Codex HACCP 2020最新版に準拠!! はじめに―そもそもHACCPとは(後編)

HACCPとはマネジメントシステムである

 ここまでCodex のHACCPガイドライン(食品衛生の一般原則 2020年版 第2章)の序文をしっかり読み込むことで、そもそもHACCPとはどういうものかについて前・中編と詳述してきました。前編ではHACCPが「科学に基づき系統的である」ことや、食品安全をおびやかす「ハザードをコントロールするシステム」であること、従来手法に何か特別な処理を上乗せ要求するのでなく、「現行の工程管理を“見える化”する」ことでその「正当性を第三者に証明可能とする」ものであること、裏を返せば「現行を変更する必要性を特定できる」手法でもあることを解説しましたね。

 中編では、HACCPが「食品サプライチェーンのどの段階でも適用可能である」こと、その取扱う製品やビジネスの各業種・業態によって「弾力的に適用可能である」こと、食品安全という主目的以外にも「プロセスの効率化、資源の持続可能性向上、リコールなど廃棄の予防による減少といった重大な副次効果が得られる」ことを解説しました。

 序文解説の最後に当たる今回はヒトと組織というマネジメント側面に焦点が当てられます。過去に日本ではHACCPに対し大きな誤解があってHACCP認定施設とか、HACCP認定機器とかまるでプレミスや器具などのハードがHACCP対応であるかのような誤った言い回しが流布した時代がありました。HACCPはあくまでも人間が運用するものであり、マネジメント(組織管理)のシステムであることをよく認識しておく必要があるでしょう。

成功への必須条件―経営者と従業員との双方向コミット

 組織は経営層(マネジメント側)と従業員(労働側)に大別されます。職責は互いに重なる部分もありますが区分は明確です。HACCPは工程管理の手法でありかつマネジメントシステムですから、この経営層と従業員との双方が完全なるコミットと関与でもって一体的に運営されることが望まれます。

 実際問題として経営者のコミットメントがないままに担当者へ「おまえらやっとけ!」方式で丸投げされて必要な権限も資源も得られず身動きが取れずうまく行かない事例や、逆に管理者側が現場の意見も聞かずに机上で計画を策定して屋上屋を架す(たとえば、記録類をやたらと要求する、手順書をやたら細かく規定する、従来手法に何か特別な処理を上乗せ要求する等)その煩雑な運用に「現場が悲鳴を上げる」といった事例は過去日本国内でも数多あります。これは世界でも同様でマネジメントのコミットメントはHACCP成功のための必須条件といっても良いものなのです。

 前回に解説した通りHACCPは、まず「現行の工程管理を“見える化”する」ことから始まります。ここで現場の参画が得られないことは“適格な見える化”を達成するのに絶望的な展開を想像するのは難しくないでしょう。一方で現場が“適格な見える化”を達成できて「現行を変更する必要性を特定できる」場合には、現状変更の権限を有するマネジメント層の決断を求めなければならなくなります。衛生管理計画と付随する手順書が整備されていけばその職責を与えられる資格を個人に付与するためトレーニングが必須となります。そのトレーニングは多くがOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング;職場実践を通じた訓練)で力量の確保を目指しますがその情報や時間もマネジメント層が現場に提供する資源の一側面です。

 この、マネジメントと従業員との完全なるコミットと関与は、Codex 2020年版から食品安全文化(フード・セーフティ・カルチャー)と称されるようになりまた改めて解説します。トレーニングも後述しますのでここでは解説を先に進めましょうか。

各ビジネスに“適切”な他分野アプローチとは

 上述した通りHACCPの成功にはまずとにかく「マネジメント(経営層)と従業員(労働側)との完全なるコミットメントと関与」が必須条件であります。その理由はHACCPがマネジメントシステムである一方で、現場の工程管理により実現されるからでした。この“現場”には単純に製造部門だけでなく多分野にわたる関与が大きく指摘されるところです。たとえば営業は取引先との、お客様対応部署は販売先との、開発は最終消費者との、調達は原料供給者との、総務は内部統制での、コミュニケーションを担っています。加えて製造現場の維持には機械メインテナンス部門や、清掃部門、害虫対応、包装資材・水管理、といった多分野の側面支援(個別には、内製化されている現場と外注されている現場の可能性あり)により食品安全のための前提条件が確保されているのはここまで解説してきたとおりです。

 したがって食品安全のコントロールのためにより精緻化した“見える化”を達成するためには、この多分野アプローチが強く推奨されます。あくまでも、各々の“食品等事業者にとって適切である範囲”で結構ですが特定の用途(たとえば、独自性の強い製品の期限設定や独自の加工方法、サプライチェーン管理への依存性、業界内でのトップリード等)に応じてたとえば、一次生産、微生物学、公衆衛生、食品技術、環境衛生、化学、工学の専門知識が含まれる場合があるでしょう。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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