに適合していることを説明することが義務づけられました(食品衛生法53条)。

伝達する情報

ポジティブリストへの適合性の確認に資する情報
【例】営業者間の契約締結時における仕様書、入荷時の品質保証書、業界団体の確認証明書等

情報伝達の手段について、特段の定めはありません。ただ、事後的に確認できるものとされており、口頭のみの説明はNGとなります。書面や電子データで記録・保存しておけば、トラブルは起きづらいでしょう。

3.器具・容器包装製造事業者の届出制度

改正前の食品衛生法においては、地方自治体が食品用器具/容器包装の製造事業者を把握する仕組みがないことが問題となっていました。それを受けて、新設された食品衛生法第57条において、合成樹脂製器具・容器包装の製造・加工事業者に対して、都道府県知事(管轄の保健所)への届出が義務づけられました。

これにより、関連事業者の把握と監視を行なえる体制の確立が進んでいます。

表2 器具・容器包装製造事業者の具体的な届出事項案

項目
申請日
申請者
(法人にあっては、その名称、主たる事務所の所在地及び代表者の氏名・ふりがな、住所、生年月日、電話番号、FAX番号、電子メールアドレス)
営業所
(名称、屋号または商号、車両番号※移動営業の場合、住所、電話番号、FAX番号、電子メールアドレス)
主として取り扱う器具・容器包装
(器具/容器包装及びポジティブリスト対象材質の別)
※器具・容器包装の販売業については届出不要

経過措置と罰則について

ポジティブリスト制度について、経過措置と罰則が設けられていますので、それぞれ整理してみましょう。

1.経過措置

従来のネガティブリスト制度からポジティブリストへの転換は、現場の混乱を伴うことも大いに予測できるところです。そのため、施行後5年が経過する令和7年(2025年)5月31日までは、経過措置が適用されます。

施行前に流通等していた食品用器具/容器包装と同様のものは、経過措置期間中についてポジティブリストに収載しているものと見なされ、使用/製造が可能です。

ただ、もちろん情報伝達などの義務は同様に課されます。記録や保存が義務づけられているのも同様です。また、施行後5年間の経過措置期間を過ぎれば、ポジティブリストに収載されていない物質は使用できなくなります(経過措置期間中に製造されたものは可!)。注意が必要といえるでしょう。

2.罰則

食品衛生法 第73条では、ポジティブリストの規定に反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処する旨が定められています。

罰則

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食を巡るビジネスのグローバル化に伴い、ポジティブリストを遵守した食品衛生の徹底は、食品事業者/容器包装製造販売事業者にとって避けて通れない課題です。万全を期すならば、製造工程の段階で、HACCPに沿った衛生管理計画のなかにポジティブリスト制度への対応/見える化までを含めるべきでしょう。システムを導入すれば、そうした対応も容易になります。

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よくある質問

Q.食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度はいつから始まりますか?
A.2018年(平成30年)6月13日に公布された食品衛生法等の一部を改正する法律により、食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみを使用可能とするポジティブリスト制度が導入されました。2020年(令和2年)6月1日から施行されていますが、2025年(令和7年)5月31日まで経過措置期間が設けられています。
Q.食品用器具・容器包装のポジティブリストの対象外となるのはどんな物質ですか?
A.2024年2月現在、食品用器具・容器包装のポジティブリストの対象となっているのは合成樹脂製のものに限られます。熱可塑性を持たない弾性体であるゴムは含まれず、その他、金属などの無機物や紙、木製など、天然物由来の器具・容器包装も対象となりません。ただ、紙容器や金属缶であっても、表面に合成樹脂のラミネートがあれば、当然ながらポジティブリストの対象となります。
Q.食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について、輸入品の扱いについてはどうなりますか?
A.2020 年6月1日以降に輸入される製品についても対象となります。輸入業者はその製品について、ポジティブリストに適合しているもののみを使用していること、また、 食品に直接接触する部分以外でポジティブリスト外の化学物質を使用する場合は定める量を超えて溶出し、または浸出して食品に混和するおそれがないように加工されていることを説明する必要があります。
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