はじめに
Codex 2020年 最新版「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」の「2.2 小規模および/または未発達食品事業の弾力性」3文節の解説を前回「①小規模営業者に推奨される弾力性(柔軟性)」から文節ごと順番に詳説しています。今回はその2文節目「②業界・専門家・当局の協働による手引書は有益」です。厚生労働省が「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理計画書作成の手引き」をどのような意図で開発しているか、食品等事業者は手引書とどう付き合っていけばよいか、Codexベースでしっかり理解していきましょう。
HACCP開発の資源を必ずしも持たない小規模営業者等
日本では50人未満を“小規模”営業者の線引きとしています。この人数は法人全体ベースでなく施設ごとの従事者数だとご理解ください。中小が大宗を占める日本では多くの施設がこの小規模営業者等に包括されることでしょう。とはいえHACCP義務化された日本では海外へ出荷される製品では“HACCP原則に基づいた衛生管理”が期待されていますから、小規模営業者等であっても“基づいた”を目指す(相手市場によっては第三者認証も選択肢となるでしょう)営業者が増えていくのは当然の流れです。
小規模営業者等が“HACCP原則に基づいた衛生管理”をやるための最大のハードルは「資源の確保」です。効果的なHACCP計画の開発および実施を自ら実現していくことは、そのための財源や現場で必要となる専門知識に依存しています。日本は、HACCP関連専門書籍やトレーニングも民間の努力により比較的充実していますが、その確保には最低限のコストを要します。
そこでHACCP制度化にあってはその専門的助言を、貿易および業界の団体、独立した専門家および管轄当局のような他の情報源から得られるべきであるとCodexは推奨しています。その具現化したツールが、我々も知る、厚生労働省が手引書策定検討委員会を設立して開発された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」です。厚生労働省のアプローチは正にこの小規模営業者等への弾力性にCodexの推奨事項をかなり実直に踏襲した施策であることが理解できますね。
小規模営業者等における“手引書”の有用性
小規模営業者等を考えるとき、単純に施設の従事者数規模(たとえば、50人未満)だけでなく、前回も解説した調理業の即時喫食等の条件や、加工度の低さ等まで含めて、食品/プロセスまたはオペレーションの種類ごとに違う特異性を考慮しなければなりません。そこで認められる“弾力性”は、各々の「手引書」により明確になります。
いまや厚生労働省の手引書は100以上もの業種・業態をカバーしている一方で、その様式は定まったものがなくさまざまです。これは、プロセス/オペレーションの種類ごとに、関連する専門家がそれぞれ開発したもので、管轄当局(厚生労働省)は内容要素のみ定めているからです。手引書の様式は「手引書をそのまま衛生管理計画として使える」「手引書を参考にして衛生管理計画が作れる」「自らハザード分析する“ほぼHACCP原則に基づく”衛生管理計画を自ら策定する」ものに大別されます。厚生労働省はそのいずれのアプローチも認めています。
手引書における説明は、食品等事業者にとって“包括的な”(comprehensive;わかりやすい)ものでないといけないのは当然のことでしょう。製品群のグルーピングの仕方や、一つひとつの衛生管理項目の必要性(すなわち、“なぜ”)、手順書や記録書式の現場での使いやすさ、定義した食品分類での実効性など食品等事業者が抵抗なく“HACCPの考え方を取り入れた衛生管理”に取組めるものである必要があります。
精緻化と実施の最終責任
小規模営業者等に当てはまる食品等事業者の皆さまには、ご自身の業種や業態に該当する手引書が自社オペレーションと“ぴったりフィット”していて運用しやすい状態になっていますか。手引書を参考にして衛生管理計画を作成した追加・変更点の科学的な根拠は説明できる状態になっていますか。
例えば、地域の伝統的な食品のため手引書に想定された製法や製品仕様と合致しないとか、特徴づけのため他にはない具材をトッピングしているとか、あるいはオーガニック原材料の使用や砂糖不使用など倫理面や健康面に配慮した原材料仕様を目指しているとか、またもっぱら即時喫食だったのをテイクアウトもやり始めたとか、もし手引書で想定されていないプロセス/オペレーションがある場合は注意してください。
こうした手引書との“違い”はときにハザードと直結するので衛生管理計画の「精緻化」(elaboration;入念に仕上げること)が必要となります。汚染された原材料、期待された微生物増殖の抑制効果の喪失、新たな温度・時間コントロールの必要性など食中毒に直結する場合が往々にしてあります。またさらには能力を超えた受注も、委託製造や流通/保管、臨時従事者などイレギュラーなオペレーション追加により事故の大きな原因になり得ます。
小規模営業者等であっても「精緻化と実施の最終責任」を負うのはあくまで食品等事業者自身です。たとえそれが手引書通りの実施だったとしても食中毒を起こしてよいという正当化にはなり得ません。こうしたイレギュラーにも対応できるように多くの手引書では本文とは別に「資料編」を用意しています。資料編では手引書本文で示した事例ではカバーしきれないハザードコントロールと直結する情報が記述されていますので大切にしてください。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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