HACCP チームを編成し、範囲を特定する (手順1)の①;HACCP 2020最新版に準拠!!

HACCP チームを編成し、範囲を特定する (手順1)の①;HACCP 2020最新版に準拠!!

はじめに

 今回よりCodex 2020年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2章「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」のメインである「セクション3:(HACCPシステムの)適用」解説に入らせていただきます。最初は「3.1  HACCP チームを編成し、範囲を特定する」から、文節ごとていねいに学んでいきましょう。

非効率で効果を実感できない「徒労HACCP」に陥らないために

 HACCPチームは衛生管理チーム、食品安全チームなど呼び方はいろいろあって良いですが要はHACCP計画作成のために力を結集する組織という意味であり、適用手順の一番初めにその組織構成を記録して計画書に文書化されます。

 HACCPチーム編成の目的は、組織内にある知識および技術を総動員して有効なHACCPシステムを開発することにあります。裏返すと有効なHACCPシステムは組織内にある知識/技術を利用しないと実現できないかもしれないということです。ここでその意味をしっかり押さえていただくために、少し英語にお付き合いください。ここで使用している“有効な”の原語は「effective」ですので有効性は「effectiveness」となります。区別したい類似語に「valid」があってこちらは妥当性確認(validation)の形容詞ですからここで言っているのはよく出てくる「科学的/技術的に正しい」かの有効性確認済み(validated)の話ではなくて、「効率的で効果の上がる」かの有効性を説いています。

 実際によくHACCPおよび/またはその第三者認証などに取組まれてきた経営層の方とお話ししていて金ばかりかかる割に取組みメリットが感じられないといった声や、また品管/品証の方々や現場の方とお話ししていて文書/記録管理が煩雑でやってられないといった声を耳にすることがあります。多くの場合、その原因の大本はこの最初の「手順1」から“ボタンの掛け違い”をしていたからかもしれません。

 この根本原因は経営層のコミット不足にあることを第43回でていねいに解説していますので読み返してみても良いかもしれません。もっともありがちな“ボタンの掛け違い”がチームを形骸的に決めたものの「実質進めるのは品管/品証の担当者任せ」というパターンです。実際、HACCPを構築中の相談でも「ほぼ一人で抱えているのが現状で進まなくて困っている」という嘆き声は非常に数多く聞きます。それはすでにCodexに従っていないということでもありますので、経営層にはいまからでも遅くはないので、ぜひ気付きを実践につなげていただけたらと願うところです。

HACCPチームは5~6名が適切人数なのか

 HACCPの専門研修ワークショップは仮想のHACCPチームを5~6名でロールプレイング研修を行うのが通常ですが、この5~6名というのは多分野にわたるチーム編成をイメージしています。Codexでは生産、メインテナンス、品質コントロール、洗浄および消毒などを挙げて、オペレーション内のさまざまな活動に遂行責任をもつ多分野チームであることの大切さを強調されています。裏を返すと品管/品証のみで5~6名そろえることにあまり意味はないかもしれないわけです。あくまでもオペレーション内のさまざまな活動に職責を持つ者をなるべく広くカバーすることが大切だということになります。

 先にHACCPワークショップの例で5~6名というお話を示しましたがここでも私たちは同じ会社や同じ部署の受講者を同じ班にしないよう気を付けています。これは仮想チームであっても多分野であった方が良い結果をもたらすのと、同じ部署ではどうしても組織内の上下関係から意見の出やすい雰囲気にしにくい場面を経験的に学んできたからです。したがってCodexでも明記されているとおり各部署の“遂行責任をもつ者”の数でたとえば5~6名で、補佐がついても数に入れないというのが正しい解釈ではないでしょうか。

職責もマネジメントがコミットするべき資源の一つ

 なお、“遂行責任をもつ者”というのはたとえば生産部長、品質管理部長、といったような部長クラスでなければいけないという意味ではありません。大切なのは部長クラスのマネジメント層からきちんと職責を受けた者がその任を担うことです。年齢や性別、役職の問題ではなく組織内にある知識/技術を利用可能であることを確実にするのがHACCPチームの役割でしたね。

 この“遂行責任をもつ者”の原語は「responsible」で、通常では訳すると単に“責任者”となります。なぜ“遂行責任者”としたのかというと「accountable」(説明責任を持つ者)との違いを明確にするためです。実際、何か問題が起きたり保健所の立入りで不備の指摘を受けたりした際に、HACCP実施の結果に対して責任を負うのは、きっと職責を受けた側ではなく、職責を与えたマネジメント側です。やはりHACCPチームはあくまでも遂行チームなのです。

 結果に責任を負うべきマネジメント側は、遂行チームが「効率的で効果の上がる」(effective)ようなHACCP計画の策定に専念できるよう、必要な時間やトレーニングを含めて資源を供給する責任、すなわちマネジメントのコミットメントが求められる、というロジックになります。

 次回は、小規模営業者等のように“遂行責任をもつ者”が少人数に限られているとか、必要な知識/技術を自組織内だけでまかなえないなど、外部から知識/技術を得る必要がある場合について解説します。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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