HACCP

Codex HACCP 2020最新版に準拠!! セクション1. HACCP原則編3-4:許容限界(CL)およびモニター

はじめに

 前回、ご説明したCCP(必須管理点)は必須のコントロール手段となるステップでした。原則3からはそのステップにおけるコントロール手段の具体的な内容(つまり、どうやってコントロールするのか)に焦点が移ります。今回は、原則3「有効性が確認された許容限界を確立する」および原則4「CCPのコントロールをモニターするシステムを確立する」を解説します。

許容「可能か」「不可能か」の分水嶺としての管理基準

 前々回に解説したコントロール手段とは、食品安全のための「ハザードを予防するか、排除するか、または許容可能レベルまで低減するために使用可能なあらゆる措置、あるいは活動」と定義されていました。CCPはそのために必須のステップですから「予防できない、排除できない、許容可能レベルまで低減できない」事態というのは食品安全の保証においてまったく許容できないという“ロジック”になります。

 この許容可能か不可能かをわける分水嶺(separates acceptability from unacceptability)となる基準を「Critical Limit:CL」といいます。ここでは「許容限界」の訳語を充てていますが厚生省令用語では「管理基準」としています。たしかに定義でも「コントロール手段の基準」(a criterion, ~, relating to a control measure)とありますからまったくの誤りとは言えませんが、あくまでも「食品の許容可能と許容不可能を分離するため」のという部分を忘れないよう気をつけなければなりません。この許容限界を超えた、食品安全の保証が担保できない、許容不可能な状態を「逸脱」と言います。

CLは「科学的な妥当性確認」(有効性が確認された)が必須

 許容限界(あるいは管理基準;CL:Critical Limit)は「科学的な妥当性確認」(validated)により保証されねばなりません。やわらかい訳語では「有効性が確認された」となります。どちらでもかまいませんが、理解するべき大切なことは「“食品安全”という科学の物差しで考えていただいたときに、原材料やオペレーション、製品の仕様、消費のされ方で通常考えられるハザードに対して施設や従事者衛生等の前提条件を考慮した上で、許容限界のコントロールとしての適切性に、科学的に再現性があるか」という問いかけに応えられることです。「食品安全コントロール手段の妥当性確認」についてCodexでは別途、そのためのガイドライン(CXG 69-2008)を定めています。


逸脱を“観察”または“測定”によりモニター

 日本国内でHACCPワークショップ研修を開催し続けていて、受講者の多くが思い込み誤解されていることの多いのがこのCritical Limit(CL;許容限界、あるいは管理基準)が連続的にモニターできる“測定”値でしか認められないというものです。もっとも典型的な事例は金属異物に対するコントロール手段です。金属探知機がCCPと真っ先に思ったら要注意です。金属異物が混入し得るステップが特定されているならば、たとえばスライサーの刃やグラインダー、ブレンダー、チョッパー等の使用前・後の目視による観察でも、許容限界は設定できます。この場合の許容限界は「刃の欠けや機器の脱落破損」が“ある”(1)か“ない”(0)かという2進法のよりわかりやすい許容限界が設定できる。そう考えていただくことが、日本人のよくある誤解(すなわち、金探がCCPという思い込み)から脱出できるコツです。

衛生規範の“手順”に従っていないことによる逸脱もある

 「逸脱」には上述した「許容限界を満たしていない」というCCPにおける逸脱とは別に、適正衛生規範(GHP)手順に従っていないことによる逸脱も存在します。衛生規範の遵守は、従来、前提条件プログラム(PRPs:Pre-requisite Programs)として取り扱われHACCPを下支えする土台として考えられてきました。

 しかし、前回にご説明した通りコントロールが求められる「重大なハザード」には、従来の「HACCPで取扱う必要があるハザード」とは別に、「より大きな注意が必要な衛生規範(すなわち、GHPs)が求められるハザード」の定められた手順が遵守されていない場合も重大なハザードと直結する場合には、一般的な衛生規範とは違い、食品安全上、許容可能か許容不可能かという「逸脱」が発生したと判断し食中毒を引き起こすことを未然に予防できる場合があります。大事なところなので以降、折に触れて繰り返し説明します。

ここまで考慮すると意識しだすモニタリング以外の活動

 HACCPの7原則の“適用”については、Codex HACCP 2020のセクション2での解説をお待ちいただきたいと思いますが、このセクション1での7原則解説の段階でも、おそらく一定程度の読者は、モニターだけで保証となり得ない可能性に気がついたと思います。
現場オペレーションでよくあるダブルチェック(欧米ではバディ・システムともいう)、記録の確認、測定器の標準器との比較校正といった検証行為は次々回の原則6で取扱います。

杉浦 嘉彦
 執筆者 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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