HACCP法制化スタート~最軽量アプローチから学ぼう~

HACCP法制化スタート~最軽量アプローチから学ぼう~

HACCP法制化スタート

 令和2年6月1日に食品衛生法等の一部改正に基づき「HACCPに沿った衛生管理」の制度化がついにスタートします。1年間の猶予期間が設けられ、すべての食品事業者等は必ず衛生管理計画を有し、その計画を実施している証拠として記録付けが義務的に要求されます。HACCPというと非常に高度でむずかしい専門的な手法で大企業向けの手法と誤解されている傾向がありますのでこのコラム連載では非常に小規模の、具体的には町の屋台のラーメン屋でもできるHACCPを入り口にして解説を進めさせていただきます。

ラーメン屋のハザード

 HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point;ハザード分析及び必須管理点)とはその名前の通り食品安全を脅かす要因(ハザード)を分析して管理手段を特定していく手法です。食品を安全に提供することは事業者にとって当たり前のことですが現場にはいくつもの失敗が潜み隠れています。特に食中毒を起こす微生物は温度条件や環境がそろえば急速に増殖して毒素を作ったり感染症をおこしたりするので非常に厄介です。

 ラーメン屋ではどんな食材を使っているでしょうか。めん、豚肉、スープ原料、ネギ、たまご、メンマなど数多くの原材料がありますね。豚肉は一般にサルモネラ菌やエルシニア菌、また肝炎ウイルスなどの汚染が知られています。これら微生物は豚肉をチャーシューに調理する段階で「適切な加熱」により殺滅することができます。卵もサルモネラ菌が知られていますが日本の卵は生食用として流通していますからそのまま食べられます。しかし割り置きをしていたらほんのわずかの菌も倍々に増殖して食中毒を発症する菌数まで増えてしまうかもしれません。

 加熱済みのチャーシューやたまご、メンマやネギも提供時には包丁でスライスをします。スライスする包丁は刃がかけると重大な危害を起こす硬質異物になり得ます。また生の豚肉を切った包丁をきちんと洗浄消毒せずに使用すれば生の豚肉の微生物ハザードが、”そのまま食べられる食品”に移行してしまうかもしれません。

 加熱済みのチャーシューは生の豚肉にいた微生物が殺滅されていますが、これを常温で放置すればもちろん細菌が増殖します。冷蔵すれば常温よりも長く保存できますが通常、提供時に冷えたチャーシューを出したくないので常温で一時保管されているお店が多いのではないでしょうか。そうすると常温保管の時間管理がとても大事になってきますし、常温放置したチャーシューの残り品を冷蔵庫に戻して次の営業日に再使用するようなことは危険です。

 めんはゆで上げて即時提供するので細菌は確実に殺滅されますのでそれほど心配する必要はないかもしれません。しかし製麺時に生地が管理不備でたとえば黄色ブドウ球菌が耐熱性の毒素を生成させるほど不衛生であったならば加熱しても毒素が残ってしまいかねません。

 一方で、調理人自身が食中毒になってしまった場合、トイレに行った後にきちんと手を洗っていなければ食中毒の原因になり得ます。病原性大腸菌やノロウイルスが従事者の不衛生で事故の原因になる事例は多発しています。また小麦やたまごは人によって食物アレルギーの原因にもなり得ますからたまごをカットした包丁やまな板は必ず洗ってから別の食材に使う必要があります。そして洗浄に使う洗剤も適切に保管しておかないと食品を汚染することがあり得ます。

個人店舗のHACCPは手引書の簡易版が使える

 このようにラーメン屋の屋台ひとつ考えても食品安全を脅かす原因は数多くあります。HACCPに沿った衛生管理はこうした大事な衛生管理項目を計画にして日々の衛生管理が適切に行われたのかを日報に記録します。厚生労働省はこうした個人店舗でもHACCPに沿った衛生管理を実施してもらえるために団体等が開発した「手引書」を技術検討会で審議してウェブサイトにアップしています。「厚生労働省 HACCP 手引書」で検索すれば閲覧ページをすぐ見つけられます。また東京都は厚生労働省の認可を受けて図の「衛生管理ファイル」を開発しました。これはA4見開きで壁掛けできるもので手引書の簡易版として日本全国で使用できます。日報はカレンダー型の簡易的なものでチェック欄と問題があったときに具体的に記述する備考欄で構成されています(図参照)。

衛生管理ファイル

 このように大工場でなくても個人店舗においてもHACCPの考え方を取り入れた衛生管理は必須の要求事項となります。HACCPの基本はハザード管理の手法を計画にして実施状況の記録を付けることで第三者にも検証できるよう“見える化”することです。原材料、個人衛生、保管、交差汚染予防、洗浄消毒、加熱冷却、機器管理、お客様への提供など管理措置の組合せで国際的に認められる安全・安心の“おもてなし”を実現していくチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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