HACCP

5.個々のハザードへのコントロール手段適用(Codex 19.6);HACCP 2022最新版に準拠!!

5.個々のハザードへのコントロール手段適用(Codex 19.6);HACCP 2022最新版に準拠!!

はじめに

 いよいよ、HACCP適用編「19.6 ハザード分析」(手順 6 /原則 1)解説も最後の第5文節目となりました。ハザード分析の適用3段階「①各ステップで起こり得る、かつ関係するすべての潜在的ハザードを列挙」「②重大なハザードを特定するためのハザード分析を実施」「③特定されたハザードをコントロールする何らかの手段を考える」の③番目(第4および第5文節目)を前回の第4文節目を読み返しつつしっかり学んでいきましょう。

ここが“系統的アプローチ”の真骨頂

 本第5文節は、次の「19.7 必須管理点(CCPs)の決定」(手順 7 /原則 2)へと系統的にリンクする要となるガイダンスとなります。裏を返せばここで導かれたハザード分析の結果として、CCP候補が絞り込まれるという事です。前回(第4文節目)を読み返してください。前々々回で特定された「重大な(特筆するべき)ハザード」に対する、GHPs(適正衛生規範)の適用で達成される可能性を示唆していました。重大なハザードの一つひとつに必ず1つ以上のコントロール手段が紐づく、というのがHACCPの国際ルールです。

 繰り返し強調しますが、HACCPが系統的(systematic)アプローチとして国際的に推奨されていて、日本では2020年6月より食品衛生法にまで制度化しているにもかかわらず、第三者認証や二者監査、行政点検で繰り返しこの“系統的”が実装できていない(すなわち、ハザード分析と紐づかないCCP決定)という指摘が持ち上がっています。審査/監査/査察(audit)は「原則6検証」(第40回に解説)の一要素でその適用についてはまた先に詳しく説明しますが、要件/要求事項(requirement)に対して計画が文書化されていて、かつ計画が遵守されていれば、認定/承認/認証に至るかもしれませんが、HACCPは本来“系統的”でないとその計画書は妥当性確認できていないと見なされ、本来はより重度の不適合と見なされるべきものです。「日本人はシステムが苦手」と云われて長年経っていますがあなたの現場はいかがでしょうか。この問題は、次のCCP適用解説のセクションでも取り上げましょう。

「同一ハザード VS 複数コントロール手段」

 本第5文節には、2020年版よりわかりやすい実例(赤字部分)が挙げられています。一つ目は、同一のハザードに対し複数のコントロール手段が必要かもしれないパターンです。ここでは、再びリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes ;Lm)の事例が挙げられています。この病原菌がいかに国際的にリスクの高さを叫ばれているか、うかがい知れます。ここでは特に加熱調理後“そのまま食べられる”(RTE;Ready to eat)食品を取り扱う場面を想定(たとえば、いわゆる「惣菜」)していて、加熱調理によってLmを殺滅できても、その後、包装するまでの間に環境下から2次汚染されることにより多くの集団食中毒が世界中で発生しています。これを防ぐには加熱調理後から包装までのステップで予防的サニテーション(これは通常、GHPとして実施)により汚染を予防するコントロール手段があわせ技で必要とされます。

第2部 HACCPシステム及びその適用のガイドラインよりCodex 19.6 第5文節 コントロール手段の適用 (手順 6-5)

 前々回(ハザード分析適用の第3文節目)では“小規模営業者等”への簡略化されたアプローチを解説しました。そのベースにある弾力性(flexibility;柔軟性)は大きく、①ハザードのグループを識別する、②胞子形成病原菌と栄養細胞病原菌のコントロールの違いを認識する、③手引書等の外部情報源を頼る、の3点を挙げていましたけれども、たとえば、通常加熱で殺滅できる栄養細胞病原菌と違い、胞子形成病原菌はレトルト加熱のような過酷な殺滅ステップが無い場合は必ず胞子(芽胞)が生き残りますので、胞子が発芽して再び増殖し発症菌数に至ることの無いような冷却や保管の時間/温度コントロール、あるいはpHや水分活性、添加剤などのあわせ技が通常実施されています。

「複数のハザード VS 単一コントロール手段」

 二つ目の事例は、加熱処理という1ステップで適格な中心温度/時間が達成された場合、ほとんどの栄養細胞病原体を確実に殺滅できるという事例です。ここでは、病原菌の代表として食品中のサルモネラおよび病原性大腸菌O157:H7を挙げていますが、これに限りません。一方で先に挙げた胞子形成病原菌は通常加熱で生き残るので単一コントロール手段で済まされないことに気を付けてください。また加熱といっても低温調理になるとまた条件が変わってきますし、二枚貝のノロウイルスも一般の栄養細胞よりも耐熱性が高いので注意が必要です。

 加熱で生き残る胞子形成病原菌に対する増殖抑制のコントロール手段でも温蔵保管では比較的高温でも増殖するウェルシュ菌は区別する必要がありますし、冷蔵保管でも流通から消費に至る過程での常温放置を考えると増殖スピードの速いセレウス菌は区別しておく必要があるほか、pHや水分活性、添加剤などのあわせ技もそれぞれの菌の性質を知っておく必要が出てきます。

 先述した“そのまま食べられる”(RTE;Ready to eat)食品を取り扱う、加熱調理後から包装までのステップで予防的サニテーション(これは通常、GHPとして実施)は、異なるアレルゲン原材料が混在する製造ラインではアレルゲン交差接触をも予防できる単一のコントロール手段かもしれません。ただし、アレルゲン交差接触の予防はこのほかに、保管ステップの定位置管理、使い切り/密封ルール、製造スケジュールといった複数コントロール手段を必要とする場合がほとんどなのでご注意ください。

杉浦 嘉彦
 執筆者 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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