営業事務業務効率化のための業務改革プロジェクト(食品製造業におけるプロジェクト事例)

営業事務業務効率化のための業務改革プロジェクト(食品製造業におけるプロジェクト事例)

 今回のコラムでは食品製造業において推進したプロジェクト事例として「営業事務業務効率化のための業務改革プロジェクト」についてご紹介致します。

1. 業務改革プロジェクトの対象企業概要

年商3000億円ほどの食品素材製造業。
非上場で植物性油脂や乳化発酵食材等を開発製造販売している企業で、大手食品メーカーやコンビニエンスストア等に製品を卸している。

2. 業務改革プロジェクトの背景

 「当社事務部門に対して効率化余地が大きくあるのではないか」という問題意識がある中で、まずは営業の請求業務を担当している組織を対象に効率化の余地を調査してほしい、との依頼がありました。

 今回ご依頼があったのは総務部門からでしたが、肌感覚として営業部門の請求業務が属人化しており、それによってブラックボックス化が促進され、業務が肥大化しているのではないか、本来であれば効率化の余地があるところを時間をかけて実施しているのではないか、という意識をお持ちでした。

3. 業務改革プロジェクトの内容

(1)プロジェクトステップ

 業務改革プロジェクトの全体ステップは図のように4つのフェーズから成り立っています。

<全体ステップ>

業務改革プロジェクト全体ステップ図

①調査分析フェーズ

  • 対象部門の業務内容や特徴から現状の課題仮説を立案し調査の仕方を検討
  • 課題仮説に応じた業務調査票を作成し、調査を実施。どの業務にどのくらい時間をかけているのかを調査。
  • 調査結果を取り纏め、仮説検証と分析を行った上で、今後の改革施策の着眼点や方向性を整理。

②施策検討フェーズ

  • 個別の打ち手に向けた方向性に対する、施策を検討。
  • 業務に与える影響度などの観点から実施すべき優先順位を決定。

③計画フェーズ

  • 優先順位の高いもしくは直近で対応可能な解決策に対する詳細調査を実施。
  • 調査から課題を抽出し、それらの解決策を基に実行計画を策定。
  • 個々の解決策の実行及び課題の対象関係部署に対して、解決の必要性を含めて説明し、実行に向けた合意形成を図る。

④実行・刈り取りフェーズ

  • 解決策の実行に必要となる体制を構築し、解決策の適用を実行。
  • 実行結果を確認し、効果を明確にする。

 以上が業務改革プロジェクトの全体像ですが、今回はまず「現状調査フェーズ」と「施策検討フェーズ」を実施しました。

 調査票策定のためにまず請求チーム全員にヒアリングを実施し、あらかじめ想定していた課題仮説だけではなく、ヒアリングの中で見えてきた課題仮説が抽出できるような業務量調査票を作成しました。その後1週間程度の期間で請求チームを対象に業務量調査を実施し、集計しました。

(2)プロジェクト結果

 今回の対象となっていた営業の請求チームの業務量調査票分析結果から以下のようなことが判明しました。

  • 本来業務である請求業務に割かれている時間は全体の57%しかない。
  • 顧客から依頼がある製品サンプルの発送は本来工場の業務であるが、請求チームの3分の1のメンバーが1日3~4時間製品サンプル発送業務をしており、業務量としてはチーム全体の20%近くを占めている。
  • 受注センターの入力不備に対してシステムエラーがかからないために売上計上内容確認に1人15時間/月かかっている。
  • 営業担当者からの個別依頼に1日1人1時間程度かかっており、担当者によっては1日2時間程度も割かれている。
  • 営業担当者からの依頼内容は本来業務ではない見積書の作成/確認や製品規格書の作成、原料レポート対応など様々な業務となっている。

 このような問題の要因として課題構造分析をした結果以下3つが明らかになりました。

  • 営業部門内の組織である請求チーム、営業サポートチーム、営業担当者の役割分担が不明確(属人的)。
  • システム対応が必要なところを人力で対応。
  • 製品サンプル発送業務が工場と営業部門とまたがって実施されており、明確な役割分担が定義されていない。

 この3つの中から特に多くの業務量が割かれており、対応している組織がまたがっていて難易度が高い「製品サンプル発送業務」を優先的に取り組むことに決めました。このテーマに関して引き続き第3フェーズ、第4フェーズである「計画フェーズ」「実行フェーズ」を以下3つのステップで進めていきました。

<進め方>

業務改革プロジェクト全体ステップ図

 まずは製品サンプル業務を実施している対象部門への詳細インタビューによる現状把握、課題の洗い出しと整理、実施に向けた最終化というステップにて実施しました。

 この企業では製品サンプル発送業務を前述の営業部門の請求チームのみならずサンプル発送をする専門チーム、営業担当者自身、工場という4つの組織で納期やサンプル量などに応じてケースバイケースで発送が行われていました。
したがって製品サンプル業務に必要な資材や備品が各所に保管されていたり、サンプル品を発送したあとの廃棄などが各所で大量に発生するといった問題も起きていました。

 これらの課題を整理した結果

  • 製品サンプル発送業務は衛生的にも作業効率的にも環境が整備されている工場にて実施することとする。
  • 営業と工場のやり取りが煩雑化しないようシステムにて一元管理をする。
  • 現在工場で対応していない個別の製品サンプル発送業務に関しても対応する方向で検討を進める。

という基本方針に基づき、製品サンプル発送業務を整備いたしました。

 実はこの企業では従来から工場で製品サンプル発送業務を実施しており、そこで対応できないイレギュラーな製品サンプル発送業務のみを営業にて暫定的に対応していました。しかし年月が経つにつれ当初のルールが形骸化し、イレギュラーなはずの製品サンプル発送が恒常化し、営業にて対応してきた製品サンプル発送業務が肥大化してしまっていました。それを今回今一度見直し、ルールを整備することで適切な業務体制に戻し、改めて実行するという流れとなりました。

 以上が業務改革プロジェクトの一連の流れでありますが、一方でこのプロジェクトにおいて大きな課題となるのは業務量が大幅に削減された組織の余剰人員をどうするか、という問題です。これに関して今回は請求チームの余剰人員は配置転換を行い、営業支援業務を行うということとなりました。
 この企業では働き方改革の一環として営業担当者のテレワークを推進しています。しかしそれによって営業担当者が出社する機会が減り、様々な業務が滞る、もしくは支援する業務が必要になることが予測されるため、それらを余剰人員の新たなミッションとして行うことになりました。このように業務改革プロジェクトを推進するにあたっては本丸である問題の解決とともに余剰が出た場合の解決策も合わせて考えることが必要です。

4. 最後に

 今回の事例では、業務効率化のための業務改革プロジェクトの事例をご紹介しました。働き方改革の一環で業務を見直さなければならない、または業務量が多く非効率な状況ではないかといった漠然とした問題意識であっても、まずは業務量調査などをして業務を見える化することが重要です。そのことによって課題が明らかになり、明らかにすることで組織にて共通認識が持てるようになり、改革にスピードが出るようになります。まずは見える化して問題を共有すること、その上で関連部門、上層部を巻き込み解決につなげる、これが重要だと考えます。

 本事例が読者の方々の抱えている課題解決の一助になれば幸いです。

佐藤 史子 執筆者 
アットストリームパートナーズ合同会社
シニアマネジャー
佐藤 史子 氏

【専門領域】
●B to B営業を中心とした​​ソリューション営業支援、営業​戦略策定・実行定着支援
●KPIマネジメントなど経営管理制度の設計から導入、実行定着支援
●事業構造改革/収益構造改革の企画・計画策定、実行支援
【経歴】
トーマツコンサルティング(現 デロイトトーマツコンサルティング)、ベネッセコーポレーションを経て、(株)アットストリームに参画。現在、アットストリームパートナーズ合同会社のシニアマネジャー。
【書籍】
・ゼロからわかるコンサルティング営業のアプローチ(金融財政事情研究会)

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