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食品業における個人衛生と日本人の深すぎる5大信仰!?

食品業における個人衛生と日本人の深すぎる5大信仰!?

はじめに

 Codexにより食品衛生のプログラム化が国際的な要求事項となっている“トレーニング”と“サニテーション”を前回前々回と続けて解説いたしました。前回のサニテーション解説ではプログラム化と文書化の線引きができていないために大量の文書管理業務を抱えてオペレーションに大きな負担がかかるリスクと、Codexが示す文書化ルールについて解説いたしました。

日本の個人衛生は儀式がいっぱい?

 今回は、多くの人々が食品衛生の基本中の基本と捉えている個人衛生について整理します。
個人衛生というと何を想像しますか? 身だしなみ、健康チェック、保護服の着用、手洗いの徹底、アルコール消毒などなどすぐに思い浮かべられるのも、食品取扱現場でまず徹底して教えられるのがこの個人衛生だからではないでしょうか。ところが多くの現場では、この基本中の基本が形式化してしまって本来の目的を果たしていない、その結果、いつ事故が起きてもおかしくない現場を散見することがよくあります。

 ここでまず理解していただきたいのは、個人衛生とは、「作業者が汚染を食品に持ち込まないために、物理的・時間的な切り離し(separate)をする行為」だということです。つまり個人衛生という行為には必ず、“汚染源”と“清潔さを保つべき対象”があり、あなた(現場の作業者)はその“汚染の媒介者”であり、食品安全を守る最前線に居る、という自覚が必要ということをしっかり押さえていただきたいのです。

 ところが個人衛生の教育は多くの場合、ルールベースとなりがちです。結果として現場は手洗いという手水舎で“みそぎ(禊)”をして、エアーシャワーという“鳥居”をくぐり、アルコール噴霧という“はらえ(祓)”をして済ませていないでしょうか。このように儀式的でちぐはぐな個人衛生を見つけたら神社にたとえて「さすが日本は信仰心豊かな神の国ですね」と声をかけてあげましょう。専用の着衣や履物は外界からの汚染を持ち込まないため、手洗いや手袋は食品・関連施設との接触表面を清浄化するため、アルコールはきちんと洗浄した後の殺菌のため、それぞれ必要なタイミングで正しい実施をしなければ、期待した効果は望めません。

個人衛生で陥りやすい5大信仰

 ルールベースに陥って機能しない個人衛生の事例を“信仰”というキーワードで挙げていきましょう。

アルコールシュッシュ信仰

 先述したようにアルコール殺菌は洗浄後でないと効きません。実際に不十分な手洗いをした手でアルコール噴霧した実験では菌検査をしたところ汚れに守られた菌はむしろ活発に増殖、手洗いする前よりも菌が増えていたといいます。これは器具や作業台も同様で「シュッシュしたらキレイは大間違い」なのです。

エアーシャワー信仰

 食品工場でエアーシャワーを設置する理由は主に毛髪の混入予防だというのはご存じと思いますが、ある工場で毛髪混入がなかなか減らず工場内をモニタリングしたそうです。すると一番毛髪が見つかったのはエアーシャワーを通った入り口付近だったそうです。大事なのは専用着衣に着替えるとき静電気などで付着した毛髪を粘着コロコロできちんと取り除くことです。エアーシャワーは毛髪を吹き飛ばす装置であることをわすれてはいけません。

手洗い信仰

 やたらと手洗いを励行する現場がありますが、手洗いはむやみに行うものではなく要所、要所で正しく行われるべきものです。食品取扱施設へ入室時の手洗いはできたら肘まで完全手洗いを実施していただきたいところです。非食品取扱施設では単に外界というだけでなくトイレがありヒトの腸管内由来の汚染物は蛇口栓やドアノブ等で再汚染され拡がっていきますから入室時に確実にこれを断ち切ることが肝要です。入室後に大事なのは生の原材料や廃棄物取扱い、食品残渣のある機械器具などからの汚染を、“そのまま食べられる食品”に移行させないことです。汚染の可能性がある作業後、および汚染させてはいけない食品を直接触る作業前など、いつどこで“なぜ”必要なのか現場も理解できるルールを設定しましょう。

手袋信仰

 これも誤った使い方が非常に多い個人衛生です。食品を素手で触るのは気持ち悪い、手袋だと安心するという消費者がいるのも事実ですがこれは信仰です。大事なのは食品に接触する表面が清浄であるかどうかですよね。外食現場で手袋をしていたら観察してみてください。片手に手袋をして食品を取扱い、その手でお代金を受け取り、ごみ箱のふたを開けてレトルトパックごみをポイ、というカフェチェーン店をよく見かけます。むしろ手指のけがや手荒れ、傷バンドから汚染予防のため手袋をするなら納得がいきます。二次汚染があり得るなら使い捨て手袋の使用を徹底するのが一番ですが、別に手袋のまま手洗いしたってよいのです。

マスク信仰

 マスクも上述と同様に形式的になりがちです。食品施設の現場よりも一般の皆さまは今回のコロナ禍で、おかしなマスク信仰に陥ってはいませんか?マスクも、やみくもな使用はかえって危険で、正しい使い方が求められます。食品施設におけるマスクの役割は自身の鼻口からの飛沫を直接食品に飛ばさないことです。ですから、食品を直接取扱う、または食品がむき出しで加工されるステップではマスクをするべきです。これが“そのまま食べられる食品”であれば必須事項でしょう。

感染症対策にも通じる個人衛生

 個人衛生の多くは感染症対策とかぶります。最後に挙げたマスク信仰は、インフルエンザや新型コロナなどでもよく言われるようになってきたのであえて挙げさせていただきました。コロナ禍では、マスクは自分自身が汚染源であり飛沫を周囲に直接、伝搬させないという食品施設での期待のほかに、自らへの感染を避けたいという動機付けも垣間見えます。ところが多くの実験や科学的な実証が示す通り、マスクはその完全な防御手段にはなり得ません。次回、皆さまにとって極めて身近な新型コロナ感染症からの防除という観点からこの個人衛生について認識をより深めたいと思います。

杉浦 嘉彦
 執筆者 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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