はじめに
前回のモニタリング解説では、許容限界(CL)の逸脱があった場合、これは食品安全上の許容「可能」か「不可能」かの分水嶺を越えたことになると説明しましたね。食品安全上の許容不可能とはすなわち食用不適(むずかしい言葉では偽和食品)ということですから例外なく「是正措置」を採らなければなりません。今回は原則5の是正措置について学んでいきましょう。
是正措置は単なる“改善”や“処置”では済まない
「是正措置」は“Corrective Action”(CA)の訳語です。厚生省令用語ではこの訳語に「改善措置」を充てています。加えてISOの世界では「是正処置」の訳語を充てていてややこしいことになっています。そこでCAの定義をしっかり確認しておきましょう。是正措置とは、CCPのモニターにより逸脱が発生した場合に採られる措置であり、その要素として①コントロールを再確立する、②影響を受けた製品がある場合には隔離する、③その処分を決定する、④逸脱の再発を予防または最小化する、の4つが挙げられておりこれを満たす条件を確立(あらかじめ計画化しておく)しなければなりません。
“是正”と“改善”は改めるという面ではよく似た言葉ですが“改善”は「良い方向へ改める」という意味があるのに対し、“是正”には「悪いところを正しくする」という意味があって冒頭であったとおりHACCPでは食品安全上の許容「可能」か「不可能」かの分水嶺を越えた場合に採られる措置ですからどちらの意味合いで理解しておくべきか明快ではないでしょうか。
次に“措置”と“処置”ですがこれも用語にこだわるのではなく意味の理解が大切です。“処置”は物事に対応することですが、“措置”はその対応に始末が付くところまでを対象としています。HACCPではとりあえずの処置だけでなく「④逸脱の再発を予防または最小化する」までやりきって、ようやく完了する“措置”だということをしっかり理解しておいてください。
厚生労働省としても2013年から実施された「食品製造におけるHACCPによる工程管理の普及のための検討会」(HACCP普及検討会)において省令用語よりもCodex定義の理解を醸成することが大切であるとしていること改めて強調しておきます。
衛生規範のモニタリングと是正措置
確立する是正措置の具体的な中身については、また改めて掲載する「適用編」(12手順解説)で明らかにしていきます。ここでは関連する用語の定義の意味をしっかり押さえていきましょう。「逸脱」には上述した「許容限界を満たしていない」というCCPにおける逸脱とは別に、適正衛生規範(GHP)手順に従っていないことによる逸脱も存在しており、この衛生規範の遵守は、従来、前提条件プログラムとして取り扱われHACCPを下支えする土台として考えられてきたことを前回も解説しました。この衛生規範のモニターと是正措置については、第17回の「“より注意が必要な一般衛生管理”をモニターする」ですでに解説していてこれはCodex 「食品衛生の一般原則」、第1章「適正衛生規範」、セクション7「オペレーションのコントロール」のうち、7.1.4「モニタリングと是正措置」に当たります。ここで再解説いたしませんが、このようにCodex 2020では、従来HACCP原則のみに使用されていた用語が、“より大きな注意を必要とする”適正衛生規範(GHPs)でも使用されるようになった点を留意する必要があります。
“コントロールを再確立する”こと
是正措置の最大の目的は、ハザードを惹き起こすリスクのある食品が消費者の手に渡るのを未然に予防することです。そのためにはまず、影響を受けた製品がある場合には隔離して、その処分を決定する処置が第一義的に求められます。それに加えて「コントロールが失われたこと」についての根本原因分析が必要となります。英語で言うと「Root Course Analysis」です。その観点で、“コントロール”の定義を見ていただくと名詞(Noun)と動詞(Verb)で、分けて定義されていることに気がつきます。
英語の世界なので日本人はあまり気がつきませんが、欧米人は名詞と動詞を明確に分けています。“コントロールする”(動詞)が失われた場合というのは、CCPにおける許容限界が逸脱してしまった(確立された基準や手順がおそらく遵守されなかった)状態であり、モニタリング活動はそれを出荷前に感知する重要な役割を持っています。
しかし、逸脱が発覚したならば、“コントロール”(名詞)が保たれていたかどうかまで、根本原因分析してみないといけません。なぜならば、正しい手順に従って、その中で何らかの確立された基準が満たされている状態が保たれている限りにおいて、本来、逸脱は起こり得ないからです。
これはすなわち、コントロールを再確立するためには、CCP周りの前提条件プログラムが、逸脱時に前提条件として機能していたかどうかまで確認する必要があるということです。それは例えば、予防的メインテナンスの不足によるマシンエラーや、不適切なトレーニングや不適格者配置によるヒューマンエラーなど含まれ、根本原因が逸脱に対して個別具体的であって、その逸脱の再発を予防または最小化するための、より積極的な措置が必要となる場合が想定されるからです。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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