品質管理

食品安全に関連する制度・政策

はじめに

 HACCP制度化の概要は前月のコラムで紹介した通りですが、既に食品安全に関連する制度や政策、民間認証などが存在しています。ここでは、民間認証も含め、食品安全に関連する制度や政策をまとめます。

国内の施策

 国内の食品安全に関連する施策には省庁と地方自治体が管理主体となっているものがあります。以下に代表的な施策をまとめます。

(1)総合衛生管理製造過程

 いわゆる「マル総」等の略語で呼ばれる制度になります。食品安全衛生法第11条第1項に、製造品目に応じて製造方法の基準が定められていますが、事業者がHACCP等の衛生管理手法を取り入れることで自ら設定した製造方法で管理することを、厚生労働大臣が承認する制度です。承認の対象となる食品は、乳、乳製品、清涼飲料水、食肉製品、魚肉練り製品および容器包装詰加圧加熱殺菌食品(レトルト食品)です。「マル総」は承認制度ですが、HACCPは承認や認証を受けるものではなく、工程管理の仕組みそのもののである点に留意する必要があります。

 承認を受けた施設は平成30年3月7日現在で689施設(筆者調べ)になります。最も承認数の多い品目は乳で、次に乳製品の承認が多い状況です。

図表1.総合衛生管理製造過程承認施設数

品目 承認施設数
魚肉練り製品 23
食肉製品 104
清涼飲料水 157
207
乳製品 185
容器包装詰加圧加熱殺菌食品    13
合計 689

出典元:厚生労働省ホームページ

(2)食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法(HACCP支援法)

 食品製造業へのHACCP導入を促進するために、農林水産省と厚生労働省により、平成10年5月に5年間の時限法として制定され、平成15年6月、平成20年6月にそれぞれ5年間延長する改正法が公布され、平成25年6月には10年間の延長がされています。現在の制度では、一般衛生管理などで設備投資が必要な場合に、必要な要件を満たし認定を受けることで、長期低利融資が受けられます。

図表2.食品産業品質管理高度化促進資金(HACCP資金)の融資実績

  

  

平成10年度 6貸付 3,698百万円
平成11年度 17貸付 4,177百万円
平成12年度 15貸付 4,219百万円
平成13年度 16貸付 8,251百万円
平成14年度 19貸付 5,046百万円
平成25年度 3貸付 810百万円
平成16年度 13貸付 4,780百万円
平成17年度 9貸付 2,327百万円
平成18年度 8貸付 4,810百万円
平成19年度 1貸付 130百万円
平成20年度 4貸付 1,710百万円
平成21年度 1貸付 100百万円
平成22年度 1貸付 450百万円
平成23年度 2貸付 2,270百万円
平成24年度 3貸付 2,630百万円
平成25年度 3貸付 810百万円
平成26年度 6貸付 1,371百万円
平成27年度 12貸付 1,431百万円
平成28年度 12貸付 6.421百万円

(平成10、11年度は貸付決定額、平成12年度以降は貸付実行額)

出典元:農林水産省ホームページより

 先月のコラムにも記載したように、HACCPそのものに設備化は必ずしも必要ではありませんが、一般衛生管理で設備投資が必要となる場合には、制度融資を検討されてみても良いと思います。

(3)国の輸出認定の実施(対米、対EU向け輸出食肉及び水産食品等)

 米国、EU等に水産食品を輸出する場合、国が認定した施設で加工することが義務付けられています。また、畜産品についても屠畜及び食鳥処理施設のHACCP認定が義務付けられる国が増えているため、家畜の生産過程での飼育衛生管理にHACCPを取り入れることが推奨され、今後は制度化されることになります。

(4)自治体HACCP

 地方自治体も独自に食品安全の認証制度を設けているところがあり、事業者の食品安全への取り組みを後押ししています。現在では少なくとも30都道府県で認証制度を設けています(一般財団法人 食品産業センターホームページより)。いわゆる「自治体HACCP」とも呼ばれることが多いですが、認証制度の内容は自治体ごとに異なっており、国内一律の基準はありません。自治体が定めた要求事項を満たすと自治体から認証マークが授与され、事業所に掲示できたり、自治体のホームページに事業所名が掲載されます。

 留意点としては、一般的に「自治体HACCP」と呼ばれているためコーデックスのHACCPにすべて準拠していると思われがちですが、自治体によっては要求事項が一般衛生管理に関するものだけであるなど、コーデックスのHACCPに準拠していないものもあります。そのため、「自治体HACCP」の認証を取得していても、今度のHACCP制度化には対応できない場合があります。事業所のある都道府県の自治体HACCPがコーデックスのHACCPに準拠しているか気になる方は、最寄りの保健所に問合せてみてください。

民間認証

 民間団体によるHACCP認証もあり、そのうちの一部をご紹介します。

(1)業界団体によるHACCP認証

 業界団体によるHACCP認証は、適用範囲がその業界や業種に限られています。業界HACCPを検討される事業者は自社の属する業界団体が認証を行っているかを確認するとよいでしょう。独自の基準で認証を行っている団体を以下に記します(一般財団法人 食品産業センターホームページより)。

 各業界団体のHACCP認証がHACCP制度化に対応しているかどうかについては各業界団体への確認が必要です。

(2)ISO22000

 ISO22000は食品安全マネジメントシステムに関する国際規格で、コーデックスHACCPの手順を全て網羅しており、HACCP、マネジメントシステム、フードチェーン事業者との連携(コミュニケーション)、一般衛生管理の4つの基本的な構成でできています。本規格はコーデックスHACCPを網羅していることから、本規格に対応するHACCP関連書式は、制度化されるHACCPにそのまま援用できると考えられます。一方で本規格の一般衛生管理の要求事項は、「前提条件プログラム(PRP)」として記述されていますが、項目の列挙にとどまり具体的な記載はありません。自社の一般衛生管理の活動が、前提条件プログラム(PRP)のどれに該当するのかを考えてみるのがよいでしょう。

(3)GFSIベンチマーク規格

 小売業、メーカー、フードサービス業、行政、学術機関等の食品に関わるあらゆる業界から集まった専門家集団がGFSI(グローバル・フード・セーフティ・イニシアチブ)と呼ばれる取り組みを推進しています。GFSIは世界的な会員制業界ネットワークであるザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(The Consumer Goods Forum : CGF)によって運営されています。GFSIでは基準(ベンチマーク)を定め、この基準を満たしている食品安全規格を承認して、承認された食品安全規格は企業間取引での監査等に活用されています。食品製造業関連では、FSSC22000、BRC、SQF、IFSなどがGFSI承認認証規格としてあります。いずれもコーデックスのHACCPを取り込んでおり、認証で要求される記録類は、HACCP制度化で必要とされる記録類にそのまま援用できると考えられます。以下、簡単に特徴をまとめます。

■FSSC22000

 近年普及が進んでいる規格で、日本のメーカーでも導入が最も進んでいる規格です。世界で16,000組織以上、日本では約1,500組織が認証を受けています(2018年3月12日現在 筆者調べ)。 ISO22000を包含しており、HACCPを中心とした食品安全の要求事項があります。

■BRC

 英国小売業界が開発した食品安全規格で、130か国で26,000組織が認証を受けています(BRCホームページより)。HACCPを中心とした食品安全の要求事項の他、品質面での要求事項もあります。

■SQF

 米国の食品マーケティング協会(Food Marketing Institute : FMI)が所有、管理する食品安全規格です。SQFもHACCPを中心とした食品安全の要求事項の他、品質面での要求事項もあります。

■IFS

 ドイツ小売協会(Handelsverband des Deutschen Einzelhandels : HDE)による食品安全規格です。IFSもHACCPを中心とした食品安全の要求事項の他、品質面での要求事項もあります。

(4)その他

 現時点(2018年3月12日現在)では、GFSIに承認された規格はすべて海外の組織が所有、管理しているものですが、日本発の規格でGFSI承認を目指す動きがあります。一般財団法人食品マネジメント協会が、「JFS規格」を策定してGFSI承認を得るべく活動を推進しています。3種類の規格が用意されており、上位規格ではHACCPの実施が要求されておりHACCP制度化への対応も可能と考えられます。

まとめ

 HACCPに関連する制度、政策をまとめました。HACCPという表記があっても、コーデックスのHACCPの手順に関連しない場合もあり注意が必要です。

 認証を取得する場合、その目的をはっきりさせておくことが重要です。認証の取得には、それなりの労力やコストがかかるため、費用対効果を考える必要があります。また、認証取得がゴールではなく組織内で食品安全に対する取り組みを継続的にレベルアップすることが目的である点も大事なポイントです。

 流行りにとらわれず、自社の外部環境、内部環境をよく検討して、自社にあった制度や認証を活用するのがよいでしょう。

徳永 税 執筆者 
柏の葉技術経営研究所 代表
中小企業診断士 / 1級総菜管理士 / 中級食品表示診断士 / JHTC認定HACCPコーディネーター
徳永 税 氏

東京大学大学院総合文化研究科 修士課程修了。1級総菜管理士・中小企業診断士。
食品メーカー開発部門にて新製品の研究開発、工場で品質保証の責任者としてFSSC22000食品安全チームリーダーを務める。
2012年、柏の葉技術経営研究所を設立。FSSC22000、ISO22000認証取得、HACCP構築、製品開発の支援を行う。

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