2024年2月15日に開催しました「販路拡大はECで!食品業の課題と販売戦略セミナー」での講演「食品業界の販売促進 EC販促ツールの可能性」をレポートいたします。
日本の食品産業の特徴
食品市場動向
食品市場の動向は次のようなものがあります。健康への配慮や環境への影響などに敏感な消費者が増加し、その対応のため食品関連会社は新商品や製造プロセスを開発しています。関連する食品業者が多く、市場での競争激化によりブランド力や商品の差別化が成功を左右します。食品は人間にとって基本的な必需品であるため需要は安定しており、食品産業は成長し続けています。輸出・輸入が頻繁に行われるため国際規制や標準に企業は適応する必要があります。
技術特性
技術的な特性は次のようなものがあります。食品の製造処理には高い品質管理が求められ、安全性や品質の法規制に従わなければなりません。生産効率の改善や製品の多様化のために製造プロセスの自動化、食品加工技術の導入が常に行われています。そして、一番重要な点は、食品産業サプライチェーンの複雑性です。農水産物である原材料が多岐にわたるためその供給体制が複雑です。農産物・水産物・畜獣肉の収穫から加工・流通・小売り、そして廃棄までのサプライチェーンの効率的な相互協力関係が必要です。
食品業の生産管理・在庫管理・販売管理・原価管理に焦点
内田洋行ITソリューションズで開発されたシステムでは、製販一体の管理、トレーサビリティの実現、リアルタイムの在庫の把握、製品ロスの削減に重点が置かれています。
フードシステム(サプライチェーン)
食糧のサプライチェーンとは、資源育成調達から廃棄までの全体のことです。食糧の生産と配送ネットワークは多国籍かつ産業的になっています。つまり、グローバルな調達、企業、国際組織、国家政府などを主体とする大規模化、デジタル化や技術革新、調達・生産・流通・廃棄方法を国際的に標準化すること、付加価値のある商品化、社会的な視点を持った価格の外部化、機械装置・エネルギーなどの高水準の資源投入が必要になっています。
食品業の喫緊解決課題
まず第一に食の安全確保です。第二に美味しいことが前提で、安全で手頃感のあるものの継続的な実現です。その実現のために気を付けるべきこととして、異物混入、微生物・化学物質などによる食品変敗、アレルギー物質管理、食品に危険な物質を入れるようなフードテロリズムの防御などがあります。第三には製品の加工ロスの削減です。つまり歩留の向上を目指すということです。
時代は、アナログからデジタルを経て、デジタルトランスフォーメーションへ
機械化・デジタル化の時期を経て、現在はデジタルトランスフォーメーション(DX)の時代になってきています。デジタル化をした結果、周辺環境が大きく変革する状態のことをデジタルトランスフォーメーションと言います。つまり、デジタル化の結果、労働時間の削減や生産手順の改善などが起こることです。
講演資料:「食品業界の販売促進 EC販促ツールの可能性」より
ECとは、流通形態の変革である
ECとはElectric Commerceの略で、日本語では電子商取引と言い、インターネット上で行われる物やサービスの取り引きのことです。実店舗がインターネット上に仮想店舗を出し、デジタル情報(0と1)に置き換え、商取引をします。
流通最大手のアメリカの企業は大幅な伸びを示していますが、ECに特化するためにサプライチェーンの上流工程から下流工程までの全てのシステムを入れ替えています。2022年の市場規模は22兆7,449億円となっており、前年比9.9%増です。これはコロナ禍の影響による大幅増という可能性がある点には注意が必要です。
また別の言い方では小売で物を売買する手段の1つということです。ECを使うことによって、大量の在庫を抱える必要がない、売買契約完了後メーカーから直接消費者へ配送できる、ロングテールという手法でどんな商品でも売買できるなどのメリットがあります。実店舗の収益源の確保の戦略として、流通チャネルとなっています。外国語に翻訳できるソフトや生成AIなどを活用し、世界中に販路を広げ、販売することが可能になりました。
企業-個人間EC取引の推移
経済産業省の市場調査のデータですが、企業と個人の間(BtoC)のEC取引の推移です。
物販、サービス、デジタルと分野別に分けて表示していますが、年々伸びていることが分かります。2022年の市場規模は22兆7,449億円となっています。2019年と2020年のところと、2020年と2021年のところの上がり方が異なっていますが、これはコロナ禍の影響があると思われます。
▼経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」▼
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002-1.pdf
講演資料:「食品業界の販売促進 EC販促ツールの可能性」より
物販企業-個人間EC市場 約14兆円でEC化率9.13%
物販のみのデータでもEC市場は2022年で約14兆円で、EC化率は9.13%にもなり、EC化というのは大事な概念だとご理解いただけると思います。
▼経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」▼
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002-1.pdf
講演資料:「食品業界の販売促進 EC販促ツールの可能性」より
マーケティング戦略の基本視点
4P
マーケティングの意味は、Product、Price、Place、Promotionの4点で、4P戦略とも言われます。この4Pはアメリカの経済学者のフィリップ・コトラー氏とエドモンド・マッカーシー氏の発案によるものです。どのような規模の企業であっても押さえておくべき優れた視点です。
Product
Productは製品という意味ですが、製品の種類のみではなく質の良さまで言及する必要があります。
Price
Priceは値段の安さ・高さだけではなく、価格に対する満足感というコストパフォーマンスがここの観点になります。
Place
Placeは流通経路のことですが、販路の多さやECなどを含めた多様さを考えるという意味です。
Promotion
PromotionはPublic Relatio ns(PR)とも言いますが、販売促進のやり方という意味ではなく今や物量という意味になっています。EC化や生成AIの普及により、圧倒的な物量の展開が可能になるということです。
4Pは、価値観多様化とともに4Eへ
4Pは既に古い考え方になり、価値観の多様化により今は4Eの時代になってきています。Experience、Exchange、Evangelism、Every Placeの4点です。
Experience
Experienceは体験することで製品の価値を感じることです。
Exchange
Exchangeは価格から交換へという意味合いです。今まではコスパが必要という考え方でしたが、自分の持っていた物を交換あるいは共有することに価値を見出しています。車、自転車、服など、買わずに共有するということです。
Evangelism
Evangelismは販促から伝導という考え方です。製品で感じた価値やユーザーの体験を伝え、精神面に訴えかけることで販売につなげる考え方です。
Every Place
Every Placeはどこでもという意味で、特定の場所で購入する・体験することの価値です。
4Eのキーワードは、D2Cです
D2CはDirect to Consumerの略で、企業が自社製品を、中間業者を通さずに消費者へ直接販売することで、消費者直接取引と言います。昔あった産地直売という方法が自動化したものと考えていいと思います。消費者のニーズに限りなく近い製品の開発とその販売形態の実現のためにD2Cが進化してきました。D2Cは双方向なんです。消費者が商品の価値をフィードバックしたり拡散したりします。
情報の通信技術と製品加工技術のデジタル化によって、消費者のニーズに限りなく近い製品の開発を促進します。さらに安全な商品をコストパフォーマンス良く4E的に、売るための最良の方法を探しているということです。
フードエシックス(食物倫理)の話題
食物倫理のことも気を付けるべき話題です。
・まず大量生産、大量廃棄をやめるということです。食べられる食品を廃棄することは倫理的にいいのかという問題です。
・貧困問題とフードロスの関係です。世の中には貧困に直面している人々はたくさん存在します。一方で大量廃棄が対にあります。
・日本には栄養過多・肥満問題を抱えている人は非常に多くいます。アメリカ、中国も深刻な問題です。日本には三大疾患以外に糖尿病、高血圧の患者が多くいるため、医療費の財政を圧迫する要因にもなっています。
・動物に対する福祉という、そもそも肉を食べてもいいのかという考えです。牛、豚、鶏などを殺して食べるわけですが、福祉的観点で考えているのだろうか、食べるだけでなく余って捨てるという点にも問題があるということです。
・日本にはいるか、クジラ、昆虫を食べる食文化のある地区があります。この意味合いを考え倫理的な訴求をする必要があるということです。
・バイオエンジニアリングという技術を使用した、遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品の作り方やその使用方法の是非です。これは特に深く考えていかなければならない問題です。食品は安全であることが第一です。生物工学で使った食品の安全性、倫理的な問題などについては未だコンセンサスが取れていない状況です。
講演資料:「食品業界の販売促進 EC販促ツールの可能性」より
フードエシックスの外縁
倫理的に望ましくない方向性の決定は、合意形成で解決するというのが全世界的な流れです。市民フォーラムや自治体主導での話し合いなどで合意形成をするということです。
しかし、法律に違反しない限り、実行するかどうかは自由であるため、もめることになりがちです。個人的な価値観や文化の違いなどがあるため、解決の難しさがあります。関係者の大体いいだろうというような合意形成が大事ということになります。
倫理の裏返しにフードテロという問題があります。ヨーロッパの規格であるFSSC22000やISO22000ではフードテロリズムに対する対策ができています。アメリカではHARPCという考え方があり、テロリズムを前提としたHACCPというシステムが10年以上前から浸透しています。それを受け、フードディフェンス(食品防御)の必要性が国政的な流れです。
食品流通の忘れてはいけないポイント
消費者庁がフードロスの定義をしています。食べられる食品を廃棄することです。食品は年間600万トンも廃棄されています。世界に向けた食料援助量は約420万トンですので、その1.4倍が廃棄されているということです。国民一人当たりでは茶碗約1杯分(約130g)の食物が毎日捨てられていることになります。大切な資源の有効活用や環境負荷への配慮からフードロスの削減が必要です。
食べる偏りは、国内外の問題です
政府の人道的支援では、農家から買い上げたコメを必要とする人たちに無償で提供する仕組みの必要性があります。15万トンのコメを全農が長期保管した場合の保管料を支援する仕組みなどがあり、子ども食堂には古古米が提供されていました。在庫増加や価格下落に悩む農家への支援があります。D2Cに挑戦する若い経営者や農業生産法人として法人化をする人も出てきています。よって足るを知ることで、倫理的な消費であるエシカル消費の観点を持つことの重要性が全世界で言われています。
法律上、直接支援のためのコメの買上げは認められないという考え方があります。
アメリカ政府では新型コロナ禍対策の一環で、食料を買い上げ国民に配ったということがありました。日本ではマスクの配布や補助金や運転資金の融資などが行われましたが、アメリカでは農家への支援と消費者支援を一体化した政策が行われました。1つの例としてご紹介しました。
今回はECというシステム、特にそれを取り巻く環境、ECの有効性についてお話ししました。
ビジネスアートコンサルツ有限会社
代表取締役社長
技術⼠(経営⼯学部⾨・総合技術監理部⾨)
日比 幸人 氏
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