サニテーション文書化どこまでやれば良い?

サニテーション文書化どこまでやれば良い?

はじめに

 前回は、食品衛生でとても大事だといわれる教育・訓練について、その原語は“トレーニング”であり、知識だけでなく職責を担えるだけの“力量”を確保するためのものであること。その多くはOJTで実施されるものであり、Codexによりプログラム化することが国際的な要求事項であること。特にHACCP制度化時代にあっては衛生管理計画に明記された「誰が」について必ず、トレーニング記録により検証評価可能にしておかなければならないことなどを解説いたしました。

サニテーションはプログラム化しなければならない

 今回は、トレーニングと同様にCodexによりプログラム化が国際的な要求事項となっているサニテーションについて整理いたしましょう。サニテーションは、多くの日本人が文書化をするかしないかの線引きができておらず、結果大量の文書管理業務の大きな発生要因になっている意味で正しい理解が重要です。あなたの現場は整理できていますか?

 そもそもクリーニングや消毒は施設の随所で適切な実施を確実にするべきです。それは食品を汚染し得るさまざまな因子に対して、効果的なコントロールの継続をし易くするという効果をもたらすからです。HACCP制度化という視点からは、HACCP原則を適用するための“前提条件”であるという言い方になります。確実なサニテーションの実施は、HACCP原則の適用を下支えする行為なわけで、基盤がしっかりしていればいるほどHACCPはより強固なシステムとなります。

 サニテーションには正しい手順と方法が必須です。これらを標準作業として定めたのがSSOP(衛生標準作業手順)と呼ばれ、HACCPに沿った衛生管理に取り組む多くの事業者がこのSSOP文書作成に大きなエネルギーを注ぎます。でもちょっと待って!文書化されたSSOPは、その効果をモニターし、検証して変化する状況を反映させなければなりません。皆さまいたずらに文書管理業務を大量発生させるワナにはまっていませんか?

 繰り返しになりますが、施設の全体で求められるサニテーションの「プログラム化」と、モニターし、検証される必要のあるサニテーションの「文書化」との線引きが、できているかいないかで、あなたの施設現場の明暗はくっきり分かれると断言しておきます。

8項目のサニテーションは米国FDA規制

 大量のSSOP文書化というワナにはまりがちな一因は、HACCPトレーニングにあるかもしれません。
いくつかのトレーニングテキストは、米国シーフードHACCP同盟(SHA)のテキストをベースに開発されました。このSHAは米国のシーフードHACCP規制を遵守させるために開発されています。米国FDAのシーフード(及びジュース)HACCP規制ではサニテーション8項目(①水の安全性、②食品接触面、③交差汚染の予防、④手指やトイレ設備、⑤薬剤や結露水等汚染物質からの保護、⑥添加物の取扱い、⑦従事者の健康状態、⑧有害生物(ペスト)の排除)についてSSOPを要求します。ただし、プログラム化されたSSOPをすべて文書化しなさいとは要求していない(文書化の推奨はしている)のです。これらは製品の安全性に影響を及ぼす可能性があるとFDAがみなした項目ですが、施設のすべて(たとえば保管庫)で適用除外もあり得るとしています。

 ここで文書化しないよりしたほうが良いだろうと、明確な基準もないまま闇雲に大量の文書を作成し始めると、前々回ご紹介した「HACCP:Hard Agonizing Complicated Confusing Paperwork」(つらくて苦しい複雑な文書管理業務)に陥り現場を苦しめる結果となりかねないのです。

Codex一般原則のサニテーション

 ここでちょっと冷静になって、すべての食品で国際的に推奨されるCodexに立ち返ってみましょう。Codex一般原則で示されるサニテーション項目 (セクション6) の目的は、クリーニングとメインテナンス、有害生物(ペスト)コントロール、廃棄物管理、サニテーションとメインテナンス手順の有効性モニター、の4項目とシンプルです。

①クリーニングとメインテナンス(6.1)

施設や装置のサニテーションは、メインテナンスとセットで捉えます。施設・装置がサニタリー構造(洗浄しやすい)であること、金属片や施設の剥がれ、破片、化学的な汚染を予防すること、加えて“必須ステップ”において意図通り機能することが求められます。

②クリーニングのプログラム(6.2)

クリーニングと消毒のプログラムは施設のすべてに適用され、クリーニング機器のクリーニングを含みます。プログラムは適切さと効果についてモニターされ、“必要な場合”には「文書化」が要求されます。

③ペストコントロール(6.3)

有害生物の除去は、駆除だけでなく、アクセスの予防、食品残渣やすき間など繁殖要因の予防、モニタリングと検出と組み合わせた統合的な管理が求められます。

④廃棄物管理(6.4)

ビジネス機能を果たすにおいて適切な範囲で、食品の取扱い・保管・その他隣接場所で廃棄物を溜めない。

⑤手順の有効性モニター(6.5)

オペレーション前の検査や、食品接触面や施設環境の微生物サンプリング等による検証、定期レビュー、検証結果に基づく変化への対応が求められます。

サニタリー設計と環境ニッチ

文書化が要求されるサニテーションとは?

 Codexで「文書化」が要求される“必要な場合”とは、食品オペレーション上で食品安全上の危害を及ぼす要因「ハザード」のコントロールとして特定された“必須ステップ”での予防手段 (5.7) です。たとえば加熱後製品などの「そのまま食べられる食品」に原料の微生物が2次汚染するとか食品接触面や施設環境から病原体が汚染される(5.2.4)、あるいは別製品のアレルゲンのような化学的な交差接触が起こる等(5.2.5)について、“通常考えて起こり得る”と特定されたステップにおける予防的サニテーションを指しています。このステップを特定するのが実はHACCP原則1のハザード分析なのです。

 文書化においては、①クリーニングする場所、アイテム、装置器具、②作業責任者、③方法及び頻度、④モニタリング手配について明確化する必要があります(6.2)。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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