2018年10月4日に東京で開催しました「食品業様必見!働き方改革を成功させる 業務効率化セミナー」イベントでの講演「HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報」についてレポートいたします。
▲ 株式会社知識経営研究所
中村 博史 氏
国内の食品事業分野の関心事となっていたHACCPの義務化法案が国会を通過し、いよいよ取組みが必須となりました。現状と予定についての動向を共有させていただきます。
また、ISO22000の新規格が6月に発行されました。改定内容についてポイントをご紹介します。
1.HACCP義務化の動向
食品企業を取り巻く環境の変化
HACCPの義務化のほか、ISO2200という国際規格の改定、日本版食品安全マネジメントシステム規格の制定・運用、米国の規制強化、取引先の要求強化、取引先監査の強化と、規制強化の流れが鮮明で、取引先からの要求も非常に厳しくなってきました。
HACCPの義務化に向けての背景
HACCPの制度化に関してはHACCPを義務化する「改正食品衛生法案」が2018年6月、国会で可決されました。2020年6月に施行され、経過措置期間を経て2021年6月から完全に制度化されます。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
HACCPに沿った衛生管理の制度化
原則として、すべての食品等事業者が対象です。従来の一般的衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理が求められます。ただ、いろいろな業種・規模などを考慮し、制度化は2つのパターンに分かれました。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
HACCP に基づく衛生管理
2つのパターンのうち1つはコーデックスのHACCP7原則に基づく衛生管理計画を作成・、実施することが求められます。厚生労働省は各業界団体に「手引書を作成してほしい」と要望を出しました。私は日本冷凍めん協会の工場監査を担当しており、協会で作成した冷凍うどんを製造するためのHACCPモデルを見ると、結構、丁寧に書かれています。「冷凍麺をつくるための製品説明書を、どのようにつくるか」「ハザード分析を、どのように行うか」「HACCPプランを、どのようにつくるか」といったことが解説され、モニタリングするための書式・フローダイアグラムの事例などもついています。あくまで参考事例なので、自社に合わせて直していく必要があります。
HACCPに基づく衛生管理の対象となる事業者は、と畜場と食鳥処理場は確定。この2つ以外の事業者については、どの会社が対象になるのか、まだ明確になっていません。
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
もう1つのパターンは小規模事業者などを対象にしたもので、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理です。HACCPを、そのまま適用するのではなく、考え方を取り入れた衛生管理を実施します。一例として全国製麺協同組合連合会が作成した手引書を、ご紹介します。簡略化した衛生管理計画のつくり方が、すべてわかります。食中毒対策、アレルゲン管理、トイレ管理などの手順も微に入り細に入り書かれており、記録用紙のサンプル、様式事例、作業標準書の事例などもついています。
HACCPの考え方を取り入れてはいますが、フローダイアグラムをつくったり、ハザード分析をしたり、CCPを決めたりといった作業は一切行いません。簡略化したチェックリストを作成し、「ここは管理する」「ここは掃除する」といったことを決め、計画書としてまとめます。居酒屋やレストラン、お惣菜・弁当の製造業者、弁当店、お土産屋、食品を保管しているだけの倉庫、食品を運送している運送会社も含まれます。
国と地方自治体の対応
まず政令・省令で規制することで、地方自治体による運用を平準化します。現在は地方自治体の職員に対する研修、食品衛生監視員の指導方法の標準化を進めているところです。それぞれの自治体に事業者をチェックする監視員がおり、監視員が事業者のところへ行って問題があるかないかを判断し、指導するという進め方になります。
ISO22000やFSSC22000を運用している場合、すでにHACCPの考え方を取り入れています。現在の製品説明書、フローダイアグラム、ハザード分析の結果、CCP整理表などは、そのまま使えます。むしろ今回の衛生管理計画よりも、さらにランクが上の活動を行っており、それらの資料に基づいて説明すれば問題ありません。
食品衛生監視員は業界団体の手引書に基づいた内容が、きちんと実行されているかどうかをチェックします。各社が衛生管理計画として定めたルールと、そのルールに沿って実行した結果の記録を見ていくことになります。
衛生管理計画
HACCPに基づく衛生管理では使用する原材料の受入から製品の出荷に至るまでの全工程に対してハザード分析を実施します。HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は厚生労働省が確認した業界団体の手引書を参考に策定します。全麺連の手引書は2017年春につくり始めて年末にチェックを受け、2018年3月に承認されました。厚生労働省が、すべてチェックして認めたうえで、厚生労働省のホームページに掲載しています。
保健所の監視指導
実際の運用の際には各社が作成した衛生管理計画の適切性を保健所の監視員が工場訪問してチェックしたり、記録を確認したりして検証し、監視するという流れになります。ISO22000やFSSC22000などの国際的な認証を取得している場合、立ち入り検査の頻度を軽減するなどして監視指導を効率化・時間短縮するようです。
対EU・対米国等輸出対応
EUやアメリカに輸出している企業、輸出しようとしている企業はHACCPに基づく衛生管理が求められます。各国の要件は異なり、それぞれの国の要件に基づいた仕組みを構築する必要があります。海外の取引先からの要請でFSSC22000、ISO22000などの国際規格にチャレンジしなければいけなくなるケースがあるかもしれません。
2.ISO22000の改定情報
ISOマネジメントシステム規格の改定の進め方
ISO規格という国際規格の中にISOマネジメントシステム規格があり、そのひとつがISO22000という規格です。ISOマネジメントシステム規格は5年ごとに見直し・改定されます。テーマごとに技術委員会(TC=テクニカルコミッティ)が設置され、TCの中に規格を作成するための作業部会(WG=ワーキンググループ)が設けられます。例えばWG1は1~3章、WG2は4~5章というふうに担当が決まり、手分けして改定作業を進めます。
WGがつくったワーキングドラフト(WD)を技術委員会で検討しコミッティドラフト(CD)を作成。さらに検討してDIS(ドラフトインターナショナルスタンダード)という国際規格案がつくられ、それをもとに各国に問い合わせをします。各国代表が検討し、コメントを出して最終の国際規格案(FDIS=ファイナルドラフトインターナショナルスタンダード)にまとめます。これを投票にかけ、ISO加盟国の70%以上が賛成すると、正式なISO規格となります。今回の改定で、今後すべての規格は原則としてテンプレート(HSL)に従わなければいけなくなりました。
ISO22000改定の歴史
2000年、品質マネジメントシステムの規格であるISO9001が大きく改定されました。すべての業種に対応できるようになり、要求事項が非常に抽象的でわかりにくくなりました。もうすこし食品企業に特化した規格が求められ、ISO22000が構想されました。当初はISO9001の食品企業向けという位置づけでしたが、途中、食品安全に方向転換し、2005年、食品安全マネジメントシステム規格として制定されました。ISO9001と関係性が深く、その考え方が盛り込まれています。2018年6月19日、2018年版が発行されました。
ISO22000改定の背景
マネジメントシステム規格の共通仕様が公表され、2015年、ISO9001が改定されました。ISO22000はISO9001と密接に関係しており、改正が必要となりました。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
規格改定の特徴
2018年版の特徴として、CCPとオペレーションPRPの概念が導入されました。HACCPの場合、CCPだけが管理手段として指定されていますが、ISO22000はCCPか、オペレーションPRPか、どちらかを選ぶことができます。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
ISO22000規格の箇条一覧
ISO22000の2018年版の規格の章立てを一覧にまとめました。2018年版から登場した項目を赤字にしました。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
序文:食品安全マネジメントシステムの原則への追加
HACCP、ISO9001の考え方が、さらに色濃く入り、顧客重視、リーダーシップ、人々の積極的参画など7つの項目が追加されました。例えばリーダーシップでは従来はトップマネジメントだけでしたが、部長や課長などの各階層のリーダーが入りました。改善も従来は継続的改善だけを捉えていましたが、改革も含むようになりました。
序文:プロセスアプローチの強化
2005年版でもプロセスアプローチやPDCAサイクルのことは定められていましたが、プロセスアプローチをする際、リスクを考えていくことが追加されました。さらにマネジメントシステムのPDCA、ハザードコントロールのPDCAの2つを回していくことが明確に記載されました。
リスクに基づく考え方
新たな要求事項としてリスクに基づく考え方の項目が追加されました。組織のリスクマネジメントと、ハザード分析による運営プロセスでのリスク管理の大きく2つに分かれています。「組織のリスクに関する取り組みを計画し、実施」は今回追加された要求事項です。食品安全マネジメントシステムの有効性を向上させたり、改善された結果を達成させたり、好ましくない影響を防止したりするためにリスク管理をマネジメントの部分で行う必要があります。
4.1組織およびその状況の理解
会社の課題には外部の課題と内部の課題があり、それを明確にする必要があります。例えばHACCPの制度化は外部の課題で、「HACCPの手法を運用する人材がいない」は内部の課題です。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
これも新しい要求項目で、事業を運用する際、まず利害関係者を特定するという規格が定められました。さらに利害関係者の期待やニーズは何かを明確にし、取り組まなければならない課題が外部の課題になります。実際の審査では「利害関係者のニーズ・期待は何か」「外部の課題、内部の課題は何か」が審査員から問われます。年度ごとの事業計画書などで、食品安全関連の課題が明らかにされていれば問題はありません。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
6.1 リスク及び機会への取組み:リスクは「不確かさの影響」
この項目も新たに追加されました。ここでいうリスクと機会は経営全体にかかわるものです。4.1項、4.2項で明らかにしたことを考慮し、リスクと機会を特定します。
例えば、HACCPPの手法の導入を決めたとき、内部の課題として「人材がいない」があがったら、リスクと機会への取組みの計画で、「人を育てる」「HACCPを、よく知っている人を採用する」「HACCPに詳しいコンサルティング会社に依頼する」といった複数の方法を考えます。「人を育てる」ことを選べば、「HACCPの研修会に参加させる」という実行名になります。実行した結果、HACCPの理解が深まったかどうかを評価します。計画、実行、チェック、アクションというPDCAサイクルを回していくわけです。
リスクという用語は2005年版とは異なり、「不確かさの影響」と定義されました。悪い方向だけでなく、良い方向もリスクと捉えています。例えば株は上がるか下がるかわかりません。株価が下落するリスクもあれば、上昇するリスクもあります。それに対して取り組むべき良い時期を機会といいます。株価でいえば、上昇したタイミングを機会と呼ぶわけです。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
計画プロセス
取組みの計画には食品安全目標として設定するものと単に運用管理という要求事項の中で運用していくものがあります。目標管理とプロセス管理に分かれるわけです。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
7.1.5 外部で開発された食品安全マネジメントシステムの要素
新たに追加されました。例えば、いろいろな企業にお邪魔すると、手洗い場所に外部の会社からもらった手洗いの手順が張ってあります。手洗いの手順を、その会社が決めていない。外部が決めた手順が正しいかどうかを社内でチェックしなければなりません。
7.1.6 外部から提供されるプロセス、製品またはサービスの管理
原材料や包装資材は外部から調達します。調達相手の会社は正しいものを、きちんと提供してくれているかどうかを評価することです。原材料メーカーだけでなく、防虫・防鼠会社、廃棄物処理業者、クリーニング会社、試験所・分析センター、運送会社などのプロセスも確認する必要があります。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
ISO22000改定への対応のポイント
ISO22000の2005年版から2018年版への移行期間は3年間。2018年6月19日に改定されましたので、2021年6月18日までに移行を終わらせる必要があります。移行のための審査を行う判定委員会が開かれるのは月1回程度。是正処置への対応を考えると、遅くても2021年3月には移行審査を終わらせる必要があります。
講演資料:HACCP義務化の動向とISO22000の改定情報より
HACCP文書作成ツール「HACCPクリエータ」
「HACCPクリエータ」は、フローダイアグラムの作成・修正における圧倒的な生産性と、ハザード分析表・HACCPプランの自動出力・取込機能により、HACCP文書の作成・維持管理工数を大幅に削減するHACCP文書化専門ツールです。
HACCP文書作成にお困りの際は、是非製品資料をご覧ください。HACCP文書作成ツール「HACCPクリエータ」の製品カタログダウンロードにつきましては下記お問い合わせフォームより承っております。
【本セミナーレポートに関する免責事項】
当サイトへの情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、
最新性、有用性等その他一切の事項についていかなる保証をするものではありません。
また、当サイトに掲載している情報には、第三者が提供している情報が含まれていますが、
これらは皆さまの便宜のために提供しているものであり、
当サイトに掲載した情報によって万一閲覧者が被ったいかなる損害についても、
当社および当社に情報を提供している第三者は一切の責任を負うものではありません。
また第三者が提供している情報が含まれている性質上、
掲載内容に関するお問い合わせに対応できない場合もございますので予めご了承ください。