INDEX
1.食品製造業での人手不足の現状とその背景
2.人手不足が食品製造業に及ぼす影響
3.人手不足に対する企業の取り組み
4.食品製造業における未来の展望
5.まとめ
6.人手不足対策を支援するソリューション
食品製造業での人手不足の現状とその背景
現在の日本では多くの業界で人手不足が大きな課題となっています。帝国データバンクが発表した「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)」によると、正社員が不足している企業の割合は51.7%と5割を上回り、非正社員における人手不足の割合は29.5%と高水準で推移しています。
食品業界においては、厚生労働省の「2024年版ものづくり白書」によると2002年に1,202万人だった就業者数が2023年には1,055万人と147万人減少しています。有効求人倍率を見ても、2024年1月から3月の全産業では1.33倍であったのに対し、飲食料品製造業分野 では3.05倍と高くなっています。
これらのことから、食品業界では人材不足が深刻であることがわかります。
なぜ人手不足が起こっているのか、いくつかの例を挙げてみます。
参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)」
厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
農林水産省 食品産業特定技能協議会(飲食料品製造業分野・外食業分野「第19回運営委員会 会議資料」
少子高齢化による人口減少
日本全体の人口が減少している中、少子高齢化が進むことで労働力人口も年々減少しています。製造業全体においては若年就業者数が減少し続けており、高齢就業者数は増加しているものの、全産業比では低い水準で推移しています。
人口の推移としては、厚生労働省の調査によると2020年の日本の総人口は1億2,615万人となり、2010年のピーク時(1億2805万人)から減少しています。また、2052年には人口が1億人を下回ると予測されています。
さらに、15歳から64歳までの労働力人口は2020年には約7,500万人であり、2050年には約6,000万人まで減少することが予測されています。これに伴い高齢者の労働参加が進んでいるとはいえ、人材育成や継続雇用という企業の安定的経営の視点からすると良いとはいえず、若年層の補充が必須とされています。将来的には、業界全体で生産性を維持するためには、労働力の質を向上させる施策が必要とされています。
参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
経済産業省「2024年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」
食品製造業のイメージによる影響
食品製造業は、しばしば厳しい労働条件や低賃金、そして長時間労働といったイメージが先行してしまい、特に若い層に敬遠される傾向があります。これが、業界全体の人手不足を悪化させる要因の一つとされています。
企業はこのイメージを払拭し、魅力的な職場としての印象を引き上げる努力が求められています。例えば、働きやすい環境の整備や、キャリア形成の支援、さらには職場の文化を改善することで、求職者に対しての訴求力を高める必要があるでしょう。
人手不足が食品製造業に及ぼす影響
人手不足はさまざまな影響を及ぼします。労働力が不足している状況では、生産ラインがスムーズに機能せず、効率が低下する恐れがあります。さらに、必要な人材を確保できない状態が慢性化すると、納期遅れや品質低下の発生率が上がり、顧客からの信頼性の低下、顧客満足度の低下にもつながります。労働環境の悪化にも大いに影響を及ぼすでしょう。
また、業種の特性上、安全管理や衛生状態の保持が求められるため、人手不足は品質にも悪影響を及ぼします。結果として、長期的には自社の信頼性にも影響を与えてしまう可能性があるため、改善策を講じる必要があります。
生産量や品質の低下
製造ラインに配置される人員が不足すると稼働率が下がり、生産計画通りの製造ができなくなります。計画通りの生産ができないことで、需要への対応ができないなどの機会損失となってしまい業績に悪影響を与えてしまいます。
人手不足を補うために作業工程を簡略化することも考えられますが、品質管理が甘くなり品質低下を招くリスクがあります。
事業縮小や倒産リスクの増加
生産量の減少や品質低下による機会損失の発生や顧客満足度低下は取引量の減少に直結します。適切な対応ができないと取引が停止となり、事業の継続ができないという状況になりかねません。
また、近年は従業員を雇用するための賃金の上昇幅が大きく、人件費の上昇により設備投資ができないケースや倒産するケースも出てきています。
従業員への悪影響
人手不足は、食品製造業における職場環境にも多大な影響を与えます。従業員の負担が増えると、ストレスが蓄積し、モチベーションの低下につながることがあります。従業員の心と体の疲弊により、職場全体の雰囲気が悪化し、離職率が高くなるという悪循環に陥る可能性も少なくありません。
労働条件が厳しくなることで、求職者が敬遠する傾向もあり、新たな人材を確保する難易度が増すことになります。環境が悪化すれば、企業のイメージにも影響を与え、業界全体の魅力を損なうリスクも忘れてはならないでしょう。
ここでは、職場の従業員に与える悪影響についていくつか解説します。
長時間労働の増加
人手が不足している状況下では、どうしても一人当たりの業務量が増えてしまいます。その結果、従業員には長時間労働が強いられることが多くなる傾向があります。過剰な労働は、心身の健康を損なう原因となり、企業の生産性にも悪影響を与える可能性があります。
また、長時間労働は家庭やプライベートの時間を圧迫し、仕事と生活のバランスが崩れる要因にもなります。こうした状況が続けば、優秀な人材の離職を招くリスクも考えられ、企業の成長を大きく阻害する要因となるでしょう。
職場の雰囲気の悪化
業務負担が増加すると、職場の雰囲気が一変することがあります。本来は協力し合って働くべき環境が、互いに疲弊したり、ストレスを抱える状況に変わりかねません。コミュニケーションが不足すると、チームワークが低下し、業務を効率よく進めることができなくなります。
また、職場の雰囲気が悪化することで、企業への忠誠心が薄れ、離職者が増加する可能性も考えられます。良好な職場環境を維持するためには、スタッフ間の交流やサポート体制の強化が重要です。
スキルアップの機会減少
人手不足の状況が続くと、従業員のスキルアップの機会も減少するものです。新しい知識や技術を習得する時間が取れないため、個々の成長が阻害される状態に陥ります。日々の業務をこなすことだけに追われてしまい、自身の成長が実感できず、従業員満足度の低下にもつながります。
また、他の従業員から学ぶ機会や、指導を受ける時間も限られるため、人材の技術向上が難しくなります。スキルのある人材が不足することは、長期的な企業の競争力にも影響を及ぼすため対策が必要でしょう。
人手不足に対する企業の取り組み
今後も人手不足は続くと考えられ、対策無しには解決しないでしょう。対応策としては労働環境の改善、自動化や省力化の推進、雇用の多様化、さらには外国人労働者の積極採用などが考えられます。こうした取り組みによって、欠員を補充し、業務をスムーズに進められる環境を整える必要があります。
新たな人材を確保するためには、施策をバランスよく進めていくことが重要です。特に、多様なアプローチを試みることで、業界全体の労働力を強化することも期待されます。
労働環境の改善
労働環境の改善は人手不足を解消するための重要な施策となります。
例えば、適切な労働条件を確保することで、従業員の定着率を高める効果があります。働きやすさを実感できる環境づくりが進むと、企業の魅力も向上し、新たな人材の獲得にもつながることが期待されます。
労働環境の見直しは、企業にとって長期的な利益をもたらす投資と言えるでしょう。
労働時間の短縮
最近は業界を問わずで長時間労働を見直す機運が高まっています。労働時間の短縮は、従業員の疲労を軽減し、心身の健康を守るために重要です。
長時間労働が常態化すると、従業員の離職する可能性を高め、採用活動においても不利になります。
長時間労働をせずに業務ができる環境を整えていくことで、業務効率化と従業員の満足度向上の両立が実現可能になっていきます。
休暇取得の奨励
休暇取得も重要です。有給休暇の取得を促進することで、従業員は心身のリフレッシュが可能になります。
これは、仕事に対するモチベーションを向上させる効果もあり、仕事の効率にも好影響を及ぼします。また、企業としても、従業員が健康であることは重要です。休暇取得を促進することは、企業文化の改善にも寄与するでしょう。
賃金の向上
食品業界の賃金は他業界と比べやや低い傾向があります。賃金の向上は人材確保に直結する要素です。競争の激しい市場では、従業員に対する適切な報酬を設定することが欠かせません。高い賃金は、求職者に魅力的な条件となり、応募者を引き寄せる要因となります。
原材料費や燃料費の高騰など、利益を圧迫する様々な要素がありますが、可能な範囲での賃上げ人材確保のためにも必要でしょう。
また、賃金が向上すると、従業員の仕事の満足度も高まり、定着率の改善にも寄与します。このように、賃金の見直しは業界全体の競争力を高めるために必要な施策と考えられます。
DXの推進
食品製造業においてもDXの推進が今後の人手不足解消のカギとなります。技術革新により、AIやロボットの導入やITを活用することで、業務の大きな効率化が図れます。これにより、単純作業の負担が軽減され、従業員はより高度な業務に集中できる環境が整います。
また、省力化が進むことで、少ない人手でも生産能力を維持できる仕組みを構築できるため、企業の競争力向上にも寄与するでしょう。これにより、従業員の業務負担も軽減され、より働きやすい環境が実現されるはずです。
雇用の多様化
業種に応じて、雇用の多様化が進むことが求められます。日本の労働市場では、正社員以外の働き方が増えており、フリーランスやパートタイム、契約社員などの非正規での選択肢が増加しています。総務省の労働力調査によると非正規雇用労働者は2010年以降増加が続き、2020年、2021年に減少しましたが、2022年以降は増加しています。
企業はこれらの雇用形態を積極的に取り入れることで、幅広い人材を確保することができます。また、各種働き方を受け入れることで、家庭や学業との両立が可能な環境を提供し、求職者にとっての魅力を高めることができます。
外国人労働者の積極採用
現在、外国人労働者の積極採用を進める動きが見られます。日本国内における人手不足が深刻化する中で、彼らの力を活用することは企業にとって大きなメリットです。
また、多様な文化やバックグラウンドを持つ人材が集まることで、新たな視点やアイデアが生まれる可能性もあります。これにより、業界全体の活性化も期待できるため、外国人労働者の採用は今後の成長戦略の一環として重要視されています。
食品製造業における未来の展望
食品製造業の未来は、さまざまな技術革新と市場の変動によって形作られています。消費者ニーズが多様化する中で、効率的な生産と高品質な製品の提供が求められるため、業界全体での変革が進む時代が到来しました。企業は革新を通じて競争力を高める必要があり、特にデジタル化や自動化が重要な要素として注目されています。
その結果、食品製造業では生産プロセスの見直しや新たな技術の採用に積極的に取り組むことで、将来的な発展を目指す必要があります。このような変化に適応することにより、業界全体の成長が促進されることが期待されます。
ロボット技術の導入
食品工場におけるロボット技術の導入も人手不足解消に有効であると注目されています。新しい技術を活用することで、製造プロセスの効率性が向上し、作業負担を軽減することができます。しかし、生産ラインで製造される製品が日々変化することが多く、導入コストも高額になることから、完全な自動化は難しいといえます。そのため、単純作業をロボットに任せ、従業員は付加価値の高い作業を担うという役割分担が取り入れられてきています。
ロボットによる単純作業の自動化はヒューマンエラーの低減も期待できるため、歩留りの改善にも役立つでしょう。
さらに進むDXの活用
業務のDX(デジタルフォーメーション)化も大きな話題となりました。データ分析やIoT技術の活用によって、製造プロセスの可視化が進み、リアルタイムでの情報管理が可能になることで業務の変革を実現します。
競争の激しい業界の中で顧客のニーズに迅速に応えるためには、従来のアナログ的な手法から脱却し、デジタルの利点を活かすことが不可欠です。このような変化によって、業界全体の持続可能な成長が実現されると考えられます。
まとめ
食品製造業は多くの課題に直面しており、人手不足はその中でも深刻な問題となっています。働く人材の確保が難しい状況にあるため、企業は早急に対応策を講じる必要があります。人手不足がもたらす影響は販路の拡大や業績に直結するため、放置することはできません。
また、テクノロジーの導入や労働環境の改善を図ることが、企業にとって今後の成長を支える重要な鍵になります。未来を見据えた戦略的な行動が求められる時代に突入していると言えるでしょう。
働きやすい環境づくりが鍵
働きやすい環境を整えることが、食品製造業の人手不足解消の鍵となります。柔軟な働き方や休暇制度の充実を図ることで、従業員が長く働き続けることが可能になります。職場のモチベーションを高めるためには、従業員の声に耳を傾けることも忘れてはいけません。
また、若い世代を惹きつけるためには、社内の風土を改善し、職場環境を整えることが重要です。これによって、従業員が自ら成長できる機会を提供し、スキルアップを促進することが可能となります。職場を魅力的にすることが優秀な人材の確保につながるでしょう。
人手不足対策を支援するソリューション
人手不足対策として、人員を増やす以外に作業を効率化する方法が考えられます。手作業で行っていた作業をシステム化することで大きな効率化になり、コスト削減にもつながったという声もお聞きします。
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