“HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン”を俯瞰する;Codex HACCP 2020最新版に準拠!!

“HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン”を俯瞰する;Codex HACCP 2020最新版に準拠!!

はじめに

 Codex 2020最新版に準拠したHACCP解説を、第32回から開始して「はじめに」と「セクション1:HACCPシステムの原則」の解説を前回まで9回にわたり丁寧に進めてきました。ここからは「セクション2:HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」に解説が移ります。もうその次の、現場の実装である「セクション 3:適用(HACCP12手順解説)」へと解説を進めてほしい読者もおられるでしょうがここはHACCPが系統的システムであることを思い起こしてていねいに読み込んでいただきたく思います。

 ちなみにこの「セクション2」と「セクション3」は、前版の2003年版では一つのセクション「HACCPシステム適用のためのガイドライン」を構成していて、2003年版で「はじめに」となっていた部分が現行の2020年版では2つにわけられています。今回はまずその全体を俯瞰しましょう。

HACCPシステム適用の一般的ガイド

 現行の2020年版での「セクション2:HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」は、上述した通りさらに2つ「2.1 はじめに」と「2.2 小規模および/または未発達食品事業の弾力性」の小節にわけられています。さらに文節で整理すると5+3の合計8つの文節があります。一つひとつの文節は長短ありその詳細も前版(2003版)そのままでなく加筆修正が入れられていますので次回以降、解説しますがここではだいたいどのようなことを言っているか見ておきましょう。

「2.1 はじめに」の5文節は筆者なりに最短要約した場合、およそ「①HACCPシステム適用は、前提条件プログラムなしには有効でない」「②マネジメントの食品安全への自覚とコミットメント」「③HACCP システムは重大なハザードのコントロールを特定し強化する、GHPs (適正衛生規範)達成を越える一貫した検証可能なコントロールを提供する」「④HACCP アプローチは、食品事業ごとカスタマイズする必要がある」「⑤HACCP システムは見直す必要がある」(丸囲み数字は原文になく便宜上、付けた番号)となります。

「2.2 小規模および/または未発達食品事業(小規模営業者等)の弾力性」の3文節は小規模営業者等へのHACCP適用に関して「①弾力的アプローチが利用可能であり国際的に推奨されている」「②業界団体、独立専門家および管轄当局から得られるべき手引きが有益であろう」「あらゆるレベルの人員に対する継続的トレーニングが必要である」といったことが書かれています。

“はじめに”と“食品衛生の一般原則”との関係性

 「2.1 はじめに」の5文節をざっと読み流して「おや?」と気がつかれた方はCodexをよく読み込んでおられます。どういう意味かというと現行版(2020年版)で新たに示された“食品衛生8つの一般原則”とかぶる表記があるところです。例えば一般原則「(ⅱ). GHPs を含む正しく適用された前提条件プログラムは、効果的なHACCP システムの基礎を提供すべきである」と「2.1-①」とで違うのは“GHPs を含む”を入れていない点を除きほぼそのまま。「(ⅲ). 各FBO は、食品事業の適切さに応じ、生鮮原料やその他の原材料、生産または調理のプロセス、食品の製造および/または取扱いの環境に関連する、ハザードを“自覚”すべきである」も「2.1-②」の「自覚」に通じます。また「2.1-④」の「食品事業ごとカスタマイズ」ともリンクしているようです。「2.1-③」はHACCPとGHPsとのコントロールの違いを示唆していて一般原則では「(ⅱ)(ⅳ)」とのリンクが認められます。そして「2.1-⑤」も「(ⅶ). 食品衛生システムは、変更が必要かどうかを判断するために見直されるべきである」とつながります。

 これは、もともと「HACCPシステム適用の一般的ガイド」の“はじめに”の原型が前版にあって、2020年版に改訂されるにあたり、HACCPに沿った衛生管理を「適用してもしなくても」遵守するべき基本原則として抽出されたものが、“食品衛生8つの一般原則”として新たに定義されたという経緯を知っておく必要があります。したがって2003年版“はじめに”から2020年版で何が加筆され変更されたかを確認し、その上で“一般原則”を読み込むと一つひとつの原則の意味を理解する扶けになるでしょう。

小規模営業者等への弾力性と新食衛法

 後段の「2.2 小規模営業者等の弾力性」ですが、この小規模営業者等は原語を“Small and Les Developed Business;SLDBs”(小規模および/または未発達事業者)とあって「未発達」という表現もいかがなものかと思いますがその意味するところは、HACCPの適用を「あまり原則にこだわり過ぎると、かえって現実的でなくなる」ような事業者を指しています。

 一つは、小規模のためにヒトや設備、情報などの資源が潤沢ではない可能性がある事業者、もう一つは、業態のリスクやオペレーションが12手順通りにやると適用しづらい(たとえば小売り・流通、小分け、調理業など)可能性がある事業者です。新食品衛生法では「未発達」の語を使用せず小規模営業者“等”の語を充てました。実のところ“Les Developed”の意味は「12手順通りにやると適用しづらい」ということなのですが訳語として一般に使用される「未発達、発展途上、低開発」のいずれも言われる事業者側としては心外でしょうから「未発達」≒「等」とあいまい表現したのは日本人の知恵かもしれません。

 国際的に推奨された通り新食品衛生法では小規模営業者等への弾力性を認め、手引書を開発しています。残る課題は小規模営業者等におけるトレーニングでしょうか。これらもCodexベースで正確に理解していただきたいため次回から順に詳述します。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋

監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
コーデックス規格
基本選集 I 対訳

監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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