HACCP

予見可能なすべての潜在的ハザードをリスト化しよう(Codex 19.6);HACCP 2022最新版に準拠!!

はじめに

 HACCP原則の適用最初である「ハザード分析」(原則1、手順6)について前回、小節を構成する5つの文節についてざっくり俯瞰して、小節タイトル「各ステップで起こり得る、かつ関係するすべての潜在的ハザードを列挙し、重大なハザードを特定するためのハザード分析を実施し、特定されたハザードをコントロールする何らかの手段を考える」そのものが、分解すると①各ステップで起こり得る、かつ関係するすべての潜在的ハザードを列挙、②重大なハザードを特定するためのハザード分析を実施、③特定されたハザードをコントロールする何らかの手段を考える、となりこれを国際的トレーニングでは一般的に“ハザード分析の3段階”と通称していることを紹介いたしました。

 今回はこの5文節の1文節目を解説しますが、ここでは“ハザード分析の3段階”の①段階目を説明しつつも、「次に待つ②段階目を踏まえてくださいね」といった表現を2回も繰り返しています。そして最後に、複雑なオペレーションに振り回されないよう、その“陥りやすい罠”について過去のリンクを貼って注意喚起しています。心当たりがある方は特に、以下の解説とリンク過去記事をしっかり読み込みましょう。

“合理的に予見可能なハザード”とは監査側が診たいであろうハザード

 「潜在的ハザード」(potential hazards)という言葉はぜひこの機会に覚えてください。なぜならば、リスクが完全にゼロとは言い切れないハザードを挙げていくと、これは突き詰めれば詰めるほど、あまりにも切りがない羽目に合うからです。原材料の穀物であれば原産国の過去情報からカビ毒や重金属、農薬等残留の履歴ははっきりしています。原水のクリプトスポリジウムは過去米国で水道水汚染がありましたが日本政府は現在保証しています。原子力発電所事故を起こした国であるかどうか、重金属の自然環境への汚染がどれくらい拡がっているかなどのマクロ情報も我々は政府機関のリリース等により科学的に安全である旨の情報を知ることができます。

 究極的には空気を吸うのも、水道水を飲むのもリスクゼロとは言えませんが、貴施設の出荷する食品は果たして“安全である/安全でない”を判断されるような、社会的に合理的な予見可能なハザードについては、顧客(購買者)も監視行政も貴施設に問題ないかどうか “気になって知りたい” 対象がこの「潜在的ハザード」なのです。

 したがいまして「潜在的ハザード」にはおおむね、過去に事件・事故を惹き起こした履歴のあるハザードが挙げられるはずです。こうした既知のハザードだけでなく直近ではヒラメのクドアや、紅麹のカビ毒のような新規ハザードも「合理的に予見可能」(reasonably expected to occur)な範囲で検討されることが期待されます。それは、国内/国外取引のコミュニケーションにおいて通常想定されるハザード情報を“見える化”しましょうという考え方であり、その通常知られるハザードが、「当施設では、重大でないor重大でありコントロールを要する」という、②の作業へ向けて論理的“見える化”の整理をする端緒です。連載当初の第4回をおさらいしてみましょう。特有のハザードにのみ“知識と経験を結集”できるのがHACCPの利点です。

HACCPチームは“通常考えて起こり得るハザードの場所”を特定する役割

 潜在的ハザードのリストアップは顧客(購買者、代理人、監査者)の視点で挙げるけれども、それを挙げていくHACCPチーム(食品衛生チームでも食品安全チームでも良いが)の目線として忘れてはいけないのが、ハザード分析の「ステップ②」がリスク評価の通常考えて起こり得る(Reasonably Likely To Occur; RLTO)ハザードで、“ある”かor“ない”か?、すなわち「重大(significant)ハザードか?」の判断に向かう作業であるという認識です。このリスク評価はまた次回以降に詳説しますので、本回では、次作業の適格なリスク評価に資する、潜在的ハザードの“洗い出し方”に焦点を置きます。

 第1の条件は、ハザード名を具体的に挙げることです。事例として“異物”でなく“金属片”と具体名を挙げることだと注意を促しています。これは、原則編の第36回に一度ご説明した通り、ハザードとは「危害(健康悪影響)を及ぼす要因(agent)」であり、この「agent」(要因)とは具体的な物質名を表わします。ざっくり、“生物学的”“化学的”“物理的”な「agent」、すなわちハザードについて、「農場から食卓まで」(原材料、環境、プロセス、製品の仕様)に特有なものをモレなく徹底して具体名で挙げていくわけです。

 ハザードを特定するということは、そのハザードが存在する原因/理由を特定できているということになります。これが第2の条件でCodexでは“裁断後の破損した刃からの金属”という事例を示しています。混入/汚染/接触なのか、毒素産生/菌増殖なのか、除去/殺菌しそこねるのか、そこで起こることが予見可能な失敗を“顧客/監視行政”の視点で洗い出して特定していきましょう。

 なおこれらはCodexの附属文書Ⅲにある「表1」で書式が例示(後日、回を設けて解説を予定)されています。

複雑オペレーションには“ブロック化”で簡易なハザード分析実現

 さて、このハザード分析でやたらと作業や文書管理業務が煩雑化している現場は前手順で解説した製品の“グループ化”(第53回)、フローの“ブロック化”(第55回)に立ち戻っていただくと、コピー&ペーストをおびただしく繰り返す「地獄の更新(行進?)」から抜け出せるかもしれませんよ。

杉浦 嘉彦
 執筆者 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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