小規模営業者等でも必要な継続的トレーニング(Codex 2.2.2の③);HACCP 2020最新版に準拠!!

はじめに

 Codex 2020年 最新版「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」の「2.2 小規模および/または未発達食品事業の弾力性」の3文節解説も今回がラストとなります。“小規模および/または未発達食品事業”(Small and/or Less Developed Business;SLDBs)のことを日本では食品衛生法にて“小規模営業者等”と呼称しており、この小規模営業者等ではたとえば人および財政上の資源等が不足しているといった制限があるためHACCP原則をあまり厳格に求めるのではなく“弾力性”(柔軟性)を認める(前々回)こととされており、そのために業界・専門家・当局の協働による手引書は有益である(前回)としていて、日本のHACCP法制化がこの国際的に認められているアプローチをていねいにトレースしていることCodexベースでしっかり解説させていただきました。

 今回は「小規模営業者等が手引書自身を自施設の衛生管理計画とした場合でも、トレーニングの有用性は変わらず必要である」という趣旨の3文節目について詳細解説いたします。

小規模営業者等の弾力性はトレーニングには適用されない

 このCodex 2020年 最新版「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」の「2.2 小規模および/または未発達食品事業の弾力性」の、最終文節である3文節目は文字数も日本語字で前段2文節(1文節目635文字、2文節目359文字)と比べて明らかに文字数がとても少ない(3文節目108文字)です。したがって図は3文節目の全文だけでは足りず1文節目と2文節目も示しています。

 図に目を通していただくとこの3文節目は1・2文節目にかかっていることがわかります。つまり小規模営業者等にはHACCP原則の厳格適用をするには制限があるので国際的に弾力性が認められていて、特に人および財政上の資源等が不足していることから手引書が有益とされていて、これが自社オペレーションと“ぴったりフィット”していて運用しやすいならば、手引書をそのまま衛生管理計画とすることも認められていました。

 “しかしながら”トレーニングは欠かせませんよと念押ししているのがこの3文節目なのです。したがって小規模営業者等にあってHACCPの7原則は弾力性が認められますがトレーニング項目だけは必須の要求事項であるというロジックになります。日本ではこの小規模営業者等には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が適用されますが、皆さまはこのトレーニングの要求事項が実施できていますか。結構抜けがちな項目なので以下の解説をよくお読みください。

小規模営業者等のトレーニングには手引書を活用する

 ヒトはミスをします。機器は故障します。当たり前なのですが食品ビジネスはイレギュラーがあったときに事故が発生します。非常に多いのがオーダーキャパを越えた受注をしたとき、これにリンクしがちですが臨時で外部委託したり、臨時雇いしたり、別ラインを共有したり、作り置きしたり、普段使わない取引先から原材料を受注したりと、普段やらないことをやること自体が食品ビジネスではリスクとなります。また最近は消費者のし好に合わせた薄味や無添加、生食など科学的な安全性を考慮せずにエシカルな商品に手を出しての事故も結構な数になること前回も触れました。

 したがいまして衛生管理システムは、それに携わる施設運営者側と作業者の双方に適切な知識と技術が求められます。それは小規模であるからといって職責の重さが軽くなるという理由にはならないのです。大工場と違って飲食店ではときどき食あたりを起こしても良い、という考え方は通用しません。ただし小規模営業者等はHACCPの7原則をそのままトレーニング(たとえば3日間程度のCodexベースの成人学習)を受けても自施設のオペレーションに適用させることがむずかしい場合が多いのです。そこで手引書が役立ちます。繰り返し解説してきましたが小規模営業者等を考えるとき、単純に施設の従事者数規模(たとえば、50人未満)だけでなく、調理業の即時喫食等の条件や、加工度の低さ等まで含めて、食品/プロセスまたはオペレーションの種類ごとに違う特異性を考慮しなければなりません。そこで認められる“弾力性”は、各々の「手引書」により明確になるからです。手引書内にトレーニング(ないしは教育訓練)の章がある手引書は基本的に優良です。

トレーニングは衛生管理システムの有効性保証

 前回も解説した通り手引書と自施設オペレーションとの一致/不一致は考慮しなければなりません。手引書をそのまま衛生管理計画としていない場合は手引書本文が自施設オペレーションと不一致である箇所があるからでしょう。その場合は自ら開発した衛生管理計画がトレーニングテキストとなります。これは自らハザード分析を実施して「HACCP原則に基づく衛生管理」を実践される小規模営業者等でも基本的に同じです。

 また、こうしたイレギュラーにも対応できるように多くの手引書では本文とは別に「資料編」を用意しています。資料編では手引書本文で示した事例ではカバーしきれないハザードコントロールと直結する情報が記述されていますのでトレーニングにうまく活用してみてはいかがでしょうか。

 念押ししますが「ヒトはミスをします。機器は故障します」。特に小規模営業者等にあってはヒトの“ハザードへの自覚”が施設運営者側と作業者の双方に欠如していると簡単に事故の原因に直結しがちです。前日調理した仕掛品を保管する冷蔵庫は故障しているかもしれないし、期間雇い従業員が無自覚に詰め過ぎて冷却が十分でない場合は“十分にあり得る”リスクなのです。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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