はじめに
ここまで50回以上(第1回目は2020.02.21公開! 長年、ご支援いただいた皆様に感謝を)にわたり解説を進めてきたこのコラムも、本回から進める“ハザード分析”解説にすべて昇華されると言って言い過ぎではないでしょう。繰り返し申し上げてきたことは、「HACCPって異質なものではなくこれまでやってきたことの“見える化”でしかない」「海外輸出する工場も駅前屋台ラーメン屋もそれぞれの“見える化”があるよね」「大切な根幹は公衆衛生上の被害を出さない状況を維持し続ける」「正しいHACCPはビジネスの底力を上げて商機を生む」ということ。
裏を返せば「“取る”ためだけの実効性なきHACCPは経営上単なるコスト」「経営層のコミットなきHACCPは現場従事者にとって耐えきれない労苦」「現場を反映しないHACCPは絵に描いた餅」「計画書の無目的なち密さよりもリスクに集中化することが成功の秘訣」といったことを数年かけて繰り返しお伝えしてきたつもりです。
またHACCP原則1「ハザード分析」については第36回目(2023.01.18公開)において、すでに解説(当時は2020年版に準拠をうたっていますが実質最新の2022年版に準拠です)しています。この回から始まる「HACCP原則編」は今後繰り返しリンクしますが、最新2022版準拠を前提として読み返しながら以降の解説を、知識の補完としてご活用ください。
ハザード分析の適用(手順6)は3段階
HACCPは“系統的な”(システマティック)システムです。前を知らないと次がわからない面倒くささがあります。購読いただいている各位様には第36回目だけは再読くださいませ。その回で原則そのものと合わせていくつか必須の理解していただきたい用語の定義を解説しました。具体的には、“ハザード(危害要因)”“ハザード分析”“重大なハザード”“コントロール手段”です。この用語4つの用語定義をしっかり理解して押さえていれば、以降の解説はきっと容易に、皆さまの現場に落とし込めるはずです。そのように努めて解説を進めます。
Codex 2022年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2部「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」解説で今回触れる「19.6:各ステップで起こり得る、かつ関係するすべての潜在的ハザードを列挙し、重大なハザードを特定するためのハザード分析を実施し、特定されたハザードをコントロールする何らかの手段を考える(手順 6 /原則 1)は、小節タイトル自体がなかなかに長いですよね。つまりは「小タイトル」自体で国際的に推奨される要求事項を言い切っています。
この小節タイトルをていねいに分解しますと「各ステップで起こり得る、かつ関係するすべての潜在的ハザードを列挙」「重大なハザードを特定するためのハザード分析を実施」「特定されたハザードをコントロールする何らかの手段を考える」となり、これを国際的トレーニングでは一般的に“ハザード分析の3段階”と通称しています。この3段階を国際的に認められる様式で“見える化”する必要がありますがその書式の一例は今後、解説して行く予定ですので、まずここではハザード分析が“3段階の作業”であることだけしっかり押さえて先を読み進めていきましょう。
“ハザード分析”はCCPオンリーから“より注意を要するGHP”特定へと
さて、この“ハザード分析の適用”(手順6、原則1)をCodex最新2022年版では大きく5文節で詳説しています。実はCodexの従来2023年版まで本節は4文節で構成されていました。実質は1文節増えただけですが記述を見ると、まず1文節目で上述のハザード分析3段階の根幹である「Significant」(特筆するべき、または重大な)ハザードが明記されています。また、第3文節では2003年版で取り入れられた小規模営業者等(SLDBs)へのハザード分析上の配慮が記述されています。そして実質新規記述である4文節目以降が2つに分かれて、「重大なハザードを特定するためのハザード分析」した結果としてHACCPで取扱うか、より大きな注意を要求されるGHPとして取り扱うかの選択肢を明示しての2文節になった、というのがわかりやすい読み方だと考えています。
この後の解説がわかりやすくより有意義であるために、「Codex 基本選集Ⅰ 対訳」(第2版最新)から、従来版と最新2022年版で加筆・修正した箇所を太字明記していることを前提に解説を進めさせていただきます。それでは、現行Codexの5文節をまずはざっくりと俯瞰してみましょう。
CodexとISOと米国予防コントロールで定義の異なる“重大なハザード”
日本で“重要”管理点と誤訳される“Critical”Control Pointですが、第37回に示した通り“essential”(不可欠)な管理点(すなわち、必須管理点)と理解する必要があります。この不可欠(外すべからざる)管理点を見過ごさないために“特筆するべき、または重大な”(Significant)ハザードという概念が世界で共有されています。日本国内のみで流通する食品においては食品衛生法に準拠して従来Codexの“HACCPで取扱われるべき”ハザードというのがこの“特筆するべき”ハザードと完全に同一でしたが、食品安全システムの現代化に従いこの“特筆するべき”ハザード解釈は規格や各国規制により定義の幅が若干違うので注意が必要です。
最も具体的なのは米国予防コントロール規制で、“特筆するべき”ハザードとは“予防コントロール規制で取扱われるべき”ハザードと定義されます。また民間認証であるISOにおいて、“特筆するべき”ハザードとは“HACCPおよびOPRPで取扱われるべき”ハザードとなります。いきなりで理解できるものでもないのでこれから逐次解説していきましょう。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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