HACCP チームによる外部専門知識の活用アプローチ(Codex 2.3.1の②);HACCP 2020最新版に準拠!!

HACCP チームによる外部専門知識の活用アプローチ(Codex 2.3.1の②);HACCP 2020最新版に準拠!!

はじめに

 Codex 2020年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2章「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」のメインである「セクション3:(HACCPシステムの)適用」解説を開始した前回は、「3.1  HACCP チームを編成し、範囲を特定する」からその第1文節を挙げて、生産、メインテナンス、品質コントロール、洗浄および消毒などオペレーション内のさまざまな活動に遂行責任(responsibility)をもつ多分野チームであることの大切さを強調いたしました。今回はその第2文節にある「外部からの専門知識」の活用アプローチについて解説します。

チームを組んでみたもののそこからどうするの?

 多分野チームを組織化したもののそこからどう進めてよいのかわからないという場合、これは「関連する専門知識が社内で利用可能でない」状況と捉えられます。この場合は大きく2つの解決アプローチがあります。一つが外部の情報源から専門的助言を入手する場合、もう一つはHACCPコーディネーターをチーム内に置くことです。

 まず外部の情報源ですが、貿易および業界の団体、独立した専門家および管轄当局による「HACCP文献」または「HACCP手引き」が利用可能である場合が考えられます。米国では業界団体(前食品製造業者協会、米国シーフードHACCP同盟等)が非常に優れたテキストを開発し日本語訳も出版(推薦図書)されています。また日本でもCodexベースでの衛生管理計画開発プログラムのテキストが出版されています。加えて米国予防コントロール規制のテキスト(仮訳)が古い版ですがオンデマンドで発行されています。

 また日本の管轄当局である厚生労働省は国内のHACCP法制化対応のために「HACCP原則に基づく衛生管理のための手引書」及び、小規模営業者等向けの「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」を整備しています。

 こうした外部情報を有効に活用するために「良く訓練された者」(well-trained individual)が役立つ可能性があります。欧米ではこれをHACCPコーディネーターと通称しますが、日本ではHACCP管理者、HACCP責任者、HACCP実務者、HACCP主任技術者、HACCP指導者、HACCP伝道師など講習会の実施主体が想定する立場により好きに命名していて国家資格はありません。厚生省(当時)は「HACCPシステムについて相当程度の知識を持つと認められる者」(平成9年2月3日通知)を定めておりCodexのHACCPガイドラインに従いおおむね3日間を要する研修会を履修した者と定義しています。

 最近米国ではシンプルにHACCP有資格者(QI;Qualified Individual)などと呼んだりもします。

セクション3.HACCP適用編Codex 3.1 HACCP チームを編成し、範囲を特定する (手順1)

多分野チームを組織化できない小規模営業者等の場合

 前回では、職掌がはっきりしている大規模、あるいは古くからある組織では多分野チームを組織の横串を指して協働する関係が築きにくく、結果としてチームを形骸的に決めたものの「実質進めるのは品管/品証の担当者任せ」というパターンを紹介いたしましたが、一方でいわゆる小規模営業者等の多くは、そうした職掌区分も社内ではっきりしていなかったり、社長自身がそうした職掌の多くを兼ねているような現状があったりします。ワンマン経営などと言われたりしますが経営者もそれを由(よし)としているわけでもなく、要は人手が慢性的に足りないといった状況もあろうかと思います。そのため、多分野で5~6名というこの手順1でいきなり「うちはHACCP原則に基づく衛生管理は無理なのかな」などと相談される場面も多かったりします。

 このように人的資源が必ずしも確保できない小規模営業者等では特にコーディネーターの確保も難しいことから「分野別HACCP手引き」が有用であることは前々前回(第48回目)でお示した通りです。

HACCPコーディネーターは何をする?

 HACCP有資格者(QI)の呼び方はなんでもかまいませんが、その原語となっているコーディネーター(coordinator)という単語に少し着目しましょう。HACCPコーディネーターはCodex HACCPの12手順7原則を理解しており、手順を進めるのに必要な外部情報にアクセスする方法の「知識」があり、かつ社内でHACCPを実施できる「技術」を有していると期待されます。この「知識+技術」(knowledge + skill)が「力量」(competency)です。HACCPコーディネーターは社員でなくとも社外の専門家でもかまいません。参加させる場合は必ずHACCPチームの組織構成を記録して計画書に文書化する際に記載しておく必要があります。

 「coordinator」とは、「co-」(ともに)「ordi」(整える)「-ateor」(する人)、つまり調整者という意味合いを込めています。何と何を調整するかと言えば外部情報と現場のオペレーションとの調整です。「coordinator」のもう一つ重要な意味に「同格にする」というのがあります。HACCP適用においては古くから「ジェネリックモデルの弊害」が知られています。上述した手引書やテキスト文献にはよく参考に「一般的なHACCP計画」(A generic HACCP plan)が掲載されています。これは食品オペレーションに合っているかわからないということを認識しておくべきであり、調整する必要があるかもしれません。

 この「調整する」をCodexでは「be tailored」(あつらえる、適応させる)といって、スーツのように仕立てる(身体に合わせてフィットさせる)という単語を使っていてそのニュアンスをよく伝えています。HACCP有資格者を指導者と呼ぼうが、伝道師と呼ぼうがかまいませんが「お仕着せ型の指導はダメ、絶対!」ということを忘れてはいけません。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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新食衛法対応地域支援プログラム
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋

監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

現場に即した指導を見える化!
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
コーデックス規格
基本選集 I 対訳

監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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