HACCP制度化について

はじめに

 世界各国の食品安全法制の流れ、国内の食品事故の現状及び高齢化による食中毒リスクの高まりなどを背景に、HACCP(ハセップまたはハサップと読む)を義務化するため、食品衛生法の改正案が通常国会で審議されています。
 フードチェーンを構成するすべての事業者が規制の対象となり、これまで営業免許を必要としなかった事業者もHACCPの考え方をベースとした仕組み作りが求められることとなり、食品業界全体への影響が大きい法改正となります。
 今回は、HACCPの概要と併せてHACCP制度化の内容について説明します。

HACCPとは

(1)起源と歴史

 HACCPの考え方は、1960年代にアメリカの宇宙開発に伴って構想されてきたとされます。宇宙での食中毒は生死に直結するリスクとなるため、宇宙食に求められる高い安全性を追求する必要がありました。現在でも日常的に実施されている製品検査は、製造後の製品を抜き取って安全性を調べるものですが、検査をされていない残りの個体が安全かどうかは100%保証されるものではありません。そのため、全く別の考え方で安全性を確保する必要があり、各製造工程で安全性を担保するHACCPの思想が提唱されました。
 現在では、コーデックス委員会の食品安全規格にあるHACCPシステムがゴールデンスタンダードとして世界中で認知されています。コーデックスの食品安全規格は、CODEX食品衛生基本テキスト(原文:FOOD HYGIENE BASIC TEXTS、発行元:株式会社鶏卵肉情報センター)として日本語訳を購入することが可能です。

(2)HACCPの概要

 HACCPシステムの手法は体系化されており、世界中で活用されて効果も確認・検証が出来ています。HACCPシステムのコア部分は7つのステップから構成されており、このステップに先立ち、準備段階として5つの手順があります。以下に7つのステップ(原則)を含む12の手順について概略を説明します。

手順1:チームを作る
食品安全を確保するためには品証や製造のみならず各部署の主要メンバーで知恵を出す必要があります。

手順2:製品説明書を作る
手順3:用途、対象者を確認する
多くの食品事業者では製品の規格書の内容が該当します。

手順4:製造工程図を作る
手順6の分析をするために製造工程図が必要となります。ISO9001などで要求されるQC工程図より詳細なものが必要となるケースが多いです。

手順5:製造工程図を現場で確認する
机上で作成された製造工程図は、単純な工程の抜け落ちのほか、いつの間にかラインが改造されていて製造工程図と異なっていたというケースもあるため、現場確認が必要とされています。

手順6(原則1):危害要因の分析
各工程で、どのような危害要因(病原性微生物、異物、化学薬品など)が存在するか、増大するかを考えます。

手順7(原則2):重要管理点を見つける
各工程で確認された、放置できない危害要因は、工程中で何らかの除去手段を取っているはずです。失敗することのできない工程を重要管理点とします。

手順8(原則3):管理基準(CL)の設定

手順9(原則4):モニタリング方法の設定

手順10(原則5):不具合があった時の「改善措置」を決める
重要管理点を逸脱してしまったときの対処方法を決めておきます。

手順11(原則6):検証
HACCPシステムが目的通りに機能しているかを確認して、必要に応じてHACCPプランを修正します。

手順12(原則7):記録をとって保管する
事故発生時の原因究明やHACCPシステムの改善のため、記録の保管は必須です。

HACCP制度化の内容

(1)制度化の背景

 HACCP制度化には以下の背景があります。
①日本国内の年間の食中毒数は事件数で約1000件、患者数は約2万人で推移し下げ止まっています。実態としては統計の数字の100倍から1000倍ともされています。
②今後、高齢化人口の割合の増加に伴って、食中毒リスクが高まると考えられます。
③世界各国でHACCP制度化が進んでおり、HACCPを制度化していない国から制度化している国への食料品が輸出できなくなる可能性が指摘されており、輸出入の不均衡のリスクに対応する必要があります。

(2)内容およびスケジュール

①対象事業者
 食品の製造・加工、調理、販売を含む全ての食品等事業者が、法規制の対象になります。これまで食品営業許可業種が不要だった事業者も対象になります。
②制度化の内容
 各事業者は「衛生管理計画」を策定する必要があります。「衛生管理計画」には以下の内容を含めます。

・一般衛生管理
施設設備、機械器具等の衛生管理、食品取扱者の衛生管理等。

・HACCPによる衛生管理
前述のHACCPシステムによる衛生管理計画を作ることが原則となりますが、小規模事業者や日替わり弁当などメニューが頻繁に変わる事業者などに配慮して、2つの基準(基準A及び基準B)が設けられます。基準Aが適用される企業では、コーデックスのHACCP7原則の実施が求められます。基準Bは小規模事業者等に適用され、HACCPの考え方に基づくものの弾力的な運用が認められます。

③支援策
 食品業界の特性によってHACCPシステムの中身が変わってきますが、同一の業界ではHACCPシステムは同じ中身となるケースが多くなります。そのため、業界団体が各事業内容に応じて典型的なHACCPシステムの手引書を作成し周知される予定です。

④スケジュール
 今年の通常国会で食品衛生法の改正案が提出されており、改正案の中にHACCP制度化が含まれています。法案可決・施行後は、猶予期間が設けられると見込まれています。2020年の東京オリンピックでは、日本の食品安全をPRする場となるため、東京オリンピックのタイミングは、何らかのメルクマールになる可能性が高いと考えられます。

(3)事業者への影響

 HACCP制度化による経営への影響としては以下の内容が考えられます。

  • HACCPシステムを作る際に危害分析などの業務負荷が発生しますので、立ち上げ時は繁忙期を避けるなどの配慮が必要になります。
  • 営業許可が不要だった事業者も対象にすることから、営業許可制度の見直しを図り届出制度を創設し、事業者はこれに対応する必要があります。
  • HACCPの仕組み構築には設備投資が必要との誤解もありますが、HACCPは工程管理の手法であり、設備投資が必ず必要という訳ではありません。自社のHACCPシステムを作る際に、温度計の校正が必要となったり、新たなモニタリング装置が必要になる場合など、システムの内容次第で若干の経費がかかる場合もあります。

おわりに

 HACCPの制度化に伴い、食品事業者は準備を進める必要があります。一方で、自社が基準Aに該当するのか、基準Bに該当するのか、猶予期間はどのくらいあるのか、HACCPシステムを監視指導するのはどこでどのように実施するのか、猶予期間後もHACCPの仕組みを作っていなかったときに罰則や行政指導はあるのかなど、現段階では詳細が明らかになっていません。
 一方で、HACCP制度化への対応もさることながら、自社製品の安全性を高めるという本来の目的のためにHACCPシステムにチャレンジしてみるのは、前向きな経営判断ともいえるでしょう。


徳永 税 執筆者 
柏の葉技術経営研究所 代表
中小企業診断士 / 1級総菜管理士 / 中級食品表示診断士 / JHTC認定HACCPコーディネーター
徳永 税 氏

東京大学大学院総合文化研究科 修士課程修了。1級総菜管理士・中小企業診断士。
食品メーカー開発部門にて新製品の研究開発、工場で品質保証の責任者としてFSSC22000食品安全チームリーダーを務める。
2012年、柏の葉技術経営研究所を設立。FSSC22000、ISO22000認証取得、HACCP構築、製品開発の支援を行う。

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