HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~

2019年6月5日に札幌で開催しました「内田洋行ITフェア2019in札幌」イベントでの講演「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」についてレポートいたします。

杉浦 嘉彦 氏

▲ 月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

 2018年6月に食品の製造・加工・調理・販売などを行う全事業者に対してHACCPに沿った衛生管理を法制化する『改正食品衛生法案』が衆議院にて可決しました。食品関連事業者は遅くとも2021年の6月までにHACCPに沿った衛生管理計画を有し、その運用を行わなければなりません。少子高齢化の日本で持続可能な食品事業者経営を目指すために、国際的に認められるHACCPの導入は欠かせません。HACCPの義務化で、道内事業者の食品安全対応は大きな岐路に立たされています。国際化に向けて急速に舵を切る時代の流れに乗り遅れないように今の課題と対策をご解説します。

食品衛生法等の一部を改正する法律の概要

 食品衛生法等の一部を改正する法律が2018年6月13日に公布されました。食品の安全を確保するために以下の7つの措置を講じることになりました。ポイントはCodex、つまり国連のWHOとFAO合同の食品規格委員会が定めている国際標準に本格的に準拠することになったことです。すべての食品等事業者が衛生管理計画を作成しなければいけなくなりました。

1.広域的な食中毒事案への対応強化

広域的な食中毒事案への対応強化

 広域的な食中毒が発生したら、国と自治体、自治体同士で連携して対応しなければなりません。実は自治体をまたがる食中毒は結構発生しています。たとえば、2017年、量り売り弁当販売店で病原性大腸菌O157の食中毒が発生しました。栃木県と群馬県で同じ系列の店舗のポテトサラダで食中毒が起きていました。同じセントラル工場でつくられたポテトサラダでしたが、現物は残っておらず、可能性があるということで終わってしまった。1カ月後、同じ型のO157が富山県や大阪府でも見つかりました。1カ月たってからの発覚だったので、広域食中毒であるにもかかわらず、原因不明のまま、うやむやになってしまいました。

2.事業者による衛生管理の向上(=HACCPに沿った衛生管理の制度化)

事業者による衛生管理の向上(=HACCPに沿った衛生管理の制度化)

 広域連携の仕組みが備わることでフードチェーンの川上から消費に至るまで、一つひとつの施設の誰が食中毒の責任を負うのかという時代になります。食中毒が発生したとき、「身の潔白」を証明するためには食品安全をオペレーションの中で担保していることを見える化し、第三者に証明できる仕組みを構築しなければなりません。その道具が正にHACCPなわけです。

HACCPに沿った衛生管理―制度化の概要

 この制度化に関して、対象となる食品事業者を厚生労働省は3つの箱で示しています。中央の箱がHACCPに基づく衛生管理で、右側の箱がHACCPの考え方を取り入れた衛生管理、この対象となるのは規模(50人未満を想定)と3つの業種です。1つ目は、いわゆる対面販売の製造施設です。2つ目は多品目のところ、3つ目は運搬や流通、包装食品の販売などで、一般衛生管理の対応で管理が可能な事業者です。すべての食品等事業者が、どちらかをしなければなりません。町の飲食店も対象です。左側の箱はHACCP+αと言っていて、対米国、対EUなどの輸出対応が求められるところです。この3つの箱に厚労省は矢印をつけて、ステップアップが可能だとしています。つまり「考え方を取入れた」の対象業種や規模であっても「原則に基づく」をやっても良い。むしろステップアップして可能なら輸出を目指してもらいたいという文脈が読み取れます。なお、今回の制度化において、認証の取得は不要です。現在さまざまな手引書が出ていて、今年の2月1日には厚生労働省が通知を出して、自治体に厚生労働省審議済み手引書に基づいた監視指導等を行うこと、簡易版を作るときは国に相談することが示されましたが、あくまでも厚労省がしばろうとしているのは事業者側ではなく、監視行政の側だと理解してください。ここが大事なポイントです。

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

HACCPに沿った衛生管理―国と地方自治体の対応

 平準化しなければいけないのは、地方自治体による運用や衛生監視員の指導と書いてあります。事業者の衛生管理手法を平準化するとは書いていません。「自主的な衛生管理」と、むしろ自主性に任せるといっています。ここの文脈をしっかり読み込んでください。栃木県では『とちぎHACCP』という認証制度をCodexベースに切り替え、2018年1月から正式運用をしています。HACCPベースの査察に切り替わったことで、いきなり施設点検に入って、ともすれば重箱の隅をつつくような指摘と受け止められるような検査手法をすることはなくなりました。文書・記録類に目を通してから、それがきちんと有効性があるのか、実施状況等が決められた通りに運用されているのかを監査するようになりました。保健所の指摘が納得できたと事業者も喜んでいました。

3.食品による健康被害情報等の把握や対応―特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集

食品による健康被害情報等の把握や対応―特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集

 健康食品の被害の発生を未然に防止するため、下記のことが定められました。

食品による健康被害情報等の把握や対応―特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集

食品による健康被害情報等の把握や対応―特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

4.国際整合的な食品用器具等の衛生規制の整備

国際整合的な食品用器具等の衛生規制の整備

 容器包装のポジティブリスト制度が導入されます。ポジティブリストとは使っていいものをリスト化したもので、欧米で言うところのいわゆる「食品グレード」の包装材です。米国ではハザード分析の際、食品グレードであれば即OKになります。日本でも同様になると期待されます。

国際整合的な食品用器具等の衛生規制の整備

国際整合的な食品用器具等の衛生規制の整備

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

5.実態等に応じた営業許可・届出制度

実態等に応じた営業許可・届出制度

 営業許可業種への見直しや、現行の営業許可業種(政令で定める34業種)以外の事業者の届出制の創設などの案が出ています。34業種は見直しが進められ、30業種に減る案が出されています。

実態等に応じた営業許可・届出制度

実態等に応じた営業許可・届出制度

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

製造及び調理の区分の考え方

 着目していただきたいのは製造と加工と調理を定義づけしたことです。調理は「そのまま摂食し得る状態にすることで他の仲介業者を経ることなく」とあります。セントラルでつくり、サテライトで少し手を加えて提供する場合、はたして製造なのか、調理なのか。「寧(むし)ろ製造と見なすほうが適当と考える」とあり、大事なポイントです。

営業届け出の枠組み案

 鶏卵GPセンターだけ名指しで届け出対象になっています。それ以外は営業許可の対象外である、すべての製造加工業です。前述の30業種以外の製造加工は全部含まれます。販売業も営業許可の対象外であるところは全部届け出です。常温で包装された食品は適用除外ですが、駄菓子屋でもアイスクリームは売っているでしょうから、その場合は届け出が必要です。

6.食品リコール情報の報告制度の創設

食品リコール情報の報告制度の創設

 広域連携で即座に疫学調査が行われると、今まで隠れていた食中毒も見つかる可能性が高い。リコール計画をあらかじめつくることもCodexで文書化と記録づけの義務的要求事項の対象になっています、これは後述します。

食品リコール情報の報告制度の創設

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

7.その他

その他

 今後は輸入の相手国事業者に対してもHACCPを要求できるということです。これまでの輸入検疫の抜取り検査方式から、相手国工場のオペレーション管理を要求し、場合によっては査察も可能になる。米国のFDAと同様のことを堂々とできるようになります。

 

法制化により何がどう変わるのか? 事業者がしなければいけない必須なことは

 しなければいけないのは、たった3つです。自らの施設のハザードを明確化し、その管理のための「衛生管理計画」を作成し、それを遵守することです。

法制化により何がどう変わるのか? 事業者がしなければいけない必須なことは

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

 

厚労省が求めるCodex、HACCP

 HACCPとは「科学に基づいた系統的なもの」です。これを英語でいうと、システマティックといいますが、12手順7原則の一つひとつが全部ひとつなぎに紐付けされているということです。この理解が無い衛生管理計画が非常に多く、特に第三者認証の場合に手順の前後がブツブツに切れていて矛盾だらけの現場が散見されます。それでも認証は“取れてしまう”ことが結構あるだけにやっかいです。

厚労省が求めるCodex、HACCP

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

Codex、HACCP 12手順7原則

 手順1から5が徹底的に重要です。それはHACCPの核となるハザード分析のための背景情報の”見える化”の手順だからです。いかに現場オペレーションをきちんと見える化できるか、HACCPの成功は実はここにかかっています。手順6からは、たいしたことはありません。何を、どこで管理しているかを洗い出し、評価し、見直しする。その中でクリティカル(必須)な管理点が見つかったら、予防的なコントロール手段を明確化し、コントロールがされていることを第三者に証明するために別の方法で確認(検証)し、証拠として記録を残します。

 

Codexが認める弾力性

 Codex は2003年版のHACCP ガイドラインでSLDBsという概念を打ち出しました。SLDBとは小規模および特定の業種という意味で、7原則すべてを適用するのは場合によっては現実的ではないかもしれない業種のことです。

 

手引書もCodexベース

 この小規模および特定の業種ではHACCPに関する実際的な知識や技術を持った人がいないかもしれません。例えば多店舗展開する外食産業の場合、アルバイトが主体だったり、中にはワンオペで運営していたりで通常は店舗ごとにHACCP専門家などいないですよね。このような場面では業界団体の手引き書なども有益だと書いてあります。つまり厚労省はCodexの記述通りに法制化を進めているわけです。逆に言えばCodexを片手に持っていれば、厚労省の動きを読み解くことができます。ここでCodexは手引書を業種や業態に特異的でなければならないとも言っていて、つまり一般的なマニュアルではダメなのです。

 

多店舗展開する外食事業者のための衛生管理計画作成の手引きおよび資料集

 この動きを踏まえてわたくし自身もフードサービス協会の依頼を受けて「多店舗展開する外食」の手引書作成をお手伝いいたしました。「厚生労働省 業種別手引き書」とインターネットで検索すればそのページが出てきます。トップは食品衛生協会の個人店補の飲食店の手引き書ですが、ページを下に移動してもらうと私たちが作成した多店舗展開の外食事業者の手引き書がアップされています。

日本フードサービス協会の支援

 具体的には下記のような手順で作成し、3月29日に厚生労働省HPにアップされたところです。

日本フードサービス協会の支援

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

プロセスアプローチの実践

 通常米国などでは、多品目生産の施設ではある程度製品のグルーピングをします。そうしないと1品目ごとHACCP計画を作るのが現実的ではないためです。外食の場合、これを非常に大胆に3つのプロセス・グループに大くくりで分けました。簡単にいうと、菌が増える危険温度帯を何回通るかで整理し、グループ1、2、3に大くくりしました。この考え方は米国のリテールHACCPの基準で使われているものと、まったく同じです。さらに温度帯であまり菌が増える心配をしなくていいものはグループ0にしました。

プロセスアプローチの実践

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

すべてのメニューがグループ1、2、3の組み合わせ

 このように整理すると、すべてのメニューが結局、1、2、3の組み合わせでした。したがってファミリーレストランで実際にプロセスの記述をしたところ1つの「ファミリーレストランメニュー」という製品群にくくることができたわけです。

すべてのメニューがグループ1、2、3の組み合わせ

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

ハザードはどこからやってくる?

 多店舗展開する外食で整理した事項はまだまだあります。まずハザードの入り口ですが、これは3つしかありません。原材料か、人か、環境か。例外はありません。

ハザードはどこからやってくる?

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

ハザードをコントロールするのは誰か?

 また多店舗展開をする外食産業は本部があり、本部がサプライヤ管理をしているのが通常です。その場合は自分の店舗でハザードを管理する必要がないわけです。わかりやすい事例としていつも挙げるのですが、マクドナルドでは、すべてカット済みか、成形済みで、ビーフパティとバンズはボタンを押せば自動で焼けますから、店員は組み立てるだけです。対して、モスバーガーはレタスなどの野菜を丸のまま受け入れ、店でカットして殺菌もしています。つまり包丁の刃というハザードの入り口があるのです。同じハンバーガーという製品を提供していても店舗に求められる衛生管理項目は大きく異なります。つくるものが同じだから衛生管理計画が同じということはあり得ません。

あなたの施設リスクを知ろう♬ 原材料とメニューの管理は?

 ホールディングス化して統合的な本部があるところと、工場ごとの裁量権がある程度与えられているところによって求められる衛生管理は大きく変わります。

あなたの施設リスクを知ろう♬ 原材料とメニューの管理は?

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

あなたの施設リスクを知ろう♬ 原材料の供給者(サプライヤ)は?

 自社工場を持っているところ、承認サプライヤを使っているところ、場合によっては地元の市場で買うところとは、まったく異なります。

あなたの施設リスクを知ろう♬ 原材料の供給者(サプライヤ)は?

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

あなたの施設リスクを知ろう♬ ハザードをコントロールするのは誰?

 サプライヤ段階で加工済みのところ、厨房で調理しなければいけないところ、焼き肉などのように、お客さまが生の原材料を取り扱うところでは当然、ハザード管理の仕組みを変えなければいけません。

あなたの施設リスクを知ろう♬ ハザードをコントロールするのは誰?

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

あなたの施設リスクを知ろう♬ 店舗内にかくれた危険な“保管”はあるか?

 調理後2時間以上の保管があると怖いのです。特に隠れた保管には注意しなければいけません。例えば、ラーメン屋のチャーシューは常温で保管しています。冷蔵保管したチャーシューを熱々のラーメンに乗せて出したら、お客さまからクレームが出ます。冷やすわけにはいかず、菌が増えるのです。もし常温保管の作り置きをしているならば時間管理で廃棄しなければいけません。

 

あなたの施設リスクを知ろう♬ 店舗能力とオペレーションは適格か?

 あなたの施設が以下の状態になっていないか、着目してご注意してください。

あなたの施設リスクを知ろう♬ 店舗能力とオペレーションは適格か?

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

フードチェーンと保健所との相互協力の関係という発想

 従来、外食事業者は店舗管理をしてはいるが、サプライヤの管理は店舗管理の別部署で、ひもづけされていませんでした。開発もつながっておらず、バラバラな事業者が多かったですが、今回、サプライチェーンの協働という考え方を取入れたことで、事業者内の各部署も紐付けされることになりました。協働という意味では、地元の保健所とのコミュニケーションも協働の関係にあるべきだと説いています。

衛生管理計画で重要な6つの要件

 これら衛生管理計画で重要な6つの要件を手引書では下記のようにお示ししています。

衛生管理計画で重要な6つの要件

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

 

新規開発の地域支援プログラム

 このように多品目の製造加工生産(または調理)のHACCPに沿った衛生管理について現場ベースでの解決策を示してきましたが、これらを水平展開する取組みとして、地域支援プログラムを開発いたしました。これは和歌山県流通課の事業下で開発されたもので、米国FSMAの予防コントロール手法を参考にして組まれています。米国の予防コントロールはCodexの文書化および記録付けの要求事項と極めてフィットしており、今回の厚労省が求める、HACCPおよび一般衛生管理の計画書(衛生管理計画)との整合性が非常に高いだけでなく、多品目生産のHACCPも非常に効率的かつ合理的に整理しています。

和歌山県「新流通基準対応プログラム」

 和歌山では下記のような学習プログラムを組みました。大半が零細規模事業者です。ビデオで事前にレクチャーを受けて、自分たちの製品をどのように群でくくるか。さらに外食の場合も含めてどのようにすればいいか自らの現場を整理し、”見える化”を進めます。

和歌山県「新流通基準対応プログラム」

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

作れる!! 法制化で求められる衛生管理計画への道筋 ビデオプログラム:コンテンツ

 ビデオプログラムは1本あたり約40分くらいです。下記のようなコンテンツを用意しました。いわゆる手順1から5の“見える化”をしていく中で、「プロセスの記述」を丁寧に作り込むと、その後の手順6ハザード分析が非常に楽になります。例えば加熱一つをとってみても、温度を加える単なる加温なのか、それとも安全上ハザードコントロールとしての加熱なのか、プロセス記述の作成段階で全部聞き取れるので、ハザード分析のときはあらかた予防的コントロール手段も洗い出されている状態になります。この聞き取りはインストラクターの力量が非常に問われる場面だと思います。

リスク類型事例:多品目生産の場合…あなたの製品をグルーピング

 先ほどの外食の場合は、単純にプロセスを危険温度帯を通る回数で1、2、3と大くくりにしました。製造工場だと、もう少し考えなければいけません。仕入れる原材料、取扱い製品の安全上の性質、販売するお客さまの層と、それぞれでグルーピングし、オペレーション単位でアプローチします。販売するお客さまで、特定のリスクが高い層に販売する場合、特段の注意が必要です。グループ分けするのか、あえて同じグループにくくるのか、施設それぞれの考え方によります。ちなみに外食産業の場合、このプロセスの記述を現場の聞き取りをしてオペレーション単位で作成したところ、オペレーションの数はたかだか20程度で収まりました。多くの多品目生産の工場でもあまり複雑に考えず、オペレーションベースで整理することが成功の秘訣です。

製品群でくくるオペレーション単位のアプローチ

 これがオムレツ群でくくった例です。群でくくると、ラインが共通しているところ、例えばアレルゲンが1個だけ違い、小麦が入っているといった交差接触の心配も、きちんとハザード分析で拾えます。単品だと、交差接触の心配はハザードとして挙げられないかもしれない。くくったほうがむしろハザード分析は正確になるかもしれません。

フローダイアグラムを作成し、現場で検証する

 フローダイアグラムを作成する目的は受入れから出荷までの全体像が俯瞰できることです。やたらと細かくしてA3用紙に印刷しても“字が小さくて読めない”といった本末転倒の事態に陥らないようにしていただきたいです。ここでは常温保管と冷蔵保管と冷凍保管で原材料を大くくりに分けています。保管温度帯でわけてしまえば縦の列は3つだけで済みます(もちろん水や包材等は別途あります)。大事なことは、原材料の受入れから製品の出荷までの大まかな流れを俯瞰できないフローダイアグラムは失敗作であるという認識です。

フローダイアグラムを作成し、現場で検証する

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

プロセスの記述(抜粋)

 多くの施設でフローダイアグラムに加熱や冷却等のプロセスの記述を書き込むことで製品毎の細かい違いによってグルーピングができなくなり、HACCP計画がやたらと枚数が増えてしまうという事例です。枚数が増えると、更新管理が大変になります。実際には同じオペレーションで同じ管理をしているとなるとデータをコピー&ペーストしようとしますが、このコピペミスが現場では非常に多い。結果として管理できなくなり、文書管理業務がどんどん複雑になるという「わな」にはまってしまいます。

 そこで提案するのがプロセスの記述をフローダイアグラムとは独立させて箇条書きで簡潔にまとめるやり方です。これならば個別の類似製品で細かく違うプロセスは併記すれば済むし詳細も記述できます。たとえば加熱ならばそれが食品安全上の栄養細胞を殺滅できる加熱なのか、それとも品質上のみの加温なのかもプロセスの記述で明確にできます。微生物的な二次汚染やアレルゲンの交差接触の可能性などもこのプロセスの記述を作成する段階でおおよそ洗い出せますから、本格的なハザード分析に入る前におおよそ潜在的ハザードとその予防措置についても洗い出しが可能となります。

予測可能な課題と混乱

 予測可能な課題と混乱を書き出しておきます。

予測可能な課題と混乱

講演資料「HACCPの義務化と課題~食品事業者の持続と発展のために~」より

ワンファイルオールクリアは実現できるか?

 ワンファイルオールクリアを皆さまが選択しなかった場合、バイヤーによっても、場合によっては基準が違ってきます。保健所用とバイヤー用と、もしくは認証用と二重基準、三重基準になってしまうと、これは現場がかわいそうです。また代表品目だけ計画をつくっても、そもそも出荷する全製品をカバーした計画にはならない。厚労省が要求している衛生管理項目は全製品を対象とした衛生管理計画です。ワンファイルオールクリアを真剣に検討する必要があるのではないでしょうか。ここでさらなる整理をするために理解しなければいけないのは、やはりCodexです。

Codexの文書化・記録付け要求事項

 まずCodexで要求される文書化と記録付けとは何かを明確にしなければいけません。答えをいうと、第5章、オペレーションコントロールの章です。ここで文書化と記録付けが要求されています。別途、一般的なサニテーションやメインテナンス、そしてトレーニングに関しては適宜のプログラム化が要求されていますが、ハザード管理としての文書化要求事項については第5章ですべてカバーされています。そもそも厚労省の言われるHACCPおよび一般衛生管理の計画書である『衛生管理計画』というのは、Codexベースだと明言している。ISO22000もCodexの整合性を重要視しているわけなので、まずCodexベースの衛生管理計画を確立し、そこにプラスαの上乗せ要求事項について、ISOならISO、FSSCならFSSC、SQFならSQF、米国のFSMAならFSMAの文書化要求に対応するというかたちでやれば、保健所の監視行政にもバイヤーにも、そして第三者認証にも耐え得るワンファイルオールクリアが実現できるということになります。

 大事なことは安全で適切な食品をお客様に提供すること、そのためのオペレーションが見える化されて第三者に証明可能になっていることです。それはどの規格であれ、規制基準であれ何も変わるものではありません。規格や基準に振り回されることなくHACCPをツールとして食品事業者の信頼確保につなげていただき持続的発展を目指していただければ幸いです。

 講師ご紹介 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構常務理事、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都食品衛生自主管理認証制度 認証基準設定専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、農林水産省 農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会委員、財団法人 食品産業センター 食品の品質管理強化対策事業 委員、日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFCJ)食品事故対策支援チームメンバー、等

 関連製品 

HACCP文書作成ツール「HACCPクリエータ

 「HACCPクリエータ」は、フローダイアグラムの作成・修正における圧倒的な生産性と、ハザード分析表・HACCPプランの自動出力・取込機能により、HACCP文書の作成・維持管理工数を大幅に削減するHACCP文書化専門ツールです。

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