
はじめに
食品工場の現場では、「今日は何も起きませんように」と願いながら、日々の生産を回している方も多いのではないでしょうか。しかし実際には、現場の一日は“計画通り”に進むというよりも、予定外の出来事を吸収しながら前に進めていく連続です。
たとえば、朝礼が終わった直後に欠員連絡が入ることもありますし、原料がいつもと微妙に違っていて、条件を合わせ直さなければならない日もあります。設備が止まるほどではないけれど「いつもと違う音がする」「なんとなく嫌な振動がある」といった“違和感”が出ることもあります。そして繁忙日ほど、なぜかこうしたことが重なりやすいのが食品工場の現実です。
典型的な「通常外」の例としては、次のようなものが挙げられます。
- 人が急に休む
- 原料の状態が違う
- 機械がいつもと違う音を立てる
- 計画が朝イチでひっくり返る
こうした“通常外”が、当たり前のように発生しているにもかかわらず、現場の仕組みは「通常通り動く前提」で作られている。このギャップこそが、食品工場が疲弊する最大の原因です。
ここで重要なのは、通常外は「想定外」ではない、という視点です。通常外は、想定していないだけで、確実に起こる“仕様”です。だからこそ現場改善の鍵は、通常外を「起こらないようにする」ではなく、起きる前提で、ハードもソフトも準備しておく設計にあります。
1. 通常外は「起こる頻度」で見れば、もはや日常
通常外という言葉から、多くの人は「まれなトラブル」を想像します。大きな設備故障や、クレームにつながる品質事故のような“重大イベント”を思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし現場で起きている通常外は、もっと日常的で、もっと頻繁です。たとえば次のようなものは、年に1回どころか、毎週・毎月のように起こっているはずです。
- 欠員が出る
- ベテランがいない
- 原料が微妙に違う
- 設備の調子が悪い
- 予定が変わる
これらは、事故ではありません。現場にとっては「よくあること」です。つまり食品工場においては、「通常外が起きない日」のほうが例外とも言えます。だからこそ、通常外が発生するたびに、その場の頑張りや経験値で吸収する運用は、長期的には必ず苦しくなります。
通常外が“いつか起きる”ではなく、“確実に起きる”のであれば、仕組み側がそれを前提にしておかなければ、最後に負担を背負うのは現場になります。
2. 通常外は4つに分けると、対策が設計できる
通常外を「全部トラブル」で片づけてしまうと、対策は「注意する」「気をつける」に終始します。しかし食品工場では、注意喚起だけで止まる通常外は多くありません。忙しいときほど、人は確認を省略し、判断を急ぎ、記録を後回しにしてしまうからです。
そこで、通常外を“設計”で潰すために、まずは分解します。現場で起こる通常外は、大きく次の4つに整理できます。
2-1. 人に由来する通常外(ヒューマン要因)
現場で最も影響が大きく、かつ頻発するのが人に関わる通常外です。特に食品工場は、工程が止められないケースが多く、欠員が出ても「止める」より「何とか回す」が優先されがちです。その瞬間から、現場は“通常外モード”に切り替わります。
- 急な休み(体調不良・家庭都合・感染症)
- 欠員による応援投入
- 新人・派遣・期間工が入る
- ベテラン不在で判断が止まる
- 作業者ごとの癖・認識差
- 疲労による確認漏れ・思い込み
ここで特に現場を揺らすのが、急な休みです。急な休みは、なぜか「忙しい日」「人がギリギリの日」「重要工程の日」に限って発生します。もちろん実際には偶然なのですが、現場の体感としては「狙ったかのように起きる」。これはもう事故ではなく、前提条件として扱うべきものです。
急な休みが発生すると、応援者を入れる、配置を変える、ベテランが複数工程をまたぐなど、現場が瞬間的に“再編”されます。ここで起きるのは、単なる作業量増加だけではありません。工程の理解度・判断の精度・確認の質が変わります。つまり、品質と安全のリスクが「じわじわ」ではなく「一気に」上がります。
- 人が変わっても品質が変わらない
- 経験値が低くても判断できる
- 欠員が出ても破綻しない
つまり、「誰がやるか」に依存しない設計が必要です。ここでのポイントは、気合いで補うのではなく、判断を人から仕組みに移すことです。「これを見れば迷わない」「この条件なら止める」「この工程は今日はやらない」そうした“線引き”がある現場ほど、急な休みが出ても崩れません。
2-2. 設備に由来する通常外(ハード要因)
設備は壊れます。しかも、壊れ方は毎回違います。食品工場の設備トラブルは、完全停止だけではありません。「止まらないけど不調」という形で現場を苦しめることが多々あります。
- センサーのズレ
- 温度・圧力の微妙な逸脱
- ベルトの蛇行、詰まり
- 包装機のシール不良
- 洗浄後の乾燥不足による結露
- 「止まらないけど、何かおかしい」状態
厄介なのは、完全停止しない不調です。現場は「止めるほどじゃない」と判断し、結果的に後工程で問題が顕在化します。
たとえば包装のシール不良がじわじわ増え、検査で引っかかり、手直しが増え、ラインが詰まり、最終的には納期が押す。現場としては「止めたら終わる」ので止めない判断をするのですが、結果的に“もっと大きく止まる”形になるのが怖いところです。
- 壊れないことを目指さない
- 壊れても被害を広げない
- 異常を“早く・小さく”見つける
設備側の通常外設計とは、「設備が故障しないようにする」だけでなく、故障が起きたときに被害が広がらない設計を組み込むことです。
つまり、止まったときのリカバリーを前提にする、異常兆候を早く拾う、切り離しやすくする。こうした“回復の設計”が現場の負担を軽くします。
2-3. 物に由来する通常外(原料・資材要因)
食品工場は、そもそも「ばらつきのあるもの」を扱っています。この領域は“現場が悪い”ではなく、“製造業の宿命”として存在します。
- 原料ロット差(含水率、硬さ、脂肪、糖度)
- 包材の微妙な仕様変更
- ラベルの誤納品・欠品
- 異物リスクの増大
- 想定外の原料状態(凍結・解凍ムラ)
検査で弾くだけでは限界があります。なぜなら、検査は最終的に「見つける」仕組みであって、「起きないようにする」仕組みではないからです。さらに繁忙日ほど、検査の負荷も高くなります。この領域の通常外設計は、原料のばらつきが“出る前提”で、工程条件を設計し、NGが出たときでも混乱しないようにすることが重要です。
ラベル欠品などは“現場の努力”でどうにもならないので、代替策(緊急ルート、承認手順、止める基準)を持っているかどうかで、被害が変わります。
- 原料がブレる前提で工程を設計
- NGを出さないより、NGを出しても混乱しない
- 人が判断しなくて済む条件設定
「人が頑張って調整」ではなく、工程が吸収できる幅を確保する。これができるほど、通常外が“異常”ではなく“運用内”になります。
2-4. 計画に由来する通常外(生産・需要変動)
計画通りにいかないこと自体が、食品製造の常です。そして計画の通常外は、他の通常外(人・設備・物)を連鎖的に引き起こします。
- 特売・キャンペーンで急増産
- 受注の前倒し
- 欠員による能力低下
- 段取り替え増加
- 清掃時間の圧縮
忙しくなるほど、「本来守るべきルール」が削られます。そしてこの“削られやすいもの”が、食品工場では致命傷になりやすい。
たとえば清掃や確認は、短期的には削るとスピードが上がりますが、中長期的には異物・衛生・品質トラブルとして返ってきます。結果的に大きく止まる。忙しい日に限って火種が育つのは、こうした構造があるからです。
- 繁忙日ほど壊れやすい工程を先に潰す
- “忙しいから省略”を前提に設計する
- 忙しい日用の運転モードを持つ
繁忙日を「気合いで乗り切る日」にしないこと。繁忙日にこそ、仕組みで守れる設計が必要です。
3. 通常外に強い現場は「切り替え条件」が明確
通常外が起きたとき、強い現場は迷いません。それは、判断が早いからではなく、迷わない条件が先に決まっているからです。
- どこで異常と判断するか
- 何を止めるか、止めないか
- 誰が判断するか
- どこに記録が残るか
- 再開条件は何か
これが曖昧な現場では、通常外が起きた瞬間に「とりあえず回す」が正解になってしまいます。後で報告する、後追いで詰める、という“疲れる運用”になりがちです。
- とりあえず回す
- 後で報告する
- 管理者が後追いで詰める
この運用が続くと、現場は「問題を起こさないこと」より「問題を隠さないと回らない」状態になってしまいます。だからこそ、切り替え条件を明確にしておくことは、現場を守る設計そのものです。
4. 通常外を想定した「ハード設計」
4-1. 壊れないより、壊れても致命傷にならない
通常外を設計するうえで、ハード(設備)に求められるのは、「絶対に壊れない設備」ではなく、「壊れても被害が局所で済む設備」です。
- 重要センサーの二重化
- フェイルセーフ設計(異常時は安全側へ)
- 停止単位を小さくする局所停止
- 物理的ポカヨケ(形状・色・治具)
- 人が考えなくても間違えない構造
例えば、重要センサーが1つしかないと、ズレたときに気づけません。二重化しておけば、違いが出た瞬間に“異常の芽”が見えます。また、ポカヨケは地味ですが強いです。「注意してください」より「間違えられない構造」にするほうが、通常外に強くなります。
5. 通常外を想定した「ソフト設計」
5-1. 人に頑張らせない運用
ハードが整っていても、運用が“通常前提”だと通常外には負けます。だから必要なのは、通常外が起きたときに即座に切り替えられる運用=ソフト設計です。
例①:急な休みが出た日
- その日の“やらない工程”を決めている
- 検査頻度を上げる工程を明確化
- 新人・応援者でも回せる配置
- 判断が必要な作業は外す
欠員が出たときに、「全部いつも通りやろう」とするほど破綻します。だからこそ“やらない工程”を決めるのは弱さではなく、品質を守る強さです。
例②:異常発生時
- IF分岐で書かれた手順書
- 「迷ったらこれ」を明文化
- 現場判断を減らす
通常外では、判断が増えます。判断が増えれば、ばらつきが増えます。つまり、通常外に強い工場ほど、通常外のときこそ「判断が減る」設計になっています。
6. ITは「管理」ではなく「通常外対応装置」
ITが現場に嫌われる理由は明確です。
- 管理側のためだけ
- 入力が増える
- 責められる材料になる
この状態でITを入れると、現場は「また仕事が増える」と感じます。実際、入力が増えれば忙しい日ほど記録が追いつかず、結果として“守れていない記録”が増え、現場が責められる構図になります。これでは定着しません。逆に価値を出すITは、現場の通常外を助けます。
- 異常を即通知する
- 判断材料をその場で出す
- 記録を自動で残す
- 後追い確認をなくす
つまりITとは、監視のための仕組みではなく、通常外が起きても現場が崩れないようにする「対応装置」です。現場が楽になる方向に働くITほど、導入価値が高く、定着します。
おわりに
通常外はなくせません。しかし、通常外で現場が壊れるかどうかは、設計次第です。
- 通常外は仕様
- 起こる前提で設計する
- 人・設備・物・計画を分けて考える
- ハードとソフトで備える
- ITは支援装置として使う
これができた現場は、「頑張らなくても、ちゃんと回る」現場になります。そしてそれは、現場が楽になるだけではなく、品質が安定し、トラブル対応コストが減り、結果的に利益体質につながっていきます。
通常外を「現場が何とかするもの」にせず、「仕組みで吸収するもの」に変える。その設計が、これからの食品工場の強さになります。

利益改善コンサルタント
資格・スキル活用コンサルタント
技術士合格講師
小松 加奈 氏
日系大手製造業に勤務しながら(2007年新卒入社、技術系総合職)、複業として個人事業も展開している。
工場現場担当者の経験もある、現役会社員の技術士。最前線で『リアルタイム』の『現場』『現物』『現実』『最新技術』と日々向き合っている。
勤務先では、開発部・工場(開発課・製造課・生産管理課)・商品部・生産本部生産管理部にて、工場現場から、本部での管理業務、生産原価管理システム構築、新設工場の生産管理業務構築まで務める。原価改善プロジェクト多数実施。改善・原価教育多数実施。
個人事業では「製造業特化型コンサルティング」「完全カスタマイズ型コンサルティング(全業種対象)」「資格・スキル活用コンサルティング」「技術士合格講座(一般部門全20部門対象)」を展開。
科学技術分野の文部科学大臣表彰(文部科学省主宰)の技術審査員も務め、400件以上の製造業改善事例を審査。
利益改善に関するコンサルティングや、合格に導く技術士受験指導にも定評がある。
【 資格 】
技術士(経営工学部門)、第一種衛生管理者、ハム・ソーセージ・ベーコン製造技能士、フォークリフト運転技能、フードコーディネーター 他
利益改善コンサルタント 技術士 小松加奈website
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