はじめに
Codex 2022年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2部「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」の「19.3:意図される用途と消費者を特定する (手順3)」について解説します。この19.3も前回の手順2と同様に1文節となります。この意図する用途と消費を記述することの目的は他の前手順同様に「ハザード分析の“背景情報”を見える化」することですから、やはり『商談会シート』に記述されるような商品特長(つまりは、単身世帯でも食べられる大きさとか、祝い事に最適、肥満が気になる方にといった付加価値要素)ではなく、あくまでも“製品の安全性に関する記述”を含めるという目的からそれてはいけません。詳しく見ていきましょう。
販売先が最終消費者かビジネスかによるハザード分析の影響
ハザードコントロールの考え方は、自施設の取り扱う原材料購入と製品販売(つまり、“川上と川下”)がどうなっているかという視点が大切であること第12回で解説しています。食品等事業者はサプライチェーンを通じて食品安全コントロールのバトンをつなぐ責務がありますのでフードチェーンの川下にハザードコントロールを預けることができますが、販売相手が最終消費者である場合には伝達するべきハザード情報を明確にするだけでなく「意図した用途以外の使用法」がもたらすリスクまで考えておかなければなりません。
例えば、管轄当局または他の情報源から得られる情報として、類似商品で「よく噛まずに飲み込んで窒息してしまう」ことがよく知られているとか、「加熱してお召し上がりください」としているのに「そのまま食べてしまう」(RTE;Ready-to-eat)ことがよく知られているとか、「要冷蔵」なのに「真空包装だから保存が利く」と常温放置するなどなど、実際気が気じゃない製品はいくつもあります。海外では「葉野菜を洗わない」「冷凍クッキー生地を焼成せずに食べる」といった使用法が実際に大きな食中毒の原因になりました。
意図する使用法はエンドユーザーが食品等事業者(たとえば、調理業)である場合には正しい取扱いと提供の責務を果たしてもらわなければいけません。保管の方法や期限はもちろんですが要加熱(不適格なユッケや鳥刺しを提供していないか)やアレルゲン情報(小麦成分の含まれる米粉パンを小麦フリーとして提供する)などは事業者が誤った取扱いを避けられるよう、ラベル表記の強調表示が必要かもしれませんね。米国ではサプライチェーンの川下にハザードコントロールを投げる場合、きちんと書面に契約を取り交して責任の所在を明確にするところまでやられているそうです。
そのまま食べられる食品(RTE Food)への特別な配慮
意図する用途でもっとも気を使うべきがRTE食品かどうかの判断です。単に消費者の誤った取扱いだけでなく、電子レンジ程度の加熱では期待される細菌ハザードをコントロールする(殺滅する)のに不十分な場合もあります。この場合、ハザード分析の結果として製造者には意図する用途(たとえば、電子レンジ加熱やその他の加温)に合わせてRTE食品扱いのコントロールが必要であると結論付けられるでしょう。
容器包装後にレトルト加熱(120℃4分以上)するのでなければ耐熱性の胞子形成細菌は必ず生き残ります。胞子を形成する病原菌としてはボツリヌス菌、ウェルシュ菌、セレウス菌がよく知られています。また加熱後包装であれば包装の手前までは二次汚染の可能性があり、特に工場内に環境病原体が存在する可能性まで検証する必要性がハザード分析により導き出されるでしょう。
聞きなれない名前だという方も多いと思いますが大切なことなので覚えておいていただきたいのが、環境病原体の世界チャンピオン「リステリア・モノサイトゲネス」(Lm;Listeria monocytogenes)の名です。この菌の厄介なところは冷蔵状態でもどんどん増えるという低温増殖細菌である点です。製品の仕様にも依りますが十分な条件がそろうならばリステリアは0℃でもわずかずつ増殖し、4℃では2週間半あれば、10℃なら6日間程度で5桁(105)レベルで増殖します。したがってRTE食品への環境病原体の二次汚染は結構リスクの高いハザードだということになること、これからたびたび事例を紹介するので名前だけ憶えておきましょう。
環境病原体では他にサルモネラ菌もよく知られています。こちらも折に触れて事例を紹介したいと思います。
ハイリスク者向け製品を取り扱うことへの“自覚”
食品ビジネスにおいて既存マーケットに成長性が望めない場合、新規マーケットを目指して特定の層向けに新たなサービス展開をするといったことはよくある話ではないでしょうか。たとえば、惣菜、仕出し、弁当や給食サービス業者が病院向け、介護向け、老人向け、幼児向けに新しいブランドを立ち上げるなどというのは実際によく触れることのある案件です。
このような特定の層は多くが一般消費者と比較して免疫力が低い、あるいはのどを詰まらせやすいなどといった高い感受性をもつグループであることが多いので特別な考慮が求められます。したがって同じ製品であってもこうしたハイリスク者層の口元まで届くときまで想定してハザードが顕在化する(食中毒の最低発症菌数、微小なアレルギー原因物質の混入、小骨など通常問題にならない異物、誤嚥や窒息のしやすさ)リスクを想定したハザード分析(この配慮が“見える化”)をしなければならず、必要なプロセスコントロール強化、コントロール手段のより頻繁なモニタリング、製品テストによるコントロールの有効性検証、またはその他の活動について記述しなければなりません。できていない施設は自覚(awareness)無しと見なされる、つまり新規市場に参加する資格なしと言われても致し方ないこと強調しておきます。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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