はじめに
「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」の前段「2.1 はじめに」を前回まで6回にわたり詳細に説明してきましたが、今回からは新節「2.2 小規模および/または未発達食品事業の弾力性」について、①小規模営業者等に推奨される弾力性(柔軟性)、②業界・専門家・当局の協働による手引書は有益、③小規模営業者等にあっても力量確保とそのためのトレーニングが必要-の3文節について一つひとつ解説していきます。今回はまず「小規模営業者等になぜ弾力性が必要なのか」の意味を皆さまと考えていきましょう。
「考え方を取り入れた衛生管理」は国際的に推奨されている
Codexでこの“小規模営業者等”に当たる語は、Small and/or Less Developed Business(頭字語SLDBs;直訳では“小規模および/または未発達の事業”)という言葉でカテゴリーされていて、すでに前2003年版でこの小規模営業者等への弾力性が国際的に推奨されています。
この2003年版で示されたSLDBs概念のカテゴリーを受けて日本国でも、「HACCP原則に基づいた」“従来型基準”から大きく一歩踏み込んでCodexが推奨する弾力性(flexibility;柔軟性)を認める「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という概念をHACCP法制化のロードマップに加えました。HACCP法制化当時、全国で実施された厚生労働省の説明会で、必ずと言ってよいほどこの「考え方を取り入れた」方式(当時はB基準などと呼称していた)が日本独自ではないかと質問される場面に出会った(もしくは実際に質問をされたことがあるかもしれない)かと思いますが、実は弾力性を認めていくアプローチそのものが国際的に推奨されていたのだということになります。
未発達とは“むすんでひらいて”の数が少ないこと
小規模営業者等の食品衛生法での定義は、50人未満あるいは、“対面販売製造(例:菓子、豆腐、食肉、魚介類等の対面販売製造)、調理業(飲食・喫茶のほか惣菜、消費期限の短いパンの製造、集団給食、調理機能付き自動販売機等)、容器包装食品のみ貯蔵・運搬・販売、小分け量り売り等”業態の事業を指します。
先述のSLDBs(小規模および/または未発達の事業)でいえば“50人未満”以外の上記業態は“未発達(Less Developed)の事業”というのですが違和感というか、ずいぶんな言い草だなどと思いませんか。実はこの“develop”(発達する・発展する)の語源は、中世フランス語の“desveloper”であり、その意味「展開する」を遡ると、古フランス語の“des-”(分離)と“voloper”(包む)が組み合わさった言葉に由来する(実用日本語表現辞典より)のだそうです。分けたり包んだりの繰り返しが“Less”(少ない)ということでしょうか。“低加工度”という訳語を充てても良いのですが「調理」が低加工度かというと若干の違和感がありまして、ここでは直訳の“未発達”としておきます。
例えで言ってみれば童謡「むすんでひらいて」の歌を歌い進めるように、受け入れた原材料から出荷までのプロセスが「下洗いして、カットして、混合して、小分けして、加熱して、冷却して、トッピングして、包装して、検品して」と数多くのステップを踏み、特に加工度の高いレトルト加熱やガス置換包装、添加物など出荷後流通の保存条件を変えるようなステップのある製品群と比べて、ステップの数が“Less”(少ない)業態ですよ、ということです。
“原則に基づいた”をすべての現場でやり切れるか?
そもそも“HACCP原則に基づいた衛生管理”はCodexガイドラインが誕生したかなり早いころから、12手順7原則をそのまま適用するのがむずかしいオペレーションが存在することが議論となってきました。その代表例が“調理業”で、お客さまから注文を受けて調理後、即時喫食される“クックサーブ”では例えば「加熱調理等の中心温度モニターをするのに全品中心温度計を刺して計測できるのか?」を考えてみると、まず中心温度計による計測は破壊検査であるため全品刺さねばならないとなると商売にならないわけです。
そこで1997年版では焼き目のような目視の官能的指標を許容限界とする(妥当性確認は必須)ことを認めました。また提供するメニュー全てに一つひとつ個別のHACCPプランを作るのは現実的でないし作業量も膨大になって管理しきれなくなるのが明白なのでグループ分けの考え方も認められて、米国ではリテールHACCPの概念(非加熱で提供・加熱して提供・加熱後冷却等して提供の3グループ)が生まれました。さらに2020年最新版では事例として、そのモニターの記録を「“逸脱がある場合”にのみモニター記録を残す」(これを一般に“例外記録”といいます)ことが挙げられ(図参照)ました。
オペレーションの性質それぞれのリスクに応じた弾力性
このように事業ごと性質により12手順7原則をそのまま適用するのがむずかしいオペレーションが存在するわけですが、だからといって食品安全性の“レベルを下げても良い”とならないのは当然のこと(例えば「飲食店は食中毒が出るのは致し方ないこと」とはとても言えないですよね)かと思います。
即時喫食ならば即時喫食して安全であること、テイクアウトや仕出しならば搬送時間以内常温保管でも安全であること、大量調理施設ならば仕掛り品の温度コントロール(例えば“クックチル”)まで含めて安全であることが求められます。
また小規模の場合、人・財政資源、インフラ基盤やプロセス、知識および実際上の制約も考慮に入れなければなりません。その解決のための“手引書”の開発について次回は解説いたします。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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