はじめに
いよいよCodex「食品衛生の一般原則」第2章の「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」解説の、「セクション1:HACCPシステムの原則」編、今回が最終回となります。残る、原則6検証と、その検証において必須のHACCPを実施した証拠である原則7記録づけについて学んでいきましょう。
混乱の源“妥当性確認”vs“遵守検証”
まず我々が認識しなければいけないのは、「HACCP原則6検証」が、「HACCP計画の妥当性確認」とその遵守のための「検証手順」に分けられていることです。そもそも、Codex 2020年改訂以前はこの妥当性確認(Validation)と遵守検証(Compliance Verification)は明確に区別されていませんでした。しかし、HACCP発祥国である米国ではしばしば、このバリデーションとベリフィケーションの違いと、それを一つの原則に括り入れていることについて、学際的にさまざまな意見がありました。結果だけ申し上げると、Codex 2020年改訂では、ValidationとVerificationの区別は重視しつつも、これを別原則に分けることでHACCP 8原則にするよりは、現行の7原則の中で明確に区分けするが良いと決定をいたしました。
多くの国は、ValidationとVerificationの区別による混乱よりも、この2つを原則として分けることによる、HACCP原則が7から8に増えるほうが混乱するのではないかと判断したのが実情のようです。したがって私たちは今まで以上にこの、HACCP原則6のValidationとVerificationの定義を正しく理解する必要性が高まっております。
原則6は「and then」(その後)で2側面に分けられています。まず「HACCP計画を妥当性(有効性)確認する」(Validate the HACCP plan)こと、その後に「HACCP システムが意図したとおり(as intended)に動作しているか確認するための検証の手段を確立する」ことです。「意図した通り」の箇所は2003年版までは「有効に」(effectively)でありValidationとVerificationの両方を区別なく含意していました。
コントロール手段があるか、意図した通りに運用されているか
「検証」の定義でまず抑えていただきたいポイントは「モニタリングに加えて」という言葉です。前々回にモニタリングを解説しましたがその文末で、モニターだけで保証となり得ない可能性に触れました。現場オペレーションでよくあるダブルチェック(欧米ではバディ・システムともいう)、記録の確認、測定器の標準器との比較校正といったモニタリング以外の活動を加えることで確実な食品安全保証を確立できます。そして、モニタリングの目的は「コントロール手段がコントロール下にあるか否かを評価するため」でしたが、検証の目的は「コントロール手段があるか、意図した通りに運用されているかを決定するため」となっています。“コントロール手段があるか”とは、「コントロール手段またはコントロール手段の組み合わせが正しく実施された場合に、指定された成果に対する、ハザードをコントロールする能力がある」か、でありこれは妥当性確認のことだと読み取れます。そして“意図した通りに運用されているか”とは「HACCP計画に従った手順の実施」がされているかの遵守検証を示しています。
したがいまして2020年版では、ValidationとVerificationの両方を明確に区別しているものの、VerificationのなかにValidationを含意している点そのものは引き続き変わったわけではないということになるでしょう。
すべての原則に適用される文書化と記録づけ
原則6 検証は各原則の中でも最も構成要素が数多くあり複雑さも相当です。その内容は、Codex HACCP 2020のセクション2での解説をお待ちいただきたいと思いますが、ここで踏まえていただくべきは原則7:文書化と記録づけとの関係性です。原則7「これらの原則とその適用への適切なすべての手順および記録に関する文書化を確立する」には特に定義された専門用語もありませんが、その意味するところはここまでの原則1「ハザード分析」から原則2「必須管理点」(CCP)、原則3「許容限界」(CL)、原則4「モニターシステム」、原則5「是正措置」(CA)、原則6「検証と妥当性確認」までのすべてに文書化と記録づけが必須の要求事項となります。それはどうしてかといえば、文書化された方法や手順、記録づけされた試験やその他評価を確認することが、正に検証行為の主たる構成要素となるからです。HACCPの世界では「記録のないものは“やっていない”のと同じ」と見なされます。HACCPで取扱うと決めたならば徹底した文書化と記録づけが必須なのです。
裏を返せば第35回で解説した通り、製品/プロセスに固有のハザードを特定し、そこに知識と経験を結集する“失敗モード”(Mode of Failure)で焦点を絞らないと、記録のための記録、文書化のための文書化、検査のための検査、認証のための審査といった「つらく、苦痛で、複雑な、わかりにくい、文書管理業務」に陥ってしまいます。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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