はじめに
「ハザードと紐づけられるキーとなる側面」の長い連載も、この「7.2.9 包装」がラストです。食べられるわけではない「包装」ですが改正された新食品衛生法のHACCPに沿った衛生管理でも包装製造業が対象に含められました。ISO22000など民間認証では先んじて食品安全マネジメントの適用範囲となっています。それは「7.2.3 微生物学的、物理的、化学的およびアレルゲンの仕様」で示したように包装仕様は食品安全ハザードと紐づけられる場合があるからです。製造者安全データシート(Material Safety Data Sheet;MSDA)を要求するなど「7.2.8 受入れる原材料への要求事項」の側面も忘れてはなりません。
包材は食品グレードであること
食品で使用される包材には、紙・木材、プラスチック、金属、ガラスがあります。包装設計/包装材料が、食品の使用に安全かつ適したもの(食品グレード)であるかは、材料自体がハザードとなるかどうかの基本的な文書化/記録付けの対象項目です。何を当たり前のことをとお思いになるかもしれませんが、この「食品の使用に安全かつ適したもの」は2020年版Codexで新たに追加された表現です。民間認証では先んじて要求事項であったこと、改正新食品衛生法でも食品等事業者に包括されたのは上述の通りです。
とくに化学性の包材・器具についてはポジティブリスト制度といって、使用される化学剤が食品グレードであることを証明することが包材・器具メーカーに義務付けられ、その食品グレード情報が食品等事業者に適切に伝達されることまで法的義務となりました。
包装で考慮されるべきハザード
包材は、①汚染を最小限に抑え、②損傷を予防し、③正しいラベリングに対応するため、④製品にとって適格な保護を提供する機能が求められます。包装・梱包が食品を外界から遮断し保護する目的で使用されるのはよく理解できると思います。英語で包装は「packaging」、梱包は「packing」の語を充てますがCodexでは「packaging」の単語のみが使用されています。「packaging」は「packing」よりも覆い、保護するという機能が強調されています。
これら①~④の機能は、「HACCP原則に基づいた衛生管理」を選択した場合、ハザード分析において“見える化”しなければならないポイントです。たとえば上述のポジティブリスト制度は化学性の包材が溶出・変性といった食品汚染となり得るハザードでない保証を取り付ける法的要求事項です。また、包装されたまま加熱される食品包装の熱可塑性、真空包装やガス置換包装の場合のガスバリア性(酸素の透過性)、必要ならば遮光性や耐水性など、衛生上考慮されている場合は潜在的ハザードを挙げていただくのも良いでしょう。またガス置換包装の場合はその使用されるガスも含めて有毒汚染物質を含んでおらず、指定された保管および使用条件下で、食品の安全性および適切性を脅かすものでないことを製品説明やハザード分析表において“見える化”しておきましょう。
ラベルも、包装が食品安全において果たす重要な機能です。正しいアレルゲン表示は食物アレルギーをもつ人々にとって生命に直接かかわる問題ですし、使用上の注意(保存方法、期限表示、生食用であるかないか等)も品質面だけでなく安全性に関連する場合があります。はちみつの乳児ボツリヌス症、窒息・誤嚥事故、「加熱してお召し上がりください」などの注意書きも重要な役割を担っており、これらも製品説明やハザード分析で“見える化”しておきましょう。
再利用可能な包装(たとえば、通い箱)を使用される場合は、その包材が再利用としての耐久性に適しており、クリーニング容易で、必要な場合には消毒可能なものであることも考慮しておきましょう。
包装の変更はハザード変化かもしれない
包装にある注意喚起表示やアレルゲン情報は製品説明書で見える化されますが、最終消費者向け表示の場合には製造者が意図した用途以外の製品使用をしてしまうことが知られているような場合も考えられます。たとえば、「加熱してお召し上がり下さい」と表示していてもウインナーソーセージなどそのまま食べてしまうことが知られています。また海外では未焼成のクッキー生地(冷凍、冷蔵)を焼かないで食べるサルモネラ食中毒が数多く発生したことがあります。このような「誤用の可能性」に関する外部情報がある場合は必ず製品説明の「意図する用途」として記述して、そのまま食べられる前提でハザード分析する必要があります。
近年の包装への新たなニーズとして環境配慮が高まり食品ロス低減や鮮度保持のためのロングライフ化や、化学素材から自然素材への切り替えなどが検討あるいは販売者から要求されるなど製品開発の動機づけとなっています。。これらは包装材料自体のハザード、もしくは病原性細菌の、酸素に対する要求性と耐性に影響を及ぼす場合があり得ます。したがって包材の変更は必ずハザード分析をし直していただく必要があるかどうか評価することを忘れないでください。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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