国際ロジスティックスの仕組み

国際ロジスティックスの仕組み

1. 国際ロジスティックス

 ロジスティックスは米軍が戦闘最前線に安全で効率的に物資や兵員を補給、管理する業務を指す軍事用語で日本語では兵站(へいたん)と訳されています。現在では物の移動に関する出発地から目的地までの全行程に係わる物流戦略を意味します。因みに、英語でLogisticsやLogisticalというと、物流や物流管理だけでなく事業を行うための実務全般や事業管理などの後方支援業務の全てを含む総称で、非常に重要で多くの意味を包含する概念です。

 但し、日本の国際物流は島国のため海上輸送か航空輸送に限られ、それぞれのメリットとデメリットがあります。

2. 海上輸送

 海上輸送は重量、容積がある大きな貨物を長距離運ぶことができます。
運賃が低廉なためコストが抑えられますが、速度や安全の面では航空貨物に劣ります。
例えば欧州主要港まで航海日数は約1ヵ月です。それに輸出国、輸入国の内陸輸送、通関手続きの日数を加えると戸口から戸口までの所要日数は1ヵ月半を見込んでいます。

 船舶については世界各地の港に定期航路を持ちスケジュールを組んで運航されている定期船と、荷主が必要な時に船主から船舶を借り入れて運航される不定期船があります。
現在はコンテナ船が主流です。スチール製のコンテナ容器を使いユニット化された貨物を効率的に運ぶことができます。しかしコンテナヤード(CY)の設備のない仕向港や、コンテナサイズに入りきれない大きな貨物には使えません。

 在来船はコンテナ船が出現する前から使われている船舶で、クレーンなど装備しており貨物の積み下ろしが自前で可能な自己完結型の船です。コンテナ船が着岸できないCY設備のない開発途上国や小さな港への運航や巨大貨物、穀物類などバラ積み貨物用に使われています。

3. 航空輸送

 航空輸送の利点は圧倒的な速さです。例えば欧州主要都市まで日本から直行便では約12時間です。
運送時間が短いことは貨物に対する事故が少なく安全で運べます。
そのため航空貨物の場合は通常は貨物運送保険を掛けません。
海上貨物の場合は通常は貨物海上保険を付保して運送途上のリスクをカバーします。

 航空輸送の場合、貨物を直接扱うのは航空会社ではなく航空貨物代理店です。
国際航空運送協会(IATA)に加盟している世界中の航空会社を利用できるので複数の航空路線で貨物を載せ替えて利用でき世界のあらゆる場所へ空輸できる運送システムが構築されています。また運賃もIATAレートで統一されています。

 航空貨物代理店はフォワダーと呼ばれ、荷主から小口貨物を集め混載便として大きくひとつの貨物としてまとめられ、フォワダーが荷主となり航空会社に渡します。

 航空運賃は重量逓減制が取られているので、小口貨物をまとめて1個の大きな貨物にすると割引運賃が適用されます。この制度を利用してフォワダーは小口貨物と大口貨物の運賃レートの差を利益としています。
また小口貨物の荷主もそれによって通常の運賃より割安なレートを享受します。

4. 貨物の流れ

海上貨物

 輸出者は貨物の準備が整うと荷主として船会社の代理店である物流業者に通関手続きを含め船積依頼書で手配をします。容器としてのコンテナは長さ20フィート(約6m)と40フィート(約12m)の2種類が日本では一番よく使われています。コンテナ船を利用する場合は、業界用語でフルコンと呼んでいる1荷主がコンテナ1本を満たしたFCL(Full Container Load)貨物があります。

 また複数の荷主から集荷された小口貨物を1本のコンテナに混載するLCL(Less than Container Load)貨物があります。FCL貨物はコンテナ船が着岸する港湾にあるコンテナヤード(CY)へ搬入されます。LCL貨物はCYの敷地内にあるCFS(Container Freight Station)へ搬入されます。CFSは小口貨物をコンテナに詰める作業をするので屋根のある倉庫のような場所です。

 保税地域になっているCY/CFSに搬入後に輸出通関手続きをする場合と、輸出通関許可された貨物が搬入される場合もあります。
いずれにせよ輸出許可を得るまでは船積はできません。CFS貨物は混載されて1本のコンテナに仕立て上げるとCYへ移動されます。コンテナ船への積み込みは専用のガントリークレーンでされます。

航空貨物

 貨物は国際空港内にある貨物専用ターミナルに搬入されます。
ここは保税地域になっており搬入後に輸出通関手続きを経て輸出許可を得る場合と、輸出許可を得た貨物が搬入される場合もあります。
フォワダーは小口貨物を集め混載貨物に仕立てて大口貨物として航空会社に渡します。
混載便が主流になっていますが、到着地によっては週1便、2便と貨物量枠が決まっているので、フォワダーの都合によりスケジュールに合わせて出荷する必要があります。
貨物締め切り(カット時間)に間に合わない場合は次の搭載日まで待つ必要があります。
急ぎの貨物の場合は直行便(ダイレクト便)を使用します。これは混載ではなく1個口貨物としてそのままフライト便に搭載されます。
但し運賃は混載便よりも割高になってしまいます。

 最近は小口貨物向けに国際宅配便であるクーリエサービスもよく利用されます。代表的なクーリエにはDHL, FEDEX,UPSなどがあります。
通関手続きや現地での国内配送まですべて含めて請け負うのが特徴で、短期間(数日)で配達する戸口から戸口までの一貫輸送サービスです。
運賃及び通関手続き費用も含んだ諸掛の総合計の見積もりが出荷前にできるので国際運送に慣れていない荷主にも使いやすいサービスです。

5. 国際複合輸送

 海上運送、航空運送、陸上運送を組み合わせて一貫輸送ができる国際複合輸送人(Multimodal Transport Operator)と呼ぶ大型フォワダーが出現してきました。
海外支店や海外提携先を多数持ち海外ネットワークを構築し、貨物の運送、荷役、梱包、保管、関係書類の作成から通関手続きまで総合的なサービスを一元的に提供できる物流会社です。

 船会社や航空会社などの運送人(キャリアー)と運送手段を自ら持たない利用運送人(NVOCC: Non Vessel Operating. Common Carrier)の二つのグループがあります。

 NVOCCは荷主から貨物を集荷してコンテナなどの大口貨物に仕立てて船会社、航空会社を下請けとして運送契約を結びます。従って運送人から見ればNVOCCは荷主であるわけです。
一方でNVOCCは実際の荷主に対しては陸海空の一貫輸送を引き受けた証拠として全ルートをカバーする通し船荷証券(Through B/L)を発行して渡します。この書類は運送契約書を兼ねた貨物の引換券として役割を持つ権利証券です。
この運送サービスの代表的なルートのひとつとしてSLB(Siberian Land Bridge)があります。これは日本の舞鶴、新潟などから海上輸送でロシアのナホトカ港まで運び、その後はシベリア鉄道でモスクワ、サンクトペテルブルグの終点まで運びます。そこからは陸路、空路、海路を使って欧州全域に運ばれます。南回りで行く海上航路より若干短い期間で欧州まで運送できるルートです。

 その他MLB(Mini Land Bridge)はアメリカ西海岸まで海上輸送して、その後アメリカ内陸部を鉄道輸送で東海岸のニューヨークまで運ぶルートです。
シーアンドエアという複合輸送もあります。これは日本から東南アジアで最大のシンガポール・チャンギ空港まで海上輸送して、そこから安い航空運賃レートの飛行機を使って欧州や米国へ空輸する方法です。
チャンギ空港は世界のハブ空港として多数の航空会社が集まってきています。便数も多く競合が激しい為多様な安い運賃レートが可能になっています。
海上輸送だけで運ぶよりは所要日数が大幅に短縮でき、費用は航空輸送だけよりも安く抑えることができます。運送手段と情報手段等の組み合わせで今後も多様な運送ルートが開発されるでしょう。

航空貨物

千田昌明氏
 執筆者 
株式会社トレードタックスウェストジャパン
代表取締役
千田 昌明 氏

【経歴】
三菱銀行(外為・法人新規など)を皮切りにアパレルメーカー(取締役)と機械メーカー(買収した米国会社のCFOなど)の合計3社でサラリーマンを経験
独立して米国やタイを中心に国際税務・税関のコンプライアンスを中心に活動
貿易を通じてアフリカの経済的自立を持続的にサポートするため一般社団法人JETICを設立、理事に就任
【資格など】
米国公認会計士 (USCPA)、米国税理士(EA)、AIBA(貿易アドバイザー協会)認定貿易アドバイザー、JUSCPA西日本部会長、通関士有資格者、輸入食品衛生管理者、日本拳法 三段、英語落語(芸名 Doraku)
弓場俊也氏
 執筆者  弓場 俊也 氏

総合商社のイタリア駐在を経て独立、貿易コンサルタントとして海外取引先との交渉及び業務連絡、輸出入手続(通関士資格保有)、海外見本市出展準備、海外買付業務、国際契約の交渉から締結まで、国内外企業の顧問、貿易部門の立ち上げ、社内研修、ビジネス通訳・翻訳(日本語⇔英語・イタリア語)、貿易実務等を業務とする。大阪市立大学非常勤講師、JETRO神戸貿易アドバイザー

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