2018年2月15日に東京で開催しました「新春ITソリューションフェア2018」イベントでの講演「世界の食糧・飢餓・水問題 日本の食料自給率」についてレポートいたします。
▲ 日本産業経済学会会員
大橋 幸多 氏
日本の少子高齢化による人口減少とは反して、世界人口は増加し続けています。
人口増加に伴う食糧不足は勿論、近い将来では水資源の不足が深刻な課題として挙がっています。
日本の将来のために、今一度食糧自給率を振り返り食生活の見直す必要があるようです。
1.世界の人口問題
世界の人口問題と飢餓状況
2011年に世界人口は70億人に達しました。国連の推計では2050年には96億人になると見られています。わずか40年で26億人増える。当然、胃袋が26億個増えるわけですから、その分の食べ物が必要になります。
国連の発表によると、2014年時点で8億500万人が飢えで苦しんでします。世界人口の9人に1人です。サハラ以南のアフリカでは4人に1人に達します。本当に悲劇的な状態です。アジアでは5億2,600万人です。
2.主要穀物の需給状況
世界の主要穀物生産量・消費量・貿易量
小麦、大豆、とうもろこしが世界の3主要穀物です。例えば小麦の22%が貿易に回されています。貿易量は非常に重要で、貿易量によってその穀物の重要性が決まり、貿易国がどれぐらいあるかによって各国の戦略が決まります。
小麦の主要国需給状況
EU以外で小麦が重要な貿易対象になっている国はロシア、米国、カナダ、豪州、ウクライナ。ウクライナで紛争が起きたりすると小麦の供給に影響を与えます。一方、輸入国は日本、エジプト、インドネシア、アルジェリア、イランなど。ブラジルは大豆やとうもろこしの大輸出国ですが、実は小麦は輸入しています。
大豆の主要国需給状況
大豆は生産量の41%が貿易に回されます。輸出している国は数えるほどで、小麦もそうですが、世界の需給バランスは非常に限られた輸出国によって保たれています。大豆で注目したいのは消費量の88%が搾油用であることです。日本人は豆腐、納豆、みそ汁などで大豆をたくさん食べますが、日本の大豆消費の大半が搾油用で、油をしぼった残りの大豆かすは家畜の重要な飼料となります。アメリカとブラジルの両国で貿易量(輸出)のほとんどを占めています。北半球と南半球は季節が逆ですので、どちらかで何かが起こっても何とかなっているのが現状です。輸入では中国の8,000万トンが断トツで多く、EU、日本も輸入国です。
とうもろこしの主要国需給状況
とうもろこしも飼料用が62%です。こちらも輸出国は少なく、畜産農家が多い国が輸入しています。生産国に何か気候変動が起これば世界中に非常に大きな影響が出ます。日本の輸入量は非常に多く、中国に次ぐ2位。大半が家畜のエサです。日本や韓国はアメリカやブラジルのとうもろこしがなくなると、畜産業に大打撃を受けます。
米の主要国需給状況
米は貿易量が少なく、9%に過ぎません。地産地消が中心で、アジアを除いては世界の主要穀物としては余り認識されていません。主な輸出国はタイ、ベトナム、インド、ミャンマーです。タイは先進国化し、輸出量は横ばい、もしくは徐々に減少しています。今後はミャンマーやベトナムが増えると見られています。インドは若干輸出していますが、基本的には需給のバランスがとれています。貿易統計に顔を出さない国は自給自足がうまくいっているという1つの例です。
穀物の生産量、消費量、期末在庫率の推移
穀物の収穫は基本的に年に1回です。今年不作だったら次の年の収穫まで不足したままですから、期末在庫率が非常に重要です。24~25%あればいいのですが、20%前後になると、かなり危険な状態です。ただ、生産量は、ここ数十年、右肩上がりで増え続けています。
穀物等の国際価格動向(ドル・トン)
2007年から2010年ごろまで穀物価格は高いところで推移しました。穀物は年に1回の収穫ですから、世界中の大農家は相場を見ながら来年は何を植えるかを決めます。従って、需給バランスは毎年大きく変化し、誰もコントロールできません。もうひとつ、相場に影響を与えているのは世界の金余りです。余ったお金が穀物相場に流入すると、相場は投機的に動きます。
3.中国の状況
中国の穀物・油糧種子輸入量推移
中国の大豆の輸入量は今や年間9,000万トンです。アメリカやブラジル一国の生産量に匹敵します。今や世界で断トツに多く、逆に米、小麦、とうもろこしの輸入は横ばいか、減っています。中国政府の最大の関心事は13億人の民を飢えさせないことです。主要穀物である米と小麦は基本的に1年分の在庫を持っています。一方、大豆がなくても人間は死にません。とうもろこしも基本的にはエサです。米と小麦を自国生産で確保する。それ以外のものは輸入すればいいという中国の食糧戦略がはっきり出ています。
中国の海外農地買収
中国の人口は世界の20%、対して農地面積は8%しかありません。政府の最大の悩みは水問題と砂漠化です。黄河と揚子江はありますが、実は干ばつが、たびたび発生しています。
そこで、中国はアフリカへ行き、コンゴで280万ha、ザンビアで200万haの土地を確保しました。日本全体の農地面積以上の土地です。豪州、ニュージーランドでも、次々に牧場を取得しています。とにかく供給源を確保しようという戦略で、これも国民を飢えさせないためです。
4.飼料と肉
牛・豚・鶏の比較
牛、豚、鶏が1kg体重を増やすのに穀物がどれだけ必要か。牛は10~11kg、豚は3~3.5kg、鶏は2.2~2.3kg。鶏は一番効率がいい。出荷時月齢も牛は30カ月ですが、鶏は56日で出荷できます。こんなにエサを必要とする牛を育てるより肉を買ったほうがいいと多分考えていて、中国は、ここ数年、盛んに牛肉を輸入、米国/豪州/NZ等の牛肉の値段が高くなり、日本は買い負けています。穀物を食べていれば人間は生きていけるのですが、肉にしてから食べると非常に効率が悪く、大量の穀物が必要です。
5.世界の水資源問題
世界の水
世界の水の98%は海水です。淡水は2%に過ぎず、又その大部分は氷河や南北極地にある氷ですから、液体として使えるものは0.01%しかありません。世界では7億人が水不足の生活を送っています。国連の報告では毎日4,900人の子どもが水不足で、もしくは汚い水を飲んで亡くなっています。世界にとって水不足は本当に大きな問題です。水がなければ穀物もできず、動物は生きていけません。食べ物を作るためにも水が必要です。牛肉の正肉であれば2万トンの水が必要です。穀物を食べるからです。例えば大豆を、そのまま食べれば2,500トンで済みますが、肉にすると一気に多くなります。
地下水による灌漑(かんがい)と影響の事例
サウジアラビアは石油を戦略的に使うために報復を恐れて食糧、特に小麦を自国生産しようとしました。砂漠の真ん中で地下水をくみ上げて小麦をつくり、余って輸出まで始めました。ところが、地下水の減少と塩害の影響で耕地面積が減り続けています。淡水化プラントをつくれば問題はなかったかもしれませんが、地下水を汲み上げた結果、こうした事態を招きました。地下水だけには頼れません。
土地資源と水資源の現状
この50年で作物栽培面積は12%しか増えていません。対して農業生産は約3倍に増えました。肥料などの増加、品種改良、機械化、灌漑が主たる原因です。ただ、灌漑は大量に水を使用するため、水問題がネックになります。右肩上がりの増加が今後も続くとは思えません。食糧生産増加分の40%は、面積を2倍に増やした灌漑農地です。
6.日本の主要穀物の状況
小麦の国内生産量、輸入量、消費量
日本の小麦の輸入量は基本的に年500数十万トンで推移しています。消費量は大きく増えたり減ったりしていません。政府が輸入量・価格をコントロールしているからです。国内生産量が占める割合は10%ぐらいで、作付面積もほぼ横ばいです。消費量の約90%は輸入に頼っています。
大豆の国内生産量、輸入量、消費量
大豆の国内生産量は4%前後しかありません。96%を輸入に頼っており、消費量の7割強が搾油用です。日本人は遺伝子組み換えには異常なほどのアレルギーを持っており、相場より、かなり高いものを買って(NON-GMOプレミアムを払って)、日本の食卓が維持されています。
とうもろこし:世界の生産量・日本の輸入量
とうもろこしは、ほぼ100%輸入で、大半がエサに回されます。
7.日本の食料自給率を考える
日本における食料自給率の変化
日本は、いろいろなものを輸入しています。カロリーベースでの食料自給率を見ると、2017年は38%。1965年には73%でしたので、35%低下しました。よく、小麦が増えて米が減ったからだといわれていますが、1965年の小麦の総供給熱量は292kcal、2016年は331kcalで、たいして増えていません。大きく変化したのは米・畜産・油脂の3つです。GATTウルグアイ・ラウンドで日本は米の輸入を始めましたが、コメそのものの消費量が年々減少し、油脂と畜産が大きく増えました。これが日本の自給率が大きく下がった理由です。
食生活の変化:供給熱量の推移
日本人の総供給熱量は1965年が2,460kcal/人・日で、2016年が2,429kcal/人・日です。たいして変化していません。米は1,090kcalから533kcalで約半分になり、畜産は2.63倍、油脂も2.25倍になりました。日本政府が行ったお米の政策が正しかったのかどうか。もちろん、肉が食べたい、油物が食べたいという個人の欲求は抑えられませんが、日本人は米を食べなくなりました。
実消費熱量と総供給熱量
厚生労働省が実消費カロリー調査を2011年に実施しました。総供給キロカロリーと実消費キロカロリーのギャップを見ると2011年は31%でした。1965年、日本の食料自給率が73%の時代は13%のギャップしかありませんでした。その原因は日本人が歳をとり、食べる量が減ったこと、食べ物の廃棄が増えたこと、揚げ油など捨てるものが増えたことによります。日本の自給率は38%という低い数字です。もし貿易が止まったら、南半球と北半球で同時に干ばつが起こったら、日本人は間違いなく飢えます。現実に起こる危険性は非常に高い。気候変動が激しくなり、何が起こってもおかしくない状態です。その中で自給率38%は、いかにも低いといえます。日本には休耕地がいっぱいあります。総耕地面積の28%は使われていません。田んぼをきちんと使えば、まだまだお米を生産することは可能です。そのためには私たち一人ひとりが食生活を見直す必要があります。
【本セミナーレポートに関する免責事項】
当サイトへの情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、
最新性、有用性等その他一切の事項についていかなる保証をするものではありません。
また、当サイトに掲載している情報には、第三者が提供している情報が含まれていますが、
これらは皆さまの便宜のために提供しているものであり、
当サイトに掲載した情報によって万一閲覧者が被ったいかなる損害についても、
当社および当社に情報を提供している第三者は一切の責任を負うものではありません。
また第三者が提供している情報が含まれている性質上、
掲載内容に関するお問い合わせに対応できない場合もございますので予めご了承ください。