
1. はじめに
10月は「食品ロス削減月間」、10月30日は「食品ロス削減の日」です。
食品ロスという言葉を聞くと、「食べ残しを減らす」「賞味期限が近い商品を買う」「余った食品を寄附する」といった、消費者や小売店での取り組みを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、食品製造業にとって食品ロスは、環境問題であるだけではありません。
原料を仕入れ、人を配置し、設備を動かし、電気や蒸気、水を使い、包装し、保管し、そこまで手をかけた食品を最後に廃棄する。
そこには、食品そのものだけではなく、原料費、人件費、エネルギー、包材、保管、運搬、そして廃棄処理まで、多くのコストが積み重なっています。
つまり食品ロスとは、「ゴミを減らす活動」であると同時に、食品企業にとっては利益を守る活動でもあります。
2024年度の日本の食品ロス量は461万トン。このうち事業系食品ロスは237万トンで、前年度の231万トンから6万トン増加しました。そのうち食品製造業から発生したものは110万トンです。
今回は食品ロス削減月間を機に、食品工場で発生するロスを「廃棄物」としてだけ見るのではなく、どこで、なぜ発生し、どうすれば発生そのものを減らせるのかという視点から考えてみます。
2.食品ロスは「捨てた瞬間」に発生しているわけではない
工場で廃棄品を集計するとき、私たちが目にするのは、多くの場合「結果」です。
例えば、
製品を作り過ぎて余った。
賞味期限が近づいて出荷できなくなった。
重量が規格から外れた。
包材を間違えて使用した。
製造途中で品質異常が発生した。
新商品への切替えで旧包材が余った。
販売計画が変更され、製品が余った。
こうした食品が廃棄場所に運ばれた時点では、すでにロスは発生しています。
しかし本当の原因は、その数時間前、数日前、場合によっては数か月前にあります。
「販売数量を多く見込んだ」
「最低製造ロットが大きかった」
「受注変更が製造計画へ間に合わなかった」
「切替え数量を正確に把握していなかった」
「歩留まりを低めに見込んで多めに仕込んだ」
つまり、廃棄場所だけを見ても、食品ロスの本当の原因は見えないのです。
食品ロスを減らすには、「何kg捨てたか」から一歩進み、「なぜ、その食品を作ることになったのか」まで遡る必要があります。
3. まずは「食品ロスの地図」をつくる
では、最初に何をすればよいでしょうか。
大がかりなシステムを導入する前に、まず自社の食品ロスがどこで発生しているのかを見える化してみます。
例えば、食品工場であれば、
• 原料受入時の不良
• 前処理時の過剰除去
• 加工工程での歩留まりロス
• 立ち上げ・停止時のロス
• 品種切替え時のロス
• 重量・形状などの規格外
• 品質不良
• 包装・印字不良
• 作り過ぎ
• 販売計画変更による余剰
• 賞味期限切迫・期限切れ
• 原料・包材変更時の残品
などに分けてみます。
ここで大切なのは、最初から完璧な分類を作ろうとしないことです。
まず1週間でも構いません。
「どの工程で」「何が」「何kg」「なぜ」捨てられたのかを記録するだけでも、自社の特徴が見えてきます。
月間100kgという数字だけでは分からなかったものが、
「そのうち45kgが毎週月曜日の製造立ち上げ時に発生している」
「特定の3商品で全体の60%を占めている」
と分かれば、対策すべき場所はかなり絞られます。
数字を集める目的は、立派な報告書を作ることではありません。
次にどこを改善するかを決めるためです。
4.「kg」だけでなく「円」に変えてみる
食品ロスをより自分事にするために有効なのが、重量だけでなく金額でも見ることです。
例えば、同じ100kgの食品ロスでも、原価100円/kgの原料と、加工・包装まで終えた製品では意味が違います。
完成品になるまでには、原材料だけではなく、
人が作業し、
設備を動かし、
加熱・冷却し、
水を使い、
包材を使用し、
検査し、
保管する、
という工程があります。
製造後半で発生したロスほど、それまでに多くの経営資源が投入されています。
そのため、まず簡易的には「廃棄重量×原料単価」でも構いません。
さらに管理を進めるのであれば、自社で使用している標準原価や製造原価などと組み合わせ、どの工程で、いくら相当のロスが発生しているのかを見えるようにしていきます。
2024年度の食品ロス461万トンによる経済損失は、全国で約3.8兆円と推計されています。国民1人当たりでは年間約3万1千円です。
食品ロスは、環境への負荷だけではありません。
「本来、価値に変えられたはずのお金」が失われている問題でもあります。
5.「捨てない工夫」より先に、「余らせない工夫」を考える
食品ロス対策というと、余った食品を値引き販売する、別の商品へ転用する、寄附するといった方法が注目されます。
もちろん、まだ安全に食べられる食品を有効活用することは重要です。
しかし製造業の改善という視点では、その一つ前を考えたいところです。
そもそも、なぜ余ったのでしょうか。
例えば需要予測と実績の差が大きいのであれば、需要予測の精度を見直す。
最低製造ロットが大きいために余るのであれば、小ロット生産できないか検討する。
機械の立ち上げ時に大量のロスが出るのであれば、条件設定や立ち上げ方法を標準化する。
販売変更の連絡が製造へ届くのが遅いのであれば、営業・生産管理・製造間の情報伝達方法を見直す。
賞味期限切迫品が発生するのであれば、在庫量だけではなく、期限別の在庫を見える化する。
食品ロス対策を「出てしまった食品をどうするか」だけで考えるのではなく、発生源まで遡って減らすことが重要です。
6.食品ロスは、一つの部署だけでは減らせない
食品工場でロスが発生すると、「製造部門の歩留まりが悪い」と考えてしまうことがあります。
しかし実際には、食品ロスの原因は部門をまたいでいることが少なくありません。
営業が多めの販売数量を見込む。
生産管理が欠品を避けるため、多めに製造計画を組む。
購買が最低発注数量に合わせて原料を購入する。
品質保証は規格から外れたものを出荷できないと判断する。
物流では納品期限を過ぎた商品を扱えない。
どの部門も、それぞれの立場では正しい判断をしています。
それでも全体で見ると、食品が余ることがあります。
だからこそ、食品ロスは「製造の問題」「品質の問題」「営業の問題」と切り分けるのではなく、販売予測から製造、在庫、出荷まで一つの流れとして見ることが必要です。
部門最適の積み重ねが、必ずしも全社最適になるとは限りません。
7. 商慣習も「当たり前」と決めつけない
食品ロスは、一つの会社の工場内だけで完結する問題でもありません。
食品流通には、賞味期間の3分の1以内に小売へ納品する、いわゆる「3分の1ルール」と呼ばれる商慣習があります。
賞味期限そのものは十分残っていても、納品期限を過ぎたことで通常の流通に乗せにくくなり、食品ロスにつながる場合があります。
農林水産省では、10月30日の「食品ロス削減の日」を「全国一斉商慣習見直しの日」とし、納品期限の緩和、賞味期限表示の大括り化、賞味期限の延長なども呼びかけています。
もちろん、メーカーだけの判断で変更できるものではありません。
取引先との調整や品質保証、商品の特性、物流条件などもあります。
しかし、
「昔からこの条件だから」
「取引先が求めているから」
で思考を止めるのではなく、本当に現在も必要な条件なのかを定期的に確認することには意味があります。
食品ロス削減は、工場改善だけではなく、サプライチェーン全体の改善でもあります。
8. 削減目標だけを掲げると、逆効果になることもある
ここで注意したいことがあります。
例えば、
「今年度は食品ロスを20%削減する」
という目標だけを現場へ下ろしたとします。
一見すると分かりやすい目標ですが、使い方を間違えると危険です。
廃棄報告をしにくくなる。
別の廃棄区分へ移す。
規格外品を無理に使用しようとする。
本来止めるべき製品を、「廃棄を増やしたくない」という理由で流そうとする。
これでは本末転倒です。
食品企業において、食品ロス削減よりも優先されるのは、当然ながら食品安全と品質です。
必要な廃棄までなくすことが目的ではありません。
大切なのは、
「この廃棄は、安全や品質を守るために必要だったのか」
「それとも、前工程や計画の改善によって防げたのか」
を分けて考えることです。
異常を正しく報告できることを守りながら、防げるロスを減らす。
これが食品工場のロス改善では欠かせません。
9.「結果が見える」と、改善は続けやすくなる
食品ロス削減は、一度キャンペーンを実施して終わりにすると、なかなか定着しません。
そこで有効なのが、改善結果の見える化です。
例えば、製造現場の掲示板やデジタル画面に、
「今週の食品ロス 320kg」
だけを表示するのではなく、
「前週比 ▲42kg」
「今月の削減金額 約8万円」
「最大の発生原因 包装切替え時の残品」
「今週実施する対策 切替え数量の再設定」
まで表示します。
すると、
数字→原因→行動
がつながります。
単に「食品ロスを減らしましょう」と呼びかけるよりも、「自分たちが行った改善によって、これだけ減った」と分かる方が、次の行動につながりやすくなります。
食品ロス削減月間だからこそ、10月だけ数字を掲示するのではなく、その後も使える管理の仕組みを一つ残したいところです。
10.10月にやってみたい「食品ロス3つの確認」
大きなプロジェクトを始めなくても、今月から確認できることがあります。
一つ目は、「先月、一番多く捨てた食品は何か」を確認することです。
総量だけでなく、商品別、工程別、原因別に見ます。上位数項目だけでも構いません。
二つ目は、「そのロスが発生したのは、本当に廃棄した瞬間なのか」を考えることです。
製造計画、販売予測、発注、在庫、工程条件まで一つずつ遡ります。
三つ目は、「ロスをkg以外で表せないか」を考えることです。
金額、製品個数、製造時間、包材使用量、エネルギーなど、自社の人が理解しやすい単位へ置き換えてみます。
食品ロス461万トンと言われても、自分たちの日常業務とは距離を感じるかもしれません。
しかし、
「このラインで毎週30kg」
「年間では150万円」
「この切替えを改善すれば半分にできる」
となれば、改善すべき仕事として見えてきます。
11. 食品ロス削減を「環境活動」だけで終わらせない
食品ロス削減の取り組みは、日本全体でも進んできました。
事業系食品ロスについては、2030年度までに2000年度比60%削減し、219万トンとする新たな目標が設定されています。2024年度は237万トンで、2000年度比57%減まで進んでいます。
一方で、食品ロスによる経済損失は年間3.8兆円、食品ロスに伴って生じる温室効果ガス排出量は978万t-CO2と推計されています。
食品ロスを減らすことは、
廃棄物を減らす。
環境負荷を減らす。
原料を大切にする。
それだけではありません。
余分な製造を減らす。
無駄な作業を減らす。
余分な在庫を減らす。
包材やエネルギーの使用を減らす。
廃棄処理費を減らす。
そして、利益を守る。
すべてがつながっています。
食品ロス削減月間である10月。
まずは自社の廃棄場所を一度見て、そこにある食品について、
「これは、いつ防ぐことができたロスだろう?」
と問いかけてみてはいかがでしょうか。
食品ロス削減は、捨てる場所から始める活動ではありません。
捨てることになる前の仕事を変える活動です。
そこまで遡って考えることができれば、食品ロス削減は単なる環境活動ではなく、食品企業の生産性と利益を高める、本当の意味での業務改善へと変わっていくでしょう。

利益改善コンサルタント
資格・スキル活用コンサルタント
技術士合格講師
小松 加奈 氏
東証プライム上場日系大手製造業に勤務しながら(2007年新卒入社、総合職)、複業として個人事業も展開している。
工場現場担当者の経験もある、現役会社員の技術士。最前線で『リアルタイム』の『現場』『現物』『現実』『最新技術』と日々向き合っている。
勤務先では、開発部・工場(開発課・製造課・生産管理課)・商品部・生産本部生産管理部・監査部監査室にて、工場現場から、本部での管理業務、生産原価管理システム構築、新設工場の生産管理業務構築、全社横断の構造改善と監査まで務める。原価改善プロジェクト多数実施。改善・原価教育多数実施。グループ全従業員向けセミナー動画10本シリーズ実施。
個人事業では「製造業特化型コンサルティング」「完全カスタマイズ型コンサルティング(全業種対象)」「資格・スキル活用コンサルティング」「技術士合格講座(一般部門全20部門対象)」を展開。
科学技術分野の文部科学大臣表彰(文部科学省主宰)の技術審査員も務め、400件以上の製造業改善事例を審査。
利益改善に関するコンサルティングや、合格に導く技術士受験指導、執筆(新聞寄稿含む)にも定評がある。
【 資格 】
技術士(経営工学部門)、第一種衛生管理者、ハム・ソーセージ・ベーコン製造技能士、フォークリフト運転技能、フードコーディネーター 他
利益改善コンサルタント 技術士 小松加奈website
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