食品の輸入手続き

食品の輸入手続き

1.国民の健康を担保する厳格な輸入手続き

 日本の食料自給率は約4割で6割を海外からの輸入に頼っていると話題になった頃がありました。数字の算出方法でカラクリがあるとも言われました。
いずれにせよ、2000年代に入ってからはカロリーベースで4割台のまま横ばいで推移しているのが現状です。これは日本の食品の内外価格差が大きいことが一番の理由で安い外国の食品輸入が増えています。
特に日本の市場に合った商品特性のものを海外で育成開発して日本に持ってくる開発輸入も盛んです。

 それほど輸入量が多い食品ですが一般商品と比べて輸入の手続きは厳格です。
それは国民の健康を担保するためです。
輸入手続きに先立ち食品衛生法に基づいた「食品等輸入届書」の提出が検疫所に提出が義務付けられています。税関に輸入申告手続きをする前に国内法である食品衛生法に適合しているかどうかの審査、検査を受ける必要があるわけです。

 食品衛生法で定める食品の定義は広く、一般的な食品はもちろん食品添加物、食器など器具、容器、包装や乳幼児用のおもちゃ等も含まれます。
およそ口に入るものは全て食品とみなしているようです。そして農産物に関しては植物防疫法により「植物検疫」、畜産物に関しては家畜伝染病予防法により「動物検疫」が必要になります。

 加工食品の場合は輸出者から原材料構成表と製造工程表を入手します。これにより食品衛生法の規格、基準に適合しているかどうかを事前確認できます。
輸出国では使用が認められている添加物が日本では認められていない場合もあるからです。
厚生労働大臣認可の民間検査機関などで自主検査が可能で検査成績表を取得することもできます。

 また関税番号を調べて税率の確認も可能です。事前教示制度により管轄税関の税関相談室、またはEメールでも照会できるようになりました。

2.輸入通関手続きと輸入制限

 食品貨物が海外から到着すると原則として保税地域に搬入されます。保税地域とは「税関監督下の特別の場所」で、ここに蔵置しておく限りにおいては関税や国内税は賦課されません。
関税法では、輸入通関手続きは原則として、保税地域に搬入後にされることが規定されています。
検疫所に提出された食品等輸入届書は「検査不要」と「検査要」に判断されます。
検査不要の場合は「輸入届済証」が発行されて直ちに輸入通関手続きに入れます。
検査要の場合は分析などの結果により食品衛生法に適合が認められた場合に限り輸入申告ができます。

 検査結果により不合格になった場合は滅却処分、または積戻し手続き、場合によっては用途外転用などが適用されます。

 通常は滅却処分になりますが、勝手に滅却できるわけではなく、「滅却(廃棄)承認申請書」を管轄税関に提出して滅却を承認してもらう必要があります。
その後に認められた場所で滅却処理として焼却処分されます。廃棄の場合も処理業者に任せる場合が多いですが、いずれも税関の指定業者になります。
また場合により税関が滅却、廃棄に立ち会う場合もあります。

 処理を実施した旨の確認書を税関に提出して一連の手続きが完了します。

 関税率について一般商品は原料よりも加工品のほうが税率が高い場合が多いのです。
ところが農産品の場合は国内生産者保護の観点から、原料については高関税やIQ(輸入割当(Import Quota)、TQ (関税割当Tariff-Rate Quota)が設定されている場合があります。
IQは年間輸入量を制限して輸入希望者に割り当てます。輸入者は事前に経済産業省に割当申請をして輸入承認書を取得します。この承認数量の範囲内で輸入ができることになります。水産物が主ですが品目毎に年一回輸入量の公表が行われます。

 関税割当TQは輸入割当IQよりも制限は弱くなりますが、一定の数量までは無税または低税率(一次税率)を適用し、一定数量を越した場合に高税率(二次税率)を適用されます。これは国内の消費者と生産者の両方に便宜を図るための制度です。二次税率は高税率のためビジネスとしてはコストが高くなり、実質的に輸入を抑制することになります。

3.低関税の抜け道と原産地表示

 関税は商品別に細かく税率が決められています。そこで形態を変えると低い関税で輸入できる場合があります。例えば原料として米は高関税率の代表です。農林水産省が関税率換算で以前は778%でしたが280%に修正しました。それでも超高関税には変わりはなく実質的には輸入禁止措置のようなものです。ところが米を粉にして85%以下になるよう異物?を混入させると米粉調製品と名称が変わり、基本税率も16%に一気に下がります。異物混入と言いましたが、税関の見解によりますと簡単な操作では分離不可能なものであることと規定されています。そして、実際にはデンプンや砂糖、油脂を混ぜたものが米粉調整分として輸入されています。

 輸入許可後に比重の差を利用して分離させたり、ふるいに掛けて分離させたりしてピュアな米粉にすることができます。こうして輸入された米粉が、あられ、せんべいなど和菓子の原料として用いられています。

 スーパーで売られている「国産牛」という表示も微妙です。生まれた時からずっと国内で飼育された牛なのだろうと漠然と認知している消費者が多いのが現状です。牛肉の場合は「和牛」「国産牛」「輸入牛」に分類されます。
和牛は日本の在来種で日本国内で出生し育てられた牛に限ります。生まれも育ちも日本というわけです。国産牛は日本で飼育された牛のことです。以前は3ヵ月ルールというものがあり、海外から幼牛を輸入して3ヵ月以上日本で飼育する必要がありました。現在はJAS法で最も飼育された期間の長い場所(最長飼養地)を原産地と表示できるようになりました。

4.食品輸入は事前の書類完備が要

 食品輸入は事前の準備が大変ですが、必要書類の完備が大きなポイントとなります。
通関業者と必要書類の確認、そして輸出者へ書類発行依頼をして、できれば貨物到着前に全書類を入手して不備がないか確認しておきます。
初めての商品輸入の場合は食品に限らず手続き準備が大変ですが、同種類のものなら2回目以降はスムーズに通関手続きできます。
税関はNACCSというオンラインデータシステムで輸入通関手続きを始め各種手続きを処理しているので通関実績として残ります。
問題がなければ2回目以降は手続きも簡略化される傾向にあります。

食品の輸入手続きの流れ

出典:「食品衛生法に基づく輸入手続 – 輸入手続の流れ」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144562.html

千田昌明氏
 執筆者 
株式会社トレードタックスウェストジャパン
代表取締役
千田 昌明 氏

【経歴】
三菱銀行(外為・法人新規など)を皮切りにアパレルメーカー(取締役)と機械メーカー(買収した米国会社のCFOなど)の合計3社でサラリーマンを経験
独立して米国やタイを中心に国際税務・税関のコンプライアンスを中心に活動
貿易を通じてアフリカの経済的自立を持続的にサポートするため一般社団法人JETICを設立、理事に就任
【資格など】
米国公認会計士 (USCPA)、米国税理士(EA)、AIBA(貿易アドバイザー協会)認定貿易アドバイザー、JUSCPA西日本部会長、通関士有資格者、輸入食品衛生管理者、日本拳法 三段、英語落語(芸名 Doraku)
弓場俊也氏
 執筆者  弓場 俊也 氏

総合商社のイタリア駐在を経て独立、貿易コンサルタントとして海外取引先との交渉及び業務連絡、輸出入手続(通関士資格保有)、海外見本市出展準備、海外買付業務、国際契約の交渉から締結まで、国内外企業の顧問、貿易部門の立ち上げ、社内研修、ビジネス通訳・翻訳(日本語⇔英語・イタリア語)、貿易実務等を業務とする。大阪市立大学非常勤講師、JETRO神戸貿易アドバイザー

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