重大ハザードの特定とコントロール強化(Codex 2.2.1の③);HACCP 2020最新版に準拠!!

はじめに

 Codex HACCP(2020 最新版)の解説は、現在「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」の前段「2.1 はじめに」5文節の各文節を詳説しているところです。今回はその3番目、「重大ハザードの特定とコントロール強化」について理解を深めていきましょう。ここではHACCPの優位性を、GHPとの比較から正確に提示しています。

 前々回では「2.1 はじめに」の第1文節目である「HACCP システム適用における前提条件プログラムの役割」の解説で「HACCP導入は、GHPsを含むPRPsの事前の実施なしには有効でない」ことを強調していましたね。ところが今回の3文節目ではHACCPシステムというのはGHPを越える優位性のあるものだから特別扱いしているのだとあえてその違いを強調しています。詳しく学んでいきましょう。

HACCPの意図は重大ハザードのコントロールへの集中

 スライドは最新Codex 2020年版の追加あるいは変更のあった箇所が赤字に強調されています。逆に黒字の「HACCP システムの意図するところは、必須管理点(CCPs)コントロールに集中させること」は旧Codex 2003年版からすでにあったことがわかります。これは以前「セクション1 HACCP 7原則―HACCPの誕生と発展」でHACCPが誕生したアポロ計画の時代1959年(昭和34年)の話をしました。そこで従来工業品の品質管理プログラムだった「ゼロ欠陥(ZD;Zero Defect)プログラム」が最初に検討されましたが、これはハードウェア一連の非破壊試験を利用したもので、ハードウェアすべてのパーツに適用される「総花的」(焦点がはっきりしない)やり方だったため、新たにハザードコントロールのみに集中する「失敗主義」(Mode of Failure)が採用されたことを紹介しました。この失敗主義とは、コントロールの失敗が通常考えて起こり得る、製品やプロセスに“固有のハザード”に知識と経験を結集する考え方です。いわば“どこで”(Where)と“どのように”(How)がわかれば予防は直接的かつ一目瞭然となる(焦点に集中的)という手法でこれがHACCP誕生のあけぼのとなりました。

 少し難しいお話ですが、この失敗主義が採用された背景に、バッチ毎製品の微生物サンプリングの限界があります。仮に「1バッチ製品に1,000個あたり1 個の割合(欠陥率= 0.1%)でサルモネラ汚染」があったと仮定すると「バッチから25g のユニットを 60 個分析するサンプリング計画でも、サルモネラ汚染製品を見逃し合格とする確率は94%を超えてしまう」(つまり微生物サンプリングは食品安全の保証足り得ない)ため最終製品検査に頼ることはできず新しい食品安全の“保証”を考えなければいけなかったのです。

食品安全上の越えてはいけない一線を設定可能かどうか

 ここで大事になったのが「逸脱」(コントロールが外れる)を明示するような、測定・観察可能なパラメーターが求められるというポイントでした。つまり製品検査に頼るのではなくて原材料/製品/プロセスに特定のハザードに対するコントロール手段が維持されているかどうかに焦点が置かれているわけですから、「コントロールされている/コントロールされていない」の線引きが誰から見ても明快で判断の迷いか起こり得ない、はっきりした“食品安全上の越えてはいけない一線”(分水嶺)がないと成り立たないお話なのです。この管理基準を許容限界(Critical Limits;CLs)といいます。

 CLについては以前「HACCP原則編3-4:許容限界(CL)およびモニター」ですでにCodex定義を踏まえて詳細に解説しています。そこでも触れていますがHACCPとGHPの違いをもっとも端的に言えばこの食品安全上の分水嶺(separates acceptability from unacceptability)であるCLが「設定可能である/設定することがなかなか現実的でない」の違いであります。CLの設定では「科学的な妥当性確認」(有効性が確認された)が必須であり、その逸脱を“観察”または“測定”によりリアルタイムでモニター可能でなければなりません。

スライド

出荷前「記録の確認」はHACCPだからできる食品安全の“保証”

 「コントロールされている/コントロールされていない」の線引き(すなわち許容限界)が誰から見ても明快であることは、その逸脱(許容限界が満たされていない場合)があった際に採るべき是正措置をあらかじめ決めてさえおけば、逸脱に対して是正を即実行できるということです。あとはモニターの記録と、逸脱と是正措置の記録をリアルタイムできちんと取っておくことで、その記録をレビューしさえすれば、その当該製品ロットが「コントロールされ続けている」ことの検証ができる仕組み(HACCPシステムのもっともシンプルな構成要素)の完成です。

 そして最も大事なのはその「検証」が製品リリース前(出荷前、陳列前、提供前)にレビュー可能であることです。製品の抜き取りサルモネラ検査の実験を上述紹介しました。最終製品の微生物検査は見逃し率が高い(上述の事例では94%超!)だけではありません。微生物検査はリアルタイムで結果が出ないのでその「記録の確認」は出荷前に間に合わない、ということになります(出荷前保管が複数日に渡る製品のような例外を除いて)。出荷後に逸脱が見つかったならば出荷後製品はリコール/市場撤去をしないといけませんしこれには多大な費用とブランド損失がかかります。これを避けるために「出荷前検証」ができるHACCPシステムだからこそ、世界でここまで高い評価を得て、重宝されてきた事実があります。

杉浦 嘉彦
 執筆者  月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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