はじめに
「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」の前段「2.1 はじめに」5文節もついに最後の5文節目、5回前に全体を俯瞰しましたが、ここまで①HACCPシステム適用は、前提条件プログラムなしには有効でない、②マネジメントの食品安全への自覚とコミットメント、③HACCP システムは重大なハザードのコントロールを特定し強化する、GHPs 達成を越える一貫した検証可能なコントロールを提供する、④HACCP アプローチは、食品事業ごとカスタマイズする必要がある、と解説を進めてきて今回テーマ「⑤HACCP システムは見直す必要がある」について詳説します。
“見直す”とは現場変化に応じてカスタマイズし直すこと
前版(2003年版)でもHACCP適用の見直し自体はガイドラインに記述されていました。すなわち「製品、プロセス、またはステップに変更が加えられた場合は、HACCP適用を見直し、必要な変更を加えるべきである」と。このシンプルな文面が進化したのが今回解説する文節です。大きく2つに分かれておりまして、一つはHACCP システムの見直す必要性について、もう一つはそれが最初にコントロールするべき重大なハザードが無いとして、CCPを設定しなかった現場でも同様に見直しを実施しないといけないんだよと書いてあります。これはなぜでしょうか…。
実はすでに、ここまでの「2.1 はじめに」解説で数回にわたり説明してきているんですね。4回前には、HACCPに「関連する環境条件・運用条件の規範や手順」が違う場合について具体的にお示ししました。それを“前提条件プログラム”と呼称します。その前提条件プログラムが現場ごと違うので前回は、現場ごとカスタマイズの必要性をお話しいたしました。今回はそれが時間軸で見た時に「現場はずっと同じではない」ことを想像できれば理解できる内容です。つまりHACCPは常に現場とフィットして居続けなければならず、「現在進行中の現場」にカスタマイズすることが求められているので“見直し”をしなければならないというわけです。
HACCPシステムを“見直す”と“カイゼン”はまったく違う
私見ですが、食品製造現場でいたずらにトヨタ生産方式を持ち込むのは極めて危険と考えています。その理由がこの「重大な変更があった場合はいつでも」“見直す”というところです。事例として挙げられたプロセス、成分、製品、機器の変更は常に、食品事業に関連する潜在的ハザードおよび/またはコントロール手段に影響を与える可能性を考慮しなければならないことから、“カイゼン”のようなひっきりなしでの全方位の現場変更は、生産性の向上にいくら寄与するとしてもHACCPにとっては相当な重荷となるのです。
HACCPに沿った食品衛生に携わる者に求められる、食品安全への自覚とコミットについて3回前に解説しました。施設のトップの自覚はもちろんのこと、職責(例;モニター、是正措置、検証等)を与えられた各員にはその職責に応じた、自身の取り扱うハザードとコントロール手段について自覚してコミットしなければいけません。その理由は、2回前に解説した通りHACCPに沿った衛生管理が製品やプロセスに“固有のハザード”(焦点)に対してコントロール手段が集中的だからでしたね。プロセス、成分、製品、機器の変更といった重大な変更かもしれない現場変化はあまり頻繁に起きて欲しくなく、現行システムが維持され続けている方がありがたいわけです。
“定期的に”および“重大な変更があった場合はいつでも”
現行システムが維持され続けているかどうかを、少なくとも定期的に見直す必要があり、自覚しているならば重大な変更があった場合はいつでも見直す必要があります。とにかく食品事業に関連する潜在的ハザードおよび/またはコントロール手段に影響を与える可能性を評価しないと、おちおち今日の製造をしていられないという不安を共有できれば皆さまもHACCP脳を獲得しつつあります。
実際に過去の食品事故を見直すとそのほとんどが繁忙期やイレギュラー時のミスか、良かれと思っての原材料、製品、プロセス等の変更がきっかけになっています。たとえば生産能力を超える過剰な受注(栄養細胞病原体の増殖)、漬物の薄味志向の商品開発(病原性大腸菌の増殖)、ステーキ塊肉を安価な結着肉に変更(病原性大腸菌の殺滅の失敗)、パンの焦げ目クレーム対応で手検品プロセスを導入(作業員由来のノロウイルス汚染)など枚挙に暇(いとま)がないほどです。
ちなみに“少なくとも定期的に”のよくある事例は規制で年毎1回の見直しを求める国がほとんどです。日本はまだHACCPに沿った衛生管理が義務化されたばかりでコロナ禍もあって必ずしも普及はスムーズでなかったのでこれからの課題でしょう。
CCPは現在ただいま最適なCCPであり続けているか?
最後に「CCP が不要であると判断された場合」の取扱いについてです。次回からHACCP原則の弾力適用をうたった小規模営業者等の解説に入りますが、小規模営業者等であっても自らハザード分析して「HACCP原則に基づいた衛生管理」を選択できます。その中には、ハザード分析の結果としてHACCPで取扱わなければいけないハザードがなくてCCPを設けないとした事業者も出てくるはずです。
しかしながらCCPを設けないのはあくまでもHACCP原則に従い分析した結果ですから、これも“見直し”をしておかないと現在もCCPを設けなくて良いと言い続けられるかわかりませんので、したがってやはり“見直し”が求められるのです。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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