“施設基準”にHACCP対応は存在しない

“施設基準”にHACCP対応は存在しない

はじめに

 前回までは2回にわたり、個人衛生をテーマにいたしました。食品衛生は基本中の基本の前提条件ですがルールベースの現場への押しつけが、期待した効果が望めない形式的・儀礼的な個人衛生に陥ってしまいがちなこと。それを避けるには“なぜ”を基本としたリスクベースの取り組みが大事であることなどを解説してきました。

“新施設基準”もリスクベースへ

 今回は、改めて施設基準を問い直したいと思います。なぜならば施設基準は今回のHACCP制度化と並行して食品衛生法改正の1つの大きな柱となる営業許可制度の改正に紐づいて、新たに改正された“新施設基準”(厚生労働省令第87号、2019年12月27日公布)が2021年6月には施行を迎えるからです。

 新施設基準は各自治体で食品衛生施行条例として皆さまの現場に落とし込まれます。“HACCP制度化”と違って、ダイレクトに3年後の完全施行を見据えて営業許可のための喫緊の要求事項となります。事前チェックをしておくべきでしょう。この新施設基準の誤った捉え方で最も多いのが、「従来基準よりも緩くなった」というものです。この誤解は床上1m以上の耐水性材料とか100LUX以上の照明、ごみ箱にフタをする等の一律基準がなくなったことを指しているようです。しかし実際には汚染を受けやすい高さまでの不浸透性材料、必要な照度、汚液や汚臭が漏れない廃棄物容器などリスクベースの書きぶりに変わったというのが正しい理解です。

 このほかにも、「汚染が防止可能な」「汚染の起こりうる程度により」などその製造施設及び製品のリスクに応じた判断が必要となり、その判断に応じて空気の動線管理や結露防止、手指の再汚染防止、機器の分解清掃、薬剤保管庫、適温水の供給、排水の逆流防止、ドライ床等の整備をしなくてはなりません。

 この新しい施設基準改正はやはり、すべての食品で国際的に推奨されるCodex「食品衛生の一般原則」に準拠したものです。つまり前回の個人衛生と同様に“なぜ”を基本としたリスクベースの考え方で施設を見直す必要があるということになります。なお、欧米ではCodexに準拠した施設基準が古くから実施されており米国の詳細な基準が「食品施設計画審査ガイド」に全文和訳出版されていますので参考にされるとよいでしょう。

HACCP対応施設という誤解

 4月20日に公開した「HACCP初歩段階で陥りやすい10大誤解」において、施設基準に関連するHACCPの誤解をいくつか紹介しました。例えば「金属探知機とエアーシャワーは必須?」「HACCP 対応工場・対応機器?」「HACCP とは高度な衛生管理のこと?」などです。これらに共通するのが「HACCP手法支援法」(正式名称は、食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法)の曲解から生まれた誤解だということです。その時にも書きましたがHACCPはオペレーションであり工程管理の手法です。施設や機器はHACCPを実施しやすくする前提条件として大切ですが施設・機器がHACCPではないということですね。したがって今回の新施設基準は営業許可と直結しますが、HACCP制度化は営業許可に直接影響するものではありません。

施設とオペレーションは車の両輪

 現行の施設で新施設基準に適合できているかの事前チェックを施行前にしていただいたとして、もし適合できていないのではないかと疑われる場合にはどうしたらよいのでしょうか。既存施設のままでは営業が続けられないから廃業してしまう、もしくは新しく建て替えるというのでしょうか。たしかに新施設基準の中には新たに設備投資をしないと解決できないかもしれない項目もあります。たとえば薬剤の保管庫などない場合には設置が必要となるでしょう。しかし多くの項目はオペレーションの工夫で解決できるかもしれないのです。

 例えばトイレ施設の手洗い設備における手指再汚染防止ですが、自動センサーや足踏み式の手洗い場でなければならないでしょうか。実はペーパータオルを設置してあれば手洗い後に拭いたタオルで蛇口の握りをつかんで水を止める。これだけで再汚染は予防できますよね。また結露のある食品施設は結構ございますけれども、結露の原因は吸排気の設計ミスによるものです。要は湿った空気が一定時間以上滞留していることが問題なのです。強力な排気設備を設置したつもりがぜんぜん空気を吸ってくれない場合、静圧(空気を流す抵抗力)を計算に入れていない場合が多いのです。つまり排気させるだけの吸気を与えるだけで吸い込んでくれます。締め切らなくてもよいドアをあけ放ちにしてしまうだけでも解決できるし、それでも空気が滞留しがちならばサーキュレーター等で強制的に湿った空気をどかすことも考えられます。

 空気の動線管理も設計段階で想定されていなければ対処のしようがありません。ただこれは「汚染の起こりうる程度により区画されている場合」に限ります。つまり「食品等及び従業者の動線、時間等衛生管理により区画できる場合はこの限りでない」のです。多くの食品工場で“清浄区”“汚染区”といったエリア分けを半ば習慣的に実施しています。もし区画分けをしているならば汚染の起こりうる程度により空気の動線まで管理しなければならないですよね。さてさて、あなたの施設は本当に区画が必要だったのでしょうか。もし区画分けのための区画分けだったとしたならばこの機会に見直すことをお勧めします。

 次回はCodex施設基準の要求事項を“なぜ”を基本として網羅的にご説明したいと思います。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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