セミナーレポート

食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~

2022年5月18日に開催しました「食品業界でのSDGsの現状と対策セミナー」での講演「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」についてレポートいたします。

 食品ロスは年間で570万トンも発生し、その対策はSDGsにおいても特に関心の高いものとなっています。本講演では食品ロス削減の現状を整理し、そこから見えてくる課題、課題解決に向けた取組みについて解説いただきました。

川崎 博之氏
講師ご紹介

株式会社日本食糧新聞社
常務取締役編集本部長
川崎 博之氏

食品業界と食品ロス

SDGsの17の目標、169のターゲットへの関与度合い

 2021年7月に日本食糧新聞が実施したサステナビリティ企業アンケートでは、有力食品企業54社から回答をいただきました。「経営の意思としてSDGsに関与することを決めていますか」という設問に対して、約8割の企業が「決めている」と回答し、「いいえ」の回答はなく、残り2割は「検討中」という回答でした。

 関与する目標で最も多いのは、「目標12:つくる責任・つかう責任」です。また、関与するターゲットで最も多いのは、「ターゲット12.3」小売・消費の食糧廃棄半減・サプライチェーンの食料損失減少です。次いで、「ターゲット12.5」廃棄物発生の大幅削減となります。

SDGsの17の目標

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

食品ロスと食品廃棄物

 主に可食部分の廃棄を「食品ロス」、不可食部分も含むものを「食品廃棄物」といいます。この2つに対して、ターゲット12.3、ターゲット12.5が該当する形です。

食品ロスと食品廃棄物

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

食品廃棄物削減の現状

 最新の日本の食品廃棄物等発生量は、食品産業全体で1,755万6,000トン(前年度比0.5%減」)です。このうち、食品製造業は1,422万4,000トン(前年度比1.6%増)、食品卸売業は24万7,0000トン(前年度比13.1%減)、食品小売業は118万5,000トン(前年度比3.1%減)、外食産業は190万トン(前年度比11.5%減)となっています。

 政府では2024年度までに食品産業全体の再生利用実施率を83%とする目標を掲げており、2019年度の実施率は85%で、既に目標を達成しています。ただ、個別に見ると、食品製造業は目標を上回っていますが、食品卸売業、食品小売業、外食産業については、残念ながら目標を達成するに至っておりません。

食品廃棄物削減の現状

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

食品ロス削減の現状

 2019年度の食品ロス推計値は570万トンで、2018年度比5%減、数量として30万トンの削減となっています。これは、国連世界食糧計画の2018年の食料援助量約390万トンの1.5倍に相当します。家庭系と事業系で分けると、家庭系は261万トン(前年度比5.4%減)、事業系は309万トン(前年度比4.6%減)となります。

食品ロス削減の現状

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

食品リサイクル法

 2019年7月に公表された食品リサイクル法の基本方針では、食品関連事業者から発生する事業系食品ロスを、2000年度比で2030年度までに半減させるという目標を設定しています。また、家庭系に関しても、2018年6月に制定された「第4次循環型社会形成推進基本計画」において、2000年度比で2030年度までに半減すると定められています。

事業系食品ロス削減の現状

 直近の事業系食品ロスは、2018年度が324万トン、2019年度は309万トンとなりました。削減された15万トンの内訳は、食品製造業で2万トンの増加、外食で13万トンの削減、食品小売と食品卸で各2万トンの削減です。外食における削減は、コロナ禍による外食市場の喪失が反映されていると考えられます。

食品ロスの発生要因

 食品製造業・卸売業・小売業においては、「規格外品」「返品」「売れ残り」が食品ロスの発生要因として挙げられます。また、外食に関しては、「作りすぎ」「食べ残し」などです。家庭系では、「食べ残し」「過剰除去」「直接廃棄」が発生要因となっています。

食品ロス削減のためにどうするか

 食品ロスを削減するためには、商習慣の見直し、需要に見合う販売、フードバンクの活用、消費者啓発、外食の食べ切り・持ち帰り推進、ビジネスによる食品ロスの削減が必要だといわれています。

求められる役割と行動

消費者に求める役割と行動

 2020年3月31日に閣議決定された「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」には、各プレーヤーに求める役割と行動が記されています。消費者については、買い物、食品の保存、調理、外食の4つの観点で示されており、例えば食品の保存に関しては「食材の使い切り」、調理においては「食べられる部分は無駄にしない」「食べ残しを減らす」、外食では「食べ切れる量の注文」「提供された料理の食べ切り」を求めています。また、宴会の開始30分と終了10分を食べる時間に当て、食べ残さないように呼びかける「3010運動」の実践も挙げています。

消費者に求める役割と行動

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

農林漁業者、食品製造業者に求める役割と行動

 農林漁業者には、規格外や未利用の農林水産物の有効活用の促進を求めています。

 食品製造業には、食品原料の無駄のない利用や、製造工程と出荷工程の適正管理・鮮度維持を求めています。また、製造方法の見直しや、容器包装の工夫による賞味期限の延長、年月表示化、賞味期限表示の大括り化も挙げています。その他、食品小売業者と連携した需要予測の高度化や、サプライチェーン全体での適正受注の推進などがあります。

食品卸売・小売業者に求める役割と行動

 食品卸・小売業者には、厳しい納品期限の緩和、需要予測の高度化、適正発注の推進など、商慣習の見直しを求めています。この他、需要予測に基づく仕入れ、季節商品の予約制など、需要に応じた販売を行う工夫も挙げています。また、売り切るための取り組みの推進や、消費者が使い切りやすい工夫についても記載しています。フランチャイズ店には、本部と加盟店の協力による削減を求めています。

食品卸売・小売業者に求める役割と行動

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

外食事業者等に求める役割と行動

 外食事業者等には、天候や日取り、消費者特性などを考慮した仕入れ・提供の工夫や、消費者が食べ切れる量を選択できる仕組みの導入を求めています。また、「3010運動」の取り組みも挙げています。その他、持ち帰り用容器による可能な範囲での持ち帰り、その旨の分かりやすい情報提供も求めています。

食品関連事業者等に共通する事項

 食品関連事業者に共通する事項としては、包装資材に傷や汚れがあっても、中身が毀損していなければ、輸送・保管に支障を来す場合を除き、そのままの荷姿での販売を許容することを求めています。また、フードシェアリングの活用等による売り切りの工夫、フードバンク活動への理解、積極的な未利用食品の提供、食品ロスの削減に向けた組織体制の整備、取り組み内容や進捗状況等の積極的な開示を求めています。

その他に求める役割と行動

 食品事業者以外の事業者には、食品ロスの状況と削減の必要性について理解を深め、社員等への啓発や、災害時用備蓄食料の有効活用を求めています。

 マスコミ、消費者団体、NPO等には、役割と行動を実践する消費者や事業者が増えるよう、積極的な普及啓発活動等を行うことを求めています。

 国・地方公共団体には、教育と学習の振興、普及啓発等の推進、食品関連事業者等の取り組みに関する支援、表彰、実態調査と調査・研究の推進、情報収集と提供、未利用食品を提供するための活動の支援等を求めています。

食品業界における食品ロス削減対策

食品ロス削減対策

 食品業界に求められる食品ロス削減対策として、賞味期限の大括り化、納品期限緩和、ダイナミックプライシングが特に大きな役割を果たすことになります。

賞味期限の大括り化

 賞味期限が3カ月以下の商品は廃棄リスクにさらされやすく、日配品のロス削減も重要な課題です。政府では、賞味期限大括り化に貢献している食品メーカーを公表しており、賞味期間が短い食品でも大括り化に挑戦する企業が増えつつあります。

賞味期限の大括り化

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

納品期限の緩和

 賞味期間の3分の1以内を超えた食品の納品を受け入れないという「3分の1ルール」を、現在2分の1へ緩和する動きが広がっており、小売業186社、製造業223社が納品期限緩和に取り組んでいます。

ダイナミックプライシング

 ダイナミックプライシングとは、賞味・消費期限が近づく商品の売価自動変更です。2022年1月12日から2月末まで、経済産業省とイトーヨーカ堂が中心となって日配品を対象に実証実験を行っており、売り切りによる食品ロス削減が実現可能か、店舗スタッフの労力軽減や消費者の行動変容につながるかを検証しています。また、フードチェーン全域を3つに分け、「産地~小売店舗」ではデジタルサイネージや電子チラシを使った産地情報の提供、「小売店舗」ではダイナミックプライシングの効果、「小売店舗~消費者」ではスマホアプリによる自宅在庫情報の提供によって食品ロス削減を検証します。

「みどりの食料システム戦略」が食品業界に求める対応

 2021年5月に策定された「みどりの食料システム戦略」は、食料、農林水産業の生産力向上と持続性の両立を、イノベーションによって実現する中長期ビジョンです。2050年のあるべき姿から現在までをバックキャストして、必要な技術・取り組みを大枠で示しています。

講演資料:「食品業界のSDGs ~食品ロス削減の課題~」より

ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立

 まず、需給予測や精密出荷予測に基づくマッチングによる食品ロスの削減は、2022年度以降にスマートフードチェーンのプロトタイプの構築および試験運用を進めます。また、AI・ロボット等の次世代技術導入による食品製造の自動化・リモート化も研究開発されています。その他、穀粒の精緻な品質管理技術の開発、効率的なバイオエタノール生産と熱風発生等の技術開発、防カビ効果を有する機能性包装資材の開発、バイオ技術を利用した保存性に優れた新食素材の開発、魚類の革新的凍結・解凍技術の開発、野菜・果実のデータ連携による流通の効率化・高付加価値化、余剰農産物の粉粒体化技術開発と規格標準化、3Dフード・プリンティング技術の開発、パーソナライズド食品の提供、3Dフードプリンターに適用可能な未利用資源の食材化といった技術・取り組みが示されています。

食品企業の削減目標

 食品企業は、さまざまな要因によるロスの積み上げに対し、難しい取り組みを行っていくことが求められています。中でも、最も影響が大きいのが、商品回収および廃棄リスクです。大半は異物混入や衛生問題による回収ですが、中には賞味期限の誤表示やアレルゲン表示の欠落などもあります。商品回収の3件に1件が、品質に問題がないにもかかわらず回収され、廃棄されている実態があります。また、物流段階では、パレット輸送等の効率化によって荷崩れ防止を進める取り組みが、サプライチェーン全体で求められています。

食品ロスの課題解決に向けて

 サステナビリティ企業アンケートでは、従業員や取引先の理解・共感の浸透が最も課題として挙げられました。食品ロスの課題解決に向けては、まず従業員や取引先の理解、および共感の浸透が必要になります。

 次に、ICT活用の深化、データ共同利用の推進です。製・配・販連携協議会は、共同配送と帰り便の有効活用による車両相互活用が進んだ状態を、2030年の加工食品業界の在るべき姿として掲げました。物流コストや二酸化炭素、食品ロスの削減効果を毎年検証していくには、データと共同利用の推進が欠かせません。

 そして、食品リサイクルループの形成です。メーカーから出る廃棄物は飼料としてリサイクルが可能です。しかし、食べ残しに関しては、家畜に対する有害物質が混入する可能性があるため、飼料に不向きとされています。メタンガス化はまだ設備コストも高く、課題が残っています。

おわりに

 食品ロス削減は各企業の努力の域を既に超えており、事業者のみならず、消費者、行政も巻き込んだ国民運動としての形が求められている状況です。この中で、食品業界には、業界横断的な共通理解・共感の浸透を基盤とした取り組みが求められています。

川崎 博之氏
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常務取締役編集本部長
川崎 博之氏

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