はじめに
このハザードと紐づけられるキーとなる側面では、「7.2.3 微生物学的、物理的、化学的およびアレルゲンの仕様」を満たすために、たとえば「7.2.1 時間と温度のコントロール」や「7.2.2 特定のプロセスステップ」のような明確な予防的プロセスコントロール(CCP候補となるような)や、「7.2.4 微生物学的汚染」、「7.2.5 物理的汚染」、「7.2.6 化学的汚染」「7.2.7 アレルゲン管理」を農場から喫食までの食品サプライチェーン全体を考えて誰かがコントロールを担うべきという話をしてきました。今回はそのハザードコントロールをサプライヤー(原材料の供給者)が担う場合について、受入れ施設の管理手段について解説します。
仕様書の条件を検証・監査する
原材料は、その他成分も含めて、目的に適合したもののみを使用することが基本となります。仕様書に従った原料調達は日常的に多くの食品等事業者が日常活動で実施されていることでしょう。ただここでは、「ハザードと紐づけられる」原材料の仕様が対象だということを強調しておきます。仕様書の管理については、品質面はもちろん産地表示や細かい条件が盛り込まれて煩雑化しており、専任の職責を与えている事業者も多いかと思われますが、その場合でも「ハザードと紐づけられる」仕様条件が、衛生管理計画に明確化され区別できることが大切です。Codex一般原則の2020年版からはこの仕様に対して、食品の安全性や適切性の条件に準拠していることの検証を必要に応じて実施すべきであるということと、さらに踏み込んで一部の原材料によっては、監査などのサプライヤー品質保証活動が適切であるかもしれないという要求事項が盛り込まれました。検証の必要性や、監査の適切性は認識していただいたハザードのリスク評価に応じて決定され、「HACCP原則に基づく」衛生管理においてはこれがハザード分析となります。
ハザードをコントロールするのは誰か?
2021年4月掲載のコラムでは「7.1.1 取り扱う食品製品(または製品群)の記述」について解説しました。このとき、製品を記述することはすなわち「事前に原材料およびその他の成分、組成/配合、生産、加工、流通、および消費者使用に関する設計の要求事項を自ら策定」すること、そしてその目的は、オペレーションが適切に、効果的にコントロールされるような予防手段を明確にして、保証の仕組みを作るためにあるとご説明しました。
実際にはハザードの予防すべてを自施設でコントロール可能であることは、ほとんどあり得ないでしょう。たとえば、化学的/物理的または微生物的汚染物質が含まれることが通常知られているような場合、つまりハザードが認識されている適切な場合においては、選別/加工中に、コントロールの適用により、許容可能レベルまで低減されないような材料は、施設に受入れないことです。具体的には、青魚のヒスタミンや黄色ブドウ球菌産生の毒素エンテロトキシンはいったん生成されてしまえば煮ても焼いても食べられません。またそのまま食べられる食品扱いの原材料ならば、加熱後包装までの環境病原体汚染なども予防されている必要があります。このようにハザードに対するコントロール手段は原料供給者にしていただかなければいけないこと、また事業者向け販売であれば買い手先がしなければいけないこともあるのです。こうした食品サプライチェーン間のハザードコントロールにおける役割分担は、最終消費者の公衆衛生確保において根本的に重要です。
検査証明(COA)は供給者、購入者または双方で可能
原材料/その他の成分は、加工以前の措置が適切だったかどうか検査を適切な場合には実施するべきです。検査は例えば、輸送中に破損したパッケージの目視点検、使用期限および宣言されたアレルゲンの点検といった受入れ時の基本的なチェック、あるいは冷蔵・冷凍食品の温度測定のような測定記録を要求する場合もあるでしょう。適切な場合には、原材料/成分の実験室テストにより食品の安全性/適切性を確認すべきかもしれません。これらのテストは、分析証明書(Certificate of Analysis:COA)を提供する供給者が実施する場合もあれば、購入者自身、またはその双方により実施することもあるでしょう。
原材料/成分の保管においては、効果的な在庫ローテーションの対象とするべきです。受け入れロットを特定し先入れ先出しできるよう、入荷材料のキーとなる情報、たとえばサプライヤーの詳細、受領日、数量などを文書化し、維持しましょう。
遵守証明(COC)というCodexに先行する保証のアプローチ
検査証明は特に、微生物検査の場合には、なんらの保証にも適切でない場合が考えられます。微生物は偏在して汚染され、しかも検出に時間がかかり、しかも個別の病原微生物の検出となると陰性を証明することは、ほぼ現実的ではないからです。それゆえに世界のサプライチェーンでは、COAからCOCへ、という動きがあります。
先述の通り供給者のコントロール手段が明確ならば、HACCPに“基づいた”衛生管理を実施したという遵守証明(Certificate of Conformance:COC)を要求することがより現実的だからです。Codexが2020年版で新たに「検証の必要性や、監査の適切性」を加えた理由はここにあります。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
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