はじめに
前回、前々回と2回にわたって、改正食品衛生法で求められるCodex「食品衛生の一般原則」の施設基準を既存施設、および新設・増設施設の両パターンから概説してきました。既存施設であれ、新設・増設施設であれ、食品安全のレベルについて、“最終消費者の口に入れて安全である”ことを保証する意味で差異はありません。施設・設備面で脆弱な部分があればオペレーションでカバーする必要があるし、強固で利便の良い施設・設備はオペレーションを非常にやりやすく済ませられます。
食品サプライチェーンは一つなぎの鎖
この連載コラムでは、食品衛生法改正に基づくHACCPに沿った衛生管理を知っていただく目的で、そのベースとなるCodex「食品衛生の一般原則」との相関関係に触れながら解説を進めていますが、本格的なハザード・コントロールに話を進める前に、触れておかねばならない視点があります。
それはすなわち自施設の取り扱う原材料と製品の“川上と川下”がどうなっているかを知ることです。
食品の安全性と適切性は、ただあなただけの施設での取り組みでは決して実現できないという現実を認識しておきましょう。皆さまが受け入れる原材料には、さかのぼれば必ずその一次原料(生鮮品)があるはずです。つまりは、農水畜産の“第一次産業”事業者の存在です。そして生鮮原料そのものを受入れるにせよ、いくつかの加工業の手を渡るにせよ、原材料があなたの施設へ届くまでの川上、そしてあなたの製品が出荷されて小売り・フードサービスに届くまで、あるいは最終消費者に届くまでの川下には、“輸送”がサプライチェーンの重要なつなぎ手となります。これは、海外との輸出入、国内の広域流通、ローカル流通の規模や形態の違いはあれ“農場から食卓まで”の食品安全性と適切性のバトンをつなぐ欠かせないステイクホルダーであることに変わりはありません。
改正食品衛生法では、農場を除くこの食品サプライチェーンに携わる食品事業者等に対して食品および添加物の情報に加えて、容器包装器具の食品グレード情報も含めサプライヤーから情報を得て、かつ製造・加工ロットを識別して、出荷する製品の情報を適格に出荷先へと渡す責務を負うことになります。
第一次生産でしかできないこと
たとえば残留農薬や抗生剤といった農場段階で使用される化学剤の問題は、許容レベル以上の汚染があった場合に川下の事業者にとって対処の使用がありませんよね。キノコ毒や、一部の魚種で知られるシガテラ毒といった自然毒、保管・流通の取り扱いの不備による魚のヒスタミン産生や、農産物のカビ毒、アレルゲン交差接触なども農場段階での失敗次第で川下では手の打ちようがなくなります。
さらに、加熱などの殺菌工程を経ずに“そのまま食べられる食品”として出荷される場合、たとえば生食用のサバ、ヒラメや馬肉に寄生虫(順にアニサキス、クドア・セプテンクンプタータ、ザルコシスティス・フェアリーが知られていますね)がいると問題です。またそれ以外の病原性細菌(たとえば家畜の腸管由来病原菌、環境病原菌)が許容レベル以上にいてもいけませんよね。
第一次生産で使用される水や肥料、飼料、薬剤といった生産資材(だけでなく土、空気)が汚染されている。またはその他の汚染(農薬のドリフト、アレルゲン交差接触、廃棄物、有害小動物、器具や従事者からの汚染等)から保護する、生産物(植物および動物)の健康を管理する、といった農場段階での具体的な取り組みはフードチェーンの川下で悪影響を及ぼし得るハザードの起きやすさを低減できます。
流通の果たすべき役割
容器包装で保護された常温保管製品には通常、食品安全上のリスクはほとんどありません。一方で包装されていない、もしくは簡易包装である。そして保管温度帯(冷蔵や冷凍)条件が要求される食品にはいくつかのリスクがあります。
保管の冷蔵や冷凍など温度コントロールは多くの場合、病原性細菌の増殖を予防または最小化するための手段としておこなわれます。そのまま食べられる食品において病原性細菌の増殖は避けなければならない必須のリスクですが、たとえば魚のヒスタミンのように細菌が作り出した毒素が耐熱性で煮ても焼いても食べられない、といったハザードもあります。
小分けされる前の生鮮原料の輸送、もしくは調理後の製品のサテライトへの配送などにおいては完全包装されないまま流通する食品もあります。この場合は微生物的な、あるいはアレルゲン等のその他の汚染から食品を保護する手段が必要です。
輸送中の衛生的な取り扱いだけでなく、農場から食卓へのバトンのつなぎ手である流通は、特に情報伝達の重要な役割を担っています。ロットの識別(伝票)、製品取り扱い上の注意事項、アレルゲン情報など必要な情報をフードチェーンの川下へつなげていく自身の役割を輸送事業者とその荷受人は理解しておくことが大切です。
最終消費者が正しく判断できるために
製品の取り扱いが重要なのは最終消費者の手に渡ってからも同様です。
消費のための期限、保管温度帯、適切な加熱の必要性、アレルゲン情報、これらはほとんどの場合、製品パッケージにおける表示でもたらされますが、一般消費者向けの製品であるならば誤用の可能性も考慮しておきましょう。即時喫食されるフードサービス現場でもアレルゲン情報は欠かせません。メニューに使用される原料成分には加工助剤も含めてどのようなアレルゲンが使用されているのかあらかじめリストアップしてくことが大切です。ここにはアレルゲン交差接触の可能性も含まれます。正確な情報をもたずお客さまにアレルゲン情報を伝えることはむしろ危険であることを強く認識しておきましょう。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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