業務改善

難しいことを「知りたくなる形」に変える ~福澤諭吉『訓蒙 窮理圖解』から学ぶ、食品会社の現場を動かす伝え方~

1.はじめに

「内容は正しいはずなのに、現場に伝わらない」「教育を実施したのに、行動が変わらない」「マニュアルを作ったが、ほとんど読まれていない」

食品会社に関わるさまざまな現場で、このような悩みを耳にすることは少なくありません。食品工場には、衛生管理、品質管理、安全管理、設備管理、原価管理、生産管理、食品表示、アレルゲン管理、トレーサビリティ、監査対応など、覚えるべきことが数多くあります。しかも、その多くは、単に知識として理解すればよいものではありません。

決められた手順を守る。異常に気付く。迷ったときに確認する。問題が起きる前に行動する。

つまり、最終的には、現場で働く人の行動につながらなければ意味がありません。そのため、教育資料やマニュアルを作る側は、どうしても「正確に説明すること」に力を注ぎます。もちろん、正確さは重要です。しかし、正確であることと、相手に伝わることは同じではありません。

文字が多い。専門用語が多い。一文が長い。何が重要なのか分からない。自分の仕事との関係が見えない。

このような資料は、内容が正しくても、読む人にとっては取りかかりにくいものです。そして、取りかかりにくいものは、読まれません。読まれなければ、理解されません。理解されなければ、行動にもつながりません。

この問題を考えるうえで、非常に興味深い一冊があります。福澤諭吉が明治元年、1868年に刊行した『訓蒙 窮理圖解』です。

「訓蒙」とは、子供や初心者に教えることを意味します。「窮理」は、当時使われていた自然科学や物理学に近い言葉です。つまり『訓蒙 窮理圖解』は、自然科学を初めて学ぶ人に向けて、分かりやすく説明した入門書でした。

福澤諭吉は、英米の複数の書物を参考にしながら、内容をそのまま直訳したのではありません。日本人にとって身近な例を取り入れ、日常の言葉を使い、図を加え、初心者が自然現象に興味を持てる形に作り直しました。
難しい知識を、正確さだけで押しつけるのではなく、

「少し読んでみたい」「これはどういうことだろう」「自分でも確かめてみたい」と思える形に変えたのです。

この考え方は、現代の食品会社における教育、改善、マニュアル作成、DX推進にも、そのまま応用できます。

今回は、『訓蒙 窮理圖解』に見られる工夫をヒントに、食品会社の現場で、難しいことを「知りたくなる形」「取りかかりやすい形」「行動できる形」に変える方法をご紹介します。

2.「正しく説明する」だけでは人は動かない

食品会社では、正しい情報を伝えることが非常に重要です。特に、食品安全、衛生、表示、品質に関する内容には、曖昧な説明は許されません。しかし、正確さを重視するあまり、説明が難しくなりすぎることがあります。

例えば、新入社員に対して、次のように説明したとします。

「交差汚染を防止するため、汚染区域と非汚染区域を明確に区分し、人、物および空気の動線を適切に管理してください」

内容としては間違っていません。しかし、食品工場で初めて働く人にとっては、

「交差汚染とは何か」「汚染区域とはどこか」「適切に管理するとは、具体的に何をするのか」が分からない可能性があります。

そこで、現場の行動に近い言葉に変えます。

「床に落ちたものを触った手で、そのまま製品に触れない」「加熱前の原料に使った器具を、洗浄せずに加熱後の製品へ使わない」「赤いエプロンの区域から、白いエプロンの区域へ、そのまま移動しない」

このように説明すると、現場で何を避けるべきかが見えてきます。

さらに、「生の鶏肉を切ったまな板で、そのままサラダを切ったらどうなるでしょうか」と問いかければ、家庭での経験ともつながります。

専門用語をなくす必要はありません。「交差汚染」という正しい言葉を教えたうえで、その意味を、相手が知っている場面に置き換えることが重要です。

『訓蒙 窮理圖解』が行ったことも、単なる知識の省略ではありません。当時の日本ではなじみの薄かった西洋の自然科学を、日常生活の中で見える現象と結びつけました。太陽の熱、火、空気、水、雲、雨、風など、人々が毎日見ているものを入り口にして、その背後にある原理を説明しました。

難しいことを簡単にするとは、内容を薄くすることではありません。相手がすでに知っているものと、新しく伝えたいものの間に、橋を架けることです。

3.『訓蒙 窮理圖解』に学ぶ「入り口」の作り方

『訓蒙 窮理圖解』の大きな特徴の一つは、初心者にとっての入り口が考えられていることです。自然科学の体系を、定義や理論から順番に説明するのではなく、身近な現象から興味を引き出しています。これは、食品会社の教育でも非常に重要です。

例えば、温度管理の教育を行うとします。最初から、「微生物の増殖速度は温度条件によって変化するため、危険温度帯を避けなければならない」と説明することもできます。

しかし、これだけでは、自分の仕事とのつながりを感じにくい人もいます。そこで、まず、現場で起こり得る場面から入ります。

「冷蔵庫から出した原料を、作業台に置いたままにしたことはありませんか?」「休憩や設備停止によって、原料が室温に置かれる時間はありませんか?」「品温を測った後、記録だけを書き直したことはありませんか?」このような問いから始めると、聞く側は自分の行動を振り返ります。

その後で、「なぜ、時間と温度を一緒に管理する必要があるのでしょうか」と説明すれば、知識が現場の行動と結びつきます。

教育の入り口は、説明したいことではなく、相手が気になることから作ります。作る側は、どうしても「最初に定義を説明しなければならない」と考えます。しかし、読む側や聞く側が最初に知りたいのは、必ずしも定義ではありません。

「これは自分に関係があるのか」「知らないと何が起こるのか」「今日の仕事で何をすればよいのか」ということです。

入り口で興味を持てなければ、その先にどれほど重要な内容が書かれていても、読んでもらえません。食品工場の掲示物であれば、例えば、「手洗いを徹底しましょう」だけではなく、「洗ったつもりの親指、見落としていませんか?」とする。

原価改善の教育であれば、「歩留まりを向上させましょう」だけではなく、「毎日1%ずつ多く捨てていたら、1年間でいくらになるでしょうか?」とする。

安全教育であれば、「転倒災害に注意しましょう」だけではなく、「昨日通れた床でも、今日は滑るかもしれません」とする。

相手が一瞬立ち止まり、自分の仕事を思い浮かべる言葉を置くことが、教育の入り口になります。

4.図は「飾り」ではなく、理解を助ける道具

『訓蒙 窮理圖解』という題名には、「圖解」という言葉が入っています。文字だけで説明するのではなく、図を使って現象を示したことも、この書物の重要な工夫です。図には、文章を短くする以上の効果があります。

全体と部分の関係が見える。順番が見える。違いを比較できる。目に見えない流れを表せる。記憶に残りやすくなる。

食品会社の現場にも、図で示した方が理解しやすい情報が数多くあります。例えば、手洗い手順です。

文章だけで、「流水で手を濡らした後、石けん液を使用し、手のひら、手の甲、指の間、指先、親指、手首の順に洗浄する」と書くよりも、手の絵と番号を使った方が、一目で分かります。

製造工程も同じです。原料受入、保管、解凍、計量、混合、加熱、冷却、包装、検査、出荷という流れは、文章で並べるよりも、工程図にした方が全体を把握できます。

アレルゲンの切替手順であれば、「通常品の製造終了」「残品回収」「分解」「洗浄」「目視確認」「ふき取り検査」「次製品の製造開始」という流れを図にすることで、作業の抜けを防ぎやすくなります。

ただし、図を入れれば必ず分かりやすくなるわけではありません。矢印が多すぎる。色に意味がない。一枚に情報を詰め込みすぎる。文字が小さい。現場で使わない記号が並んでいる。このような図は、かえって理解を難しくします。

図の目的は、資料を立派に見せることではありません。「何を見ればよいか」を伝えることです。

例えば、設備の洗浄手順書なら、設備全体の写真を載せるだけでは不十分です。汚れが残りやすい部分を拡大し、丸で囲み、「ここを確認」と書いた方が役立ちます。

不良品の教育なら、良品と不良品の写真を隣に並べ、「色」「形」「シール位置」など、見るポイントを矢印で示します。

温度計の使い方なら、温度計の写真だけではなく、「どこに刺すか」「どこまで刺すか」「いつ数値を読むか」を図示します。

図は、説明を省略するためのものではありません。見る人の注意を、正しい場所へ導くための道具です。

5.「現場の言葉」に翻訳する

福澤諭吉は、洋書の内容を日本語に置き換えただけではなく、日本人が理解しやすい形に作り直しました。ここで重要なのは、「翻訳」とは、外国語を日本語に変えることだけではないということです。

会社の中にも、多くの翻訳が必要です。経営の言葉を、現場の言葉へ翻訳する。品質保証の言葉を、製造の言葉へ翻訳する。システム担当者の言葉を、利用者の言葉へ翻訳する。ベテランの感覚を、新人が理解できる言葉へ翻訳する。

例えば、経営側が、「収益性向上のため、製造原価の低減を推進する」と方針を出したとします。この言葉だけでは、製造現場の一人ひとりが、今日何をすればよいのか分かりません。そこで、現場の行動に翻訳します。

「床に落ちた原料を減らす」「規格より多く充填しない」「設備を止めたままにしない」「切替時間を短くする」「包装資材を必要以上に出さない」「手直しを減らす」「不良が出たら、早い段階で止める」ここまで具体化すると、原価低減が日々の仕事とつながります。

DXも同じです。「デジタルトランスフォーメーションを推進する」「データドリブン経営を実現する」と言われても、現場では何をすればよいのか分かりにくいものです。

そこで、「紙に一度書き、それを別の人がパソコンへ入力している作業はありませんか?」「同じ数字を、三つの帳票に書いていませんか?」「異常が起きた後でしか見ていないデータはありませんか?」と問いかけます。

DXという大きな言葉を、目の前の二重入力、転記、検索、集計、待ち時間に置き換えるのです。専門用語を使ってはいけないわけではありません。重要なのは、専門用語を言った後に、現場で見える状態まで説明することです。

「標準化」とは、誰が行っても、同じ品質と時間で作業できる状態に近づけること。「平準化」とは、特定の日や特定の人だけに、仕事を集中させないこと。「トレーサビリティ」とは、問題が起きたときに、どの原料を使い、いつ、どこで、どの製品を作ったかを追えること。「是正処置」とは、起きた問題を直すだけでなく、同じ原因で繰り返さないように仕組みを変えること。

このように翻訳することで、専門用語は初めて、現場で使える言葉になります。

6.「読ませる」のではなく「試したくなる」形にする

分かりやすい説明の目的は、理解してもらうことだけではありません。行動してもらうことです。そのためには、説明を読んだ後に、何をすればよいかが分かる必要があります。

例えば、5S教育を行う場合を考えてみます。整理、整頓、清掃、清潔、しつけの意味を説明して終わるだけでは、現場は変わりません。そこで、すぐにできる行動を一つ付けます。

「今日、職場から不要なものを一つだけ取り除いてください」「探すのに30秒以上かかったものを、一つ記録してください」「置き場所が決まっていないものを、一つ見つけてください」これなら、教育を受けた直後に行動できます。

改善活動でも同じです。「ムダをなくしましょう」では、範囲が広すぎます。

「今日、自分が同じ場所を二往復した作業を一つ探してください」「一度入力した数字を、もう一度入力した場面を記録してください」「誰かの判断を待って止まった時間を一つ書き出してください」とすれば、改善の材料を見つけられます。

安全教育であれば、「危険箇所に注意してください」ではなく、「今日の作業開始前に、足元だけを30秒確認してください」とする。

品質教育であれば、「異常を見逃さないようにしましょう」ではなく、「いつもと違う音、色、におい、量を一つ見つけたら、止めて確認してください」とする。

行動の単位を小さくすることが重要です。人は、大きすぎる課題を示されると、何から始めればよいか分からなくなります。

「職場を改善する」「生産性を高める」「品質意識を向上させる」これらは重要ですが、そのままでは行動できません。

最初の行動は、小さくて構いません。一つ見る。一つ測る。一つ比べる。一つ記録する。一人に聞く。一か所だけ変える。

取りかかりやすい行動を示すことで、「知っている」が「やってみる」に変わります。

7.おもしろさは、教育を軽くすることではない

食品安全や品質管理の教育に「おもしろさ」という言葉を使うと、不真面目な印象を持つ方もいるかもしれません。

しかし、おもしろさとは、ふざけることではありません。「なぜだろう」と思うこと。予想と結果の違いに驚くこと。自分の経験とつながること。今まで見えていなかったものが見えること。これも、おもしろさです。

例えば、歩留まり教育で、最初から計算式を説明するのではなく、「1000kgの原料から製品が990kgできる場合と、980kgできる場合では、年間でどれだけ差が出るでしょうか」と問いかけます。

金額に換算すれば、わずか1%の違いが、年間では大きな損失になることが見えてきます。手洗い教育であれば、専用ローションなどを使用し、洗い残しを確認する方法があります。本人は十分洗ったつもりでも、親指、指先、手首などに洗い残しが見つかります。

「自分はできている」という感覚と、実際の結果の違いが、興味と納得を生みます。作業改善であれば、作業の様子を動画で確認します。本人は最短距離で動いているつもりでも、映像を見ると、何度も振り返る、探す、持ち替える、歩くといった動作が見つかります。

ここで重要なのは、人を笑ったり、責めたりしないことです。「こんなにムダがある」ではなく、「これだけラクにできる可能性がある」と捉えます。

おもしろさは、人の注意を引きつけます。納得は、人の行動を支えます。そして、自分で気付いたことは、他人から一方的に言われたことよりも、記憶に残りやすくなります。

教育する側が、すべての答えを先に説明する必要はありません。まず見せる。予想してもらう。比べてもらう。気付いてもらう。その後で、理由や原理を説明する。この順番に変えるだけでも、教育は大きく変わります。

8.現代の「圖解」は紙だけではない

『訓蒙 窮理圖解』が出版された時代と比べ、現代では、伝えるために使える手段が大きく増えています。

写真。動画。音声。アニメーション。電子マニュアル。二次元コード。タブレット。デジタルサイネージ。eラーニング。チャット形式の案内。これらを組み合わせれば、文字を読むことが得意ではない人や、日本語に不慣れな人にも、情報を届けやすくなります。

例えば、設備の分解洗浄を説明する場合、文章と写真だけでは、部品を外す方向や力加減が伝わりにくいことがあります。そこで、30秒程度の短い動画を用意します。手順書に二次元コードを付け、必要な場所で動画を確認できるようにします。異常音の教育なら、正常時と異常時の音声を聞き比べます。製品不良なら、良品と不良品の写真を並べます。システム操作なら、実際の画面を使い、入力する場所を枠で囲みます。

ただし、新しい技術を使うこと自体が目的になってはいけません。長すぎる動画。開くまでに時間がかかる電子マニュアル。何度もログインを要求される教育システム。検索しても必要な情報が出てこないデータベース。これらは、内容が優れていても使われなくなります。現場で必要なのは、情報量の多さではありません。必要なときに、必要な情報へ、すぐたどり着けることです。

例えば、一本30分の教育動画を作るよりも、「電源を切る」「カバーを外す」「部品を洗う」「組み立てる」「運転前に確認する」といった1~3分の動画に分けた方が、現場では使いやすい場合があります。

紙の手順書も同じです。一冊の厚いマニュアルだけでなく、作業場所には一枚の要点版を置く。詳細な規程は別に保管し、現場では「今、何をするか」が分かるようにする。これは、内容を省略することではありません。用途に応じて、情報の階層を分けることです。

9.分かりやすさは「相手への想像力」で決まる

分かりやすい資料を作るために、特別なデザイン技術が必ず必要なわけではありません。最も重要なのは、相手を想像することです。初めてこの作業をする人は、どこで迷うか。外国人従業員は、どの言葉を理解しにくいか。ベテランが無意識に行っている判断は何か。忙しい時間帯でも確認できるか。手袋をしたままページをめくれるか。照明が暗い場所でも文字が見えるか。異常が起きた瞬間に、必要な情報を探せるか。

教育資料は、会議室の机の上だけで完成するものではありません。実際に使われる場所で確認する必要があります。作成者にとって分かりやすいことが、利用者にとって分かりやすいとは限りません。そのため、完成前に、実際に使う人へ見てもらいます。

「意味は分かりますか」だけではなく、「これを見て、一人で作業できますか」「最初にどこを見ましたか」「迷ったところはどこですか」「文字を読まなくても、順番が分かりますか」「異常時に、何をすればよいか分かりますか」と確認します。

説明を受けなければ使えない手順書は、まだ改善の余地があります。また、「分かりません」と言いやすい雰囲気も重要です。作成者や上司が目の前にいると、利用者は遠慮して、「分かりました」と答えることがあります。
しかし、実際の作業では迷っているかもしれません。分かりやすさは、作成者が決めるものではありません。使う人の行動によって判断するものです。

10.今日から使える「伝わる表現」への変換例

最後に、食品会社の製造現場で使われやすい言葉を、取りかかりやすく、行動につながる形へ変換してみます。

衛生管理

「衛生管理を徹底してください」ではなく、「製品に触る前に、今触ったものを思い出してください」「手袋を着けていても、汚れた場所に触れれば交換が必要です」

品質管理

「品質意識を高めましょう」ではなく、「いつもと違う色、形、音、においを見つけたら、一度止めましょう」「迷った製品を、そのまま次工程へ流さないようにしましょう」

安全管理

「安全確認を徹底してください」ではなく、「動かす前に、人、手、足の位置を確認しましょう」「急いでいるときほど、最初の10秒を確認に使いましょう」

原価改善

「ロス削減に努めてください」ではなく、「今日捨てたものを、一つだけ量ってみましょう」「規格より多く入っている分も、見えにくいロスです」

5S

「整理整頓を徹底しましょう」ではなく、「30秒以上探したものはありませんでしたか?」「使ったものを、次の人が迷わない場所へ戻しましょう」

標準化

「作業の標準化を進めてください」ではなく、「人によって違うやり方を、一つ見つけましょう」「ベテランだけが知っている判断を、言葉や写真にしましょう」

DX

「デジタル化を推進しましょう」ではなく、「同じ内容を二回入力している作業はありませんか?」「紙を探す時間を、検索する時間に変えられませんか?」

改善活動

積極的に改善提案を行ってください」ではなく、「今日、少し面倒だと思った作業を一つ書いてください」「一歩、一回、一枚、一分だけ減らせることはありませんか?」

言葉を変えるだけで、聞く側が思い浮かべる場面は変わります。場面が見えれば、行動を選びやすくなります。

11.伝えることは、相手が動ける状態を作ること

『訓蒙 窮理圖解』は、当時の日本人にとってなじみの薄かった自然科学を、初心者が触れられる形に変えました。

洋書をそのまま見せるのではなく、日本人向けの例を加える。難しい言葉を並べるのではなく、日常の言葉を使う。文字だけで説明するのではなく、図を使う。知識を一方的に与えるのではなく、身近な現象への興味から入る。

この姿勢は、150年以上が経過した現在でも、食品会社の現場教育に通じます。現代の食品会社には、伝えなければならないことが数多くあります。しかも、働く人の年齢、経験、言語、雇用形態、得意分野はさまざまです。同じ説明を、同じ方法で、全員に伝えるだけでは、十分に届かないことがあります。

だからこそ、相手が知っているものから始める。身近な例に置き換える。図や写真で見えるようにする。専門用語を現場の行動へ翻訳する。最初の行動を小さくする。自分で気付ける問いを加える。必要なときにすぐ見られる形にする。このような工夫が必要です。

分かりやすく伝えることは、内容を薄めることではありません。相手が内容へ到達するまでの障害を減らすことです。

教育を行った。資料を配った。マニュアルを作った。動画を公開した。そこで終わるのではなく、実際に見られたか。理解されたか。迷わず行動できたか。行動が続いているか。ここまで確認して、初めて「伝わった」と言えます。

知識を持っている人と、これから学ぶ人の間には、必ず距離があります。その距離を埋めるのが、説明する人の役割です。

難しいことを、難しいまま渡さない。正しいことを、正しいだけで終わらせない。おもしろさを入り口にする。取りかかりやすさを作る。興味を、理解へつなげる。理解を、行動へつなげる。食品会社の現場を変えるのは、立派な言葉や分厚い資料だけではありません。

「これなら分かる」「これならできる」「少し試してみよう」と思える表現です。

福澤諭吉が『訓蒙 窮理圖解』で示したように、伝える側が少し工夫することで、難しい知識は、誰かが新しい世界へ踏み出すための入り口になります。食品安全、品質、改善、原価、DXなど、現場に必要な知識を、知って終わるものから、行動につながるものへ変える。その第一歩として、まずは、今使っている一つの言葉、一枚の掲示物、一つの手順書を、「初めて見る人」の目で見直してみてはいかがでしょうか。

小松 加奈
 執筆者 
技術士 経営工学部門
利益改善コンサルタント
資格・スキル活用コンサルタント
技術士合格講師
小松 加奈 氏
【 講師プロフィール 】
東証プライム上場日系大手製造業に勤務しながら(2007年新卒入社、総合職)、複業として個人事業も展開している。
工場現場担当者の経験もある、現役会社員の技術士。最前線で『リアルタイム』の『現場』『現物』『現実』『最新技術』と日々向き合っている。
勤務先では、開発部・工場(開発課・製造課・生産管理課)・商品部・生産本部生産管理部・監査部監査室にて、工場現場から、本部での管理業務、生産原価管理システム構築、新設工場の生産管理業務構築、全社横断の構造改善と監査まで務める。原価改善プロジェクト多数実施。改善・原価教育多数実施。グループ全従業員向けセミナー動画10本シリーズ実施。
個人事業では「製造業特化型コンサルティング」「完全カスタマイズ型コンサルティング(全業種対象)」「資格・スキル活用コンサルティング」「技術士合格講座(一般部門全20部門対象)」を展開。
科学技術分野の文部科学大臣表彰(文部科学省主宰)の技術審査員も務め、400件以上の製造業改善事例を審査。
利益改善に関するコンサルティングや、合格に導く技術士受験指導、執筆(新聞寄稿含む)にも定評がある。
【 資格 】
技術士(経営工学部門)、第一種衛生管理者、ハム・ソーセージ・ベーコン製造技能士、フォークリフト運転技能、フードコーディネーター 他
■YouTubeチャンネル
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【2週間ごとに金曜日19時投稿】


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