トレーニングと有資格者

トレーニングと有資格者

はじめに

 前回、HACCPに沿った衛生管理を持続可能なシステムとして機能させるためには、トップのコミットメントが大前提であり、品管・品証など一部門のみ(もしくは外部コンサル)に丸投げするのではなく組織横断的なマネジメント組織が求められること。トップのコミットは計画書への署名(更新するたびに必要となる)がその明確な証拠となること。トップコミットの最大の役割は資源の供給であり、その資源の重要な要素「情報」を供給する手段がトレーニングであることなどを解説いたしました。

トレーニングはプログラム化しなければならない

 今回はもう少しHACCPにおけるマネジメント要素をトレーニング側面から深堀りをいたしましょう。
皆さまの組織ではどのようなトレーニングがなされているでしょうか。日本ではこのTrainingという単語を“教育・訓練”と訳したりします。この訳語には一長一短があって運用上、日本では知識教育の側面が強調されがちで、現場の力量確保する技術訓練の側面がおざなりになってしまう場面が散見されます。本来は、「知識+技術=力量」をトレーニングにより確保することで現場の職責を果たせる体制を確保するのがマネジメントの大きな責務となります。

 「HACCP計画」、「食品安全計画」(Food Safety Plan)、「衛生管理計画」と呼び方は何でも構いませんが、計画書に明記された「誰が」“who”について、必ずトレーニング・プログラムを有することがCodex「食品衛生の一般原則」(CAC/RCP 1-1969, Rev. 4-2003)で示された国際的な推奨事項(10.2)と定められています。トレーニング・プログラムは事業者によってさまざまなパターンがあり得るでしょうが、その必要条件は先述したように計画書に定めた「誰が」の職責を果たすためのトレーニングです。多くの場合これらはOJT(On-the-Job Training;職場で実務をさせることで行う従業員の職業トレーニング)により果たされることでしょう。

 すなわち、調理・加工担当者はその温度・時間コントロールを、機械メインテナンス担当者はその分解組み立てや調整・較正、附随するだろうクリーニングやサニテーションについて、調合担当者はその配合率を、受入れ担当者は原材料確認や受取り拒否の基準を、出荷判断をする責任者は出荷前検証の手順や判断基準を、それぞれ自身の職責に応じて、OJTで良いので適格なトレーニングを受けなければなりません。多くの日本の食品工場で、この“計画書に示された職責を果たすためのトレーニング”という意味が理解されず、一般的な衛生講習会の記録しか残されていません。

 もちろん、こうした一般的な衛生講習会は、食品を取扱う者における基礎的な衛生規範を学ぶ機会として必須です。特に、個人衛生(付随する異物混入やノロウイルス、洗剤・薬剤の取扱い等の基本的な教育)、温度・時間管理等のオペレーションコントロール、アレルゲンの消費者リスク等を学ぶ一般的な衛生講習プログラムは有効でしょう。

必ず残さなければいけないトレーニング記録

 繰り返しになりますが、食品衛生法の一部改正に基づくHACCPに沿った衛生管理の制度化において、すべての食品等事業者に要求される「衛生管理計画」の予防管理手段に定められた「誰が」については、必ずOJTで良いのでトレーニング記録を残し、地元の保健所の衛生監視員による立入り調査、バイヤー等による施設点検、ないしは第三者認証や輸出相手国HACCP+αに対応するための監査等では、力量評価の証拠として即座に記録開示できる体制を維持する必要があるということです。

 トレーニング記録は一般的な衛生講習会等も含めて、個人管理していただいて構いませんが、衛生管理計画に明示された職責を果たすべく実施された(OJT等の)トレーニングについては一括管理されることをお勧めしたいところです。

管理運営基準でのトレーニングの記述

 HACCP制度化に先んじて、「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針」(ガイドライン)が厚生労働省により示されています(2014年最新版)。この管理運営基準はCodexの「食品衛生の一般原則」を基本としております。トレーニング・プログラムについて、「施設設備及び機械器具の適切な清掃や洗浄・消毒、廃棄物の保管・廃棄の方法、食品等の取扱い、管理運営要領と付属するふき取り検査等の衛生状態の検証、回収・廃棄においては、その各種手順等に関する事項を含むもの」と定めています。

 管理運営基準は各自治体で食品衛生施行条例として実質、規制基準としての運用が展開されてきています。HACCP制度化によりさらなるCodexベースでの効率的な監視、指導・助言が徹底・実施されるものと期待されます。

世界で求められるHACCP有資格者

世界で求められるHACCP有資格者

 HACCP制度化された世界各国はどこも自主衛生管理を実施する営業者に対して、“力量ある個人”(QI;Qualified Individual)を法的に要求しており、HACCP原則に基づいた衛生管理を実施する施設においては通常、「HACCPについて相当程度の力量を有するもの」(いわゆるHACCPコーディネーター)を最低でも1名以上を置くことを要求しています。

 日本でも多くのトレーニングが存在しており与えられる資格名もさまざまですが、HACCPは国際的な手法ですから一つの目安として国際的なアライアンスを有した組織であるかどうかを確認してみてもよいかもしれません。国際HACCP同盟(International HACCP Alliance)の認定を受けた組織としては、一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(Japan HACCP Training Center;JHTC)が知られています。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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