Codex2020最新版に準拠!!微生物学的、物理的、化学的およびアレルゲンの仕様 -ハザードと紐づけられるキーとなる側面 その③

はじめに

 前回は、食品安全ハザードと紐づけられる衛生管理項目8つのキーとなる側面のうち、「7.2.2 特定のプロセスステップ」について解説し、ハザードをコントロールし得る、CCP候補になり得るステップについて例を挙げて紹介しました。

仕様書、規格書、そのサプライチェーンでの必要性

 今回のテーマである「7.2.3 微生物学的、物理的、化学的およびアレルゲンの仕様」(Microbiological, physical, chemical and allergen specifications)は、食品サプライチェーン間で仕様書としてやりとりされる基礎的情報の主要な部分を占めているかと思います。それはとりわけ、食品の安全性または適切性のために使用される仕様において明確な必須の要求事項になり得る意味で必須の文書化するべき要求事項と捉えられます。

 すなわち、前回の食品安全ハザードと紐づけられる「7.2.2 特定のプロセスステップ」は、ハザードをコントロールし得るCCPとして取り扱われる場合には、完璧な制御ステップが保証されることが期待できるわけです。したがって必須の文書化するべき要求事項に挙げられるわけですが、一方で、本節の以降に個別説明する予定の「7.2.4 微生物学的汚染」「7.2.5 物理的汚染」「7.2.6 化学的汚染」「7.2.7 アレルゲン管理」で示される要求事項は、必ずしも科学的・技術的に妥当性を保証できるまでのコントロールされている証拠を担保できないかもしれない意味で、特定のプロセスステップとは意味が異なり予防コントロール手段としては完ぺきではない、軽減戦略といった範囲にとどまるものも多い、つまりは控えめに考えざるを得ないものもあるということです。

 今後の連載で皆さまがよくよく考えていただきたいのは、CCPのようにコントロールした科学的な保証を担保できる明解なコントロール手段以外に、日々の一般衛生管理として取り扱っていた衛生管理項目の中に「より大きな注意が必要な適正衛生規範」(GHPs requiring greater attention)が実は多くの不幸な食品安全上の事故を防いできている事実を知ることなのです。HACCPが当たり前の時代に入りつつある今こそ、この「より大きな注意が必要な適正衛生規範」はHACCPの先の国際的な関心事となりつつあります。

実現可能な微生物学的仕様とは?

 病原性微生物は、その偏在性や不確実性により、定量的な検査の限界があり、検査結果を出すまでの時間と食品保管オペレーションがフィットしない場合が多いこともあって、微生物検査結果が製品・原材料の仕様として、食品の安全性または適切性のために使用可能な場合は極めて限られています。多くの食品では最終製品検査よりも、予防的なプロセスコントロール(すなわち7.2.2 特定のプロセスステップのような)を遵守していることの確認が、微生物学的仕様を満たす要件として用いられることの方が多いでしょう。ひるがえれば、明確なプロセスステップなしに提示される病原微生物の“陰性証明”にどれだけの科学的な意味があるのかよくよく考えていただきたいのです。なお、一般生菌数や大腸菌群のような指標菌の仕様はおもに製品の鮮度保持等の、消費期限や賞味期限を担保するものでありその重要性は議論を待たないと思いますが、具体的な病原性微生物ハザードへの微生物学的仕様とは区別して考えてください。

 最近ではサルモネラ属菌やリステリア・モノサイトゲネスのような環境病原体のそのまま食べられる食品(Ready to eat food)への汚染について、CCPではなく予防的なサニテーションを前提とした微生物学的仕様を要求する場面も増えてきています。

農場生産者や原料メーカーの責任

 カット野菜や果実、刺身用の魚・動物肉、卵など生鮮品の安全性の多くが農場や狩猟・漁獲の適切性に頼っていることも忘れてはなりません。農薬や動物への抗生剤使用など休薬期間を適切に管理すること、灌漑用水やほ場の管理、有機たい肥の利用や家畜への注射針残留などフードチェーンの川下では取り除けないハザードを取り扱っている農場の食品原料生産者としての自覚はとても大切です。抗生剤を家畜の治療目的以外で使用することは、薬剤耐性菌を誘発する側面も見逃せません。これらをWHOでは「ワンヘルスアプローチ」(One Health Approach)といって、食品安全直接のコントロールだけでなく農畜水産生物の健康や環境への総合的な農業者の協力が食品安全につながることの大切さを説いています。

 原料メーカーにおいてもこれらは同様で、小規模営業者等であっても環境病原体や使用水・氷、エアーやガス、使用する包材、化学的・物理的異物をフードチェーンの川上での失敗で、汚染の原因にしてしまってはいけないわけです。

2020年版で加わったアレルゲン仕様

 Codex2020年版の食品衛生一般原則の最も大きな改訂内容の一つが、アレルゲン管理に関する具体的な項目の追加でした。このアレルゲンハザードの取り扱いも以後の連載では取り扱う予定です。次回はまず、微生物学的汚染から整理しましょう。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

【本コラムに関する免責事項】
当サイトへの情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、
最新性、有用性等その他一切の事項についていかなる保証をするものではありません。
また、当サイトに掲載している情報には、第三者が提供している情報が含まれていますが、
これらは皆さまの便宜のために提供しているものであり、
当サイトに掲載した情報によって万一閲覧者が被ったいかなる損害についても、
当社および当社に情報を提供している第三者は一切の責任を負うものではありません。

また第三者が提供している情報が含まれている性質上、
掲載内容に関するお問い合わせに対応できない場合もございますので予めご了承ください。

プライバシーマーク