Codex2020最新版に準拠!!衛生管理計画に必要な「プロセス記述」その利用と役割-食品安全ハザードを自覚する その②

はじめに

 厚生労働省が食品衛生法で定めるHACCP法制化は、国連のWHO(世界保健機構)とFAO(国際食糧機関)が合同で運営する食品規格委員会Codexが示す「食品の一般原則」を基本とし、義務的に要求されるHACCPに沿った衛生管理はこの一般原則の中の「オペレーションのコントロール」セクションで定められていることを前々回にお話しして、さらに自らの施設において特有の食品安全ハザードを認識いただくために、まず文書化すべき具体的な内容として前回は「製品の記述」についてお話ししましたね。そこでは、HACCP法制化で求められる衛生管理計画は施設から出荷される全製品が対象であり、多品目製品の場合には単品目でこの「製品の記述」を作成しようとすると非常に煩雑になる可能性があるので、品質特性ではなく、安全特性でグループ化すると整理がしやすいですよというお話をいたしました。

“考え方を取り入れた”でも「プロセス記述」は要求事項

 今回は引き続き食品安全ハザードを自覚するための、文書化が国際的に推奨される要求事項として、「プロセスの記述」をCodex「食品衛生の一般原則」最新2020年版(第5版)-以下Codex 2020年版と略称-に準拠して解説を進めます。前提条件として冒頭にきちんとご理解いただきたいことは、Codex「食品の一般原則」を基本とし、義務的に要求されるHACCPに沿った衛生管理においては、最新2020年版の準拠を考えるにすべての食品等事業者に対して、この一般原則の中の「オペレーションのコントロール」セクションが求められるということです。

 HACCPに沿った衛生管理がすべての食品等事業者に対して義務付けられる中で、各食品事業者等では手引書などを参考にして衛生管理計画の策定が進められています。日本国内での法規制として、小規模および調理等特定業態の、いわゆる小規模営業者等には弾力的運用が認められており、厚生労働省の認めた手引書通り、あるいは手引書を参考に、さらには自ら分析してHACCP原則に基づいた衛生管理にステップアップする事業者もいらっしゃるかと思いますが、2020年版Codexにおいて国際的に推奨される要求事項では、最低でも自施設のハザードに対する自覚が求められています。

 HACCP“原則に基づいた”衛生管理の要求事項ではなく、それ以前の弾力的な運用を認められる小規模営業者等に適用される、HACCPの“考え方を取り入れた”衛生管理においても、「プロセスの記述」は国際的に推奨された要求事項であることを忘れないで読み進めていただきたいとお願いしておきます。

“より注意が必要な”一般衛生管理を自覚するために

 Codex 2020年版では、HACCP原則に基づいた衛生管理を、“しようがしなかろうが”、食品製造オペレーション上にはCCPにならずとも、“より注意が必要な”一般衛生管理があり得ることを明確化しました。そのような文書化するべき一般衛生管理項目を明確化するために、前回は「製品の記述」が必要であることを解説いたしました。続く「プロセス記述」では同様の製品であってもプロセスのステップがどのような順番で、施設のどこに位置しているかにより、施設ごと違う“より注意が必要な”衛生管理項目を見つけ出せる背景情報となり得ます。

 HACCP法制化で厚生労働省は製品・業態ごとの手引書を開発して、弾力的な運用が認められる小規模営業者等に対しては“手引書通り”“手引書を参考に”“自ら分析してHACCP原則に基づいたを選択”のいずれも認めていますから、手引書と自らの施設、製品およびプロセスの特性で既存の手引書とのフィット感がどの程度かでご判断いただく“見える化”のとても大事な取り組みとなるでしょう。

フロー・ダイアグラムは有効で最適か?

 Codex 2020年版では、HACCP原則に基づいた衛生管理ではない、いわゆる弾力性を認める“HACCPの考え方を取り入れた”衛生管理においても、プロセスの記述を求めるわけですが、厚生労働省の手引書で自社の全ステップが説明できるのであれば法令遵守は非常にシンプルで済むわけです。

 大事なのは手引書があなたの現場にフィットしているか、ギャップはないかのバランスで、Codexでは法的に要求される製品オペレーションの全ステップを考慮するべきと言っていますから、食品衛生法の枠内で出荷される製品のすべてがプロセスの記述で説明されないとまずいわけです。ここでは、原材料・成分・中間製品がフローに投入される場所、中間製品・副産物・廃棄物が排出または除去される場所など、オペレーションの全処理ステップの順序と相互作用を、箇条書き程度で良いので示すことが大事です。

 CodexのHACCP適用のガイドラインで、手順4に「フロー・ダイアグラムの構築」があることから、“HACCP原則に基づく衛生管理”では当たり前のようにフローダイアグラムが作成されてきましたが、ここであえて問題提起をすべきでしょう。あなたのフロー・ダイアグラムは果たして有効であり最適な“見える化”となっているであろうかという問いなのです。

日本人がはまりやすいフロー・ダイアグラムの罠

 結論から申し上げると、長く米国のトレーニングを実地で経験してきた体験からすると“HACCPに沿った衛生管理”の全事業者が必ずプロセスの記述を、フロー・ダイアグラム化しなければならないわけではありません。フロー・ダイアグラム開発は役立つ場合がありますが、そのフロー・ダイアグラムは、全ステップを確実に捉えるために、同様の製造または加工ステップを使用して生産される多くの同様の食品に使用することが可能であることを、忘れてはいけないのです。多くの現場で、フロー・ダイアグラムをやたらと詳細に作りすぎています。例えばA3で印刷しても文字が小さくて読めない、などといった事態に陥っていないでしょうか。役立つフロー・ダイアグラムは名前の通り“流れ”(フロー)を図示化して俯瞰できるようにするものですから、詳細すぎるフロー・ダイアグラムはオペレーション上でも文書管理上でも害悪でしかありません。このような事態に陥っている悲しい現場を散見します。あなたの現場は実のところどうでしょうか、と問いかけたいです。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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