はじめに
今回からCodex HACCP(2020最新版)の「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」各項目を詳説していきます。前回お示ししたようにセクション2はさらに「2.1 はじめに」と「2.2 小規模営業者等への弾力性」の2小節に分けられており、さらに文節で整理すると5+3の合計8つの文節があります。今回はその最初の文節「HACCP システム適用における前提条件プログラムの役割」を解説します。
「前提条件プログラム」の定義を再確認しよう
そもそも「前提条件プログラム」(Pre-requisite Programs;PRPs)という用語の意味を理解しないとここからの解説は意味がわからないかと思われます。Codexの専門用語のほとんどはきちんと定義が定められていますのでまずはそこから確認していきましょう。定義を見ると「前提条件プログラム:適正衛生規範(GHPs)、適正農業規範(GAPs)、適正製造規範(GMPs)などのプログラム*などのプログラム、およびその他のトレーニングやトレーサビリティの規範および手順など、HACCP システムを実装するための基礎となる、基本的な環境や運用条件を確立すること」とあります。シンプルにそぎ落とせば「関連する環境条件・運用条件の規範や手順」です。
厨房現場を想像してみてください。HACCPに沿った衛生管理をこれから導入しようという場面で、トレーニングをきちんと受けている現場と、そうした仕組みがない現場ではそもそも前提条件が違いますよね。食品加工工場でもクレーム品が発覚した場合にその製品がどの製造ロットなのか、原料由来の問題だった場合には原料ロットまでさかのぼって確認できる施設なのかそうでないのか、これもそもそも前提条件からはっきりした違いがあります。
このように前提条件というものは施設ごと企業ごと違ってきます。もう少し業態ベースで事例をお話しすると、外食店舗でも職人さんが長年の経験で調理する個人店舗と、アルバイトでも適切な調理をできるよう作業を単純化させてマニュアルで運営するような多店舗外食では同じ厨房だとしても運営の仕組み(前提条件)は違いますよね。また施設・機器等の製造環境でも掃除のしやすさや普段からの整理整頓がされているかどうか、オペレーションが標準化されていて製品品質が均一化されているかなどさまざまな前提条件が現場により異なることが考えられます。
こうしたさまざまな前提条件をプログラム化(規範や手順として標準化)したものを前提条件プログラム(以下はPRPs)と呼称しているわけです。
「前提条件プログラム」の種類
PRPsには、これまで解説してきた食品全般を対象とした「GHPs(適正衛生規範)」だけでなく「適切な製品およびセクター固有のコーデックス実施規格」、「管轄当局により設定された関連する食品安全要求事項」が挙げられます。
「GHPs(適正衛生規範)」と言っているのは現在解説している「Codex 食品衛生の一般原則 第2章」の前段の「第1章」のことです。本コラムでは2020.6.30の第6回トレーニングから始まり、以降、サニテーション(第7回)や個人衛生(第8回・第9回)、施設設備(第10回・第11回)、第一次生産、輸送、製品情報(第12回)、オペレーションのコントロール(第13回から第31回)まで詳細に解説してきました。
Codexではさらに個別に「製品・セクター固有のコーデックス実施規格」を策定していることをご存じでしょうか。例を挙げると乳・乳製品、食肉、水産物、卵・卵製品、低酸性缶詰、といった基本的な食品分類から果物缶詰、ドライフルーツ、ナッツ、ミネラルウォーター、生鮮果実・野菜、低水分食品など個別の製品分類、また大量調理、屋台、バルク食品や半包装食品の輸送、動物の飼養、食用油脂の保管・輸送などセクター分類、さらに細かく特定商品に固有のハザード(たとえばリンゴジュースのパツリン)まで幅広く規格を定めています。これら実施規格は多言語翻訳されていますが日本語版がなく我々が手軽に読むには少しハードル感を持たれるかもしれません。
しかし日本では国際的に推奨されるCodex規格を遵守する政策方針からこうした実施規格を法律(食品衛生法や表示法など)や衛生規範(手引書、ガイドライン等)に反映するよう努めています。したがって食品等事業者としては国内法規制を基本としてCodexは参考程度の取扱いと考えていただいてほぼ問題はないでしょう。ただし、海外輸出やグローバル認証に取組まれる場合には該当する個別のCodex実施規格がある食品製品・セクターならば、よりCodexベースで個別の実施規格におけるPRPsの指摘を受ける可能性が高まること自覚する必要があります。
「前提条件プログラム」の検証
PRPsがHACCPシステムを適用するための前提条件という意味合いからすれば、その前提条件が崩れているとHACCPの有効性も崩れてしまうかもしれません。したがいまして、PRPsが現在(いま)も前提条件足り続けているために、良く確立されたPRPsを運用維持し続けなければいけません。運用維持され続けているかを確認するためには「検証」を実施する必要性が出てくるわけです。
PRPsの検証は規範や手順の遵守を、記録の確認、オペレーションの観察、計測機器の場合はさらに比較校正(較正)を加えた手段で確認します。特に「より大きな注意を要するGHPs」や「CCPステップにおけるPRPs」は検証の重要性が高まります。これらは折に触れて詳説していきます。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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