はじめに
HACCP法制化で求められる、Codex「食品の一般原則」では、文書化と記録づけが求められる推奨事項をまとめたセクション「オペレーションのコントロール」を設けていて、食品事業者等は、規模の大小や業態を問わず、最低でも自施設のハザードに対する自覚が求められていること、そのハザードを認識するために「製品の記述」(前々回)と「プロセスの記述」(前回)による自社オペレーションの“見える化”が求められるということを説明しました。
衛生管理の有効性をよく考えてみよう
今回はその作成した「製品の記述」と「プロセスの記述」を考慮した上で、食品事業者等が現在実施している衛生管理が、食品の安全性と適切性に対処するのに十分であるかどうか、その有効性を検討します。衛生管理の見直しと言っても、漫然と手洗いや個人衛生の見直しをしたり、整理整頓など5S・7Sを見直したり、という意味ではありませんよ。ここでは“より注意が必要な一般衛生管理”を見つけ出すことが目的です。
“より注意が必要な一般衛生管理”とは、「ハザード」の予防のために正しい手順を定めて、それに従っていることでハザード予防のための基準が満たされている状態を保つための衛生管理という意味です。これだけの説明では少しピンときませんか。
たとえば、作られる製品が出荷後に加熱等のさらなる加工を経ずに“そのまま食べられる”食品だったとしましょう。加熱工程がない、あるいは加熱後包装までのプロセスで環境病原体に汚染されるような事態は予防的に避けなければまずいですよね。つまり「製品の記述にそのまま食べられる食品」であるとしてあって、「プロセスの記述で環境病原体に汚染されてはいけないステップが特定される」(ハザード)場合には、そのステップが“より注意が必要な一般衛生管理” の対象ステップとしてきちんと予防管理しなければいけない(基準が満たされている状態を保つ)、と考えられるわけです。だとしたときに実際の現場では予防のために正しい手順を定めて、それに従っていることでハザード予防のための基準が満たされている状態を保つ仕組みができていますか、つまり有効性を評価してみるわけです。
このようにして特定された“より注意が必要な一般衛生管理”は、衛生管理計画にリストアップします。そして定められた手順を文書化してその遵守についてモニターし、検証して日々記録に取って日々の遵守状況を第三者に証明できるために、さらなる“見える化”を実施していきます。
“小規模営業者等”でも“HACCP原則に基づいた”をする場合
HACCP法制化で求められる“HACCPに沿った衛生管理”には従来の“HACCP原則に基づいた衛生管理”に加えて小規模営業者等を対象に弾力的な対応を認める“HACCPの考え方を取り入れた衛生管理”があります。小規模営業者等というのは現場従事者が50人未満あるいは、対面販売製造、調理業、容器包装済み食品の保管流通販売、量り売り事業者ですが、これらは規模的に自ら“原則に基づいた”を実施する人材確保が難しい、あるいは“原則に基づいた”の効果的な適用を妨げる障害があるかもしれないとしていて、厚生労働省と独立した専門家、業界団体で構成される技術検討会によって、食品/プロセスに特異的な「手引書」を開発して厚生労働省のホームページに公開しています。
手引書にはあらかじめ、一般的な「製品の記述」や「プロセスの記述」の事例、その場合の、“より注意が必要な一般衛生管理”がリストアップされていて、手順書や記録書式も用意されていたりします。中にはそのままご自身の現場で使えるものもあるでしょう。しかし食品現場のバラエティは幅広くてそのままは使えないという現場も多くあります。手引書の中には適用除外を消し込んだり、独自の衛生管理項目を加えたりできるものもありますので、手引書を参考にして衛生管理計画を作ってみましょう。
中には手引書と現場で大きなギャップを感じる場合があるかもしれません。特に「製品の記述」と「プロセスの記述」に大きな違いがある場合には、自らの判断で、“より注意が必要な一般衛生管理”を慎重に評価してみて、食品安全性のために不十分と判断される場合には、HACCP原則に基づいた衛生管理システムを実施する必要性を検討することも可能です。
ハザードを“自覚”(認識)することの大切さ
次回から“より注意が必要な一般衛生管理”と“HACCP原則に基づいた衛生管理”の違いも一つずつ実例を挙げてご説明いたしますが、今回までによくご理解いただきたいことはHACCP制度化とはつまるところ自主認証の制度なのだということです。HACCPの認証を取る制度はいくつもあって自治体が行うもの、民間の規格、最近ではFSSC22000やSQFといったグローバル認証規格、日本発のJFS認証など、それに取り組むのも結構ですがHACCP制度化に認証は不要です。
求められるのは自身が日々行っている衛生管理を”見える化”することであり、それを説明できる力量を持つことであり、日々の取り組みを記録で証明できることです。これを実現するためにはまず、現在取り扱っている製品の記述と、現場オペレーションのプロセスの記述を、食品安全性の観点からいかに見やすく文書化できるかにかかっています。ですから、保健所や取引先など第三者に説明することも考えて、やたらと細分化するのではなく簡潔に、また品質の適切性と、食品安全性とは区別して、多品目製造でも食品安全性に着目したグルーピングによって、説明しやすいまとめ方を考えていただくほうが賢いやり方だと思いませんか。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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