はじめに
「セクション2;HACCP システムの適用に関する一般的なガイドライン」の前段「2.1 はじめに」5文節も今回で4文節目、今回のテーマは「事業者ごとカスタマイズ」です。前回では、「重大ハザードの特定とコントロール強化」について解説しましたがHACCPの適用は、ハザードコントロールのみに集中する「失敗主義」(Mode of Failure)によるもので、コントロールの失敗が通常考えて起こり得る、製品やプロセスに“固有のハザード”に知識と経験を結集する考え方でした。また3回前の回では、「HACCP システム適用における前提条件プログラム」について解説して、HACCP適用の前提条件というものは施設ごと企業ごと違ってきますという解説をしましたね。そうすると必然的にHACCPの適用は事業者ごとにさまざまであり得るということが想像できるのではないでしょうか。以下、詳しく見ていきましょう。
ハザードもコントロール手段も事業所の現場による
文節の出だしは「1. HACCP アプローチは、食品事業ごとにカスタマイズする必要がある」です。この一文は黒字部分が多いことからわかる通り2003年版以前から記述されていたものです。「HACCPアプローチ」(A HACCP approach)が以前は「HACCP原則の適用」(The application of the HACCP principles)でした。この表現は、近く解説する小規模営業者等への“弾力性”(flexibility)とリンクしていて、「小規模営業者等へのアプローチでは(本ガイドライン)で説明する手順には準拠しないような」適用方法が提供される場合があるとしていて、「7原則の適用」だけでなく“弾力性を適用する”場合も含めた「アプローチ」へと表現が変更されました。
話を戻しましょう。従来の「HACCP 7原則の適用」を例に挙げて整理すると、例えば水産物ならば、具体的には「魚のフィレー」だとした場合に生物的ハザードである寄生虫アニサキスは輸入の冷凍であればハザードにはなり得ないかもしれないですが、近海の冷蔵であればコントロール手段が要求されるかもしれません。化学的ハザードであるヒスタミンでも冷凍のままカットすればハザードにはなり得ないかもしれないですが、解凍後カットであればコントロール手段が要求されるかもしれません。また物理的ハザードである金属片では包装後の金属探知機による除去が最適なコントロール手段かもしれないし、カットのステップにのみ混入リスクが特定できるのであれば使用前使用後の刃欠けチェックがよりシンプルで確実なコントロール手段かもしれませんよね。
CCPの許容限界、モニタリング方法等も同様に現場による
ここも従来の「HACCP 7原則の適用」を例に挙げて整理しましょう。例えば「栄養細胞病原体の生残」というハザードを「加熱」ステップでコントロールするCCPだとしましょう。バッチ式のオーブンの場合その中心温度条件を実際に中心温度計でモニターするのかそれともオーブンの庫内温度計で間接的にモニターするのかはモニターし易さや庫内のバラツキなどにより一長一短があります。また十分速やかに高温に達するのであれば必達温度のみでかかる時間はモニターしなくて良い場合もあります。さらに低温調理ならばより長い時間が許容限界として要求されることになるかもしれませんね。
またベルト式のオーブンであれば庫内温度モニターが現実的であり、移動するベルト上で中心温度計を刺すのは不可能かもしれません。また時間モニターはタイマーではなくベルトスピードでモニターされるかもしれません。さらに製造環境によっては製品の重量や厚さ、初期投入温度、投入量、ベルト状の位置など許容限界を設定するべきパラメーターは別途いくつか存在するかもしれません。
さらに、特定の状況ではパイプラインのポンプ設定や、厨房での焼き目といった目視による官能的指標をモニターすることも考えられます。さらに是正措置や検証活動もここではまだ具体例を割愛しますが現場ごとに違うモニタリング方法によって実現可能な方法の確立は特徴的(distinctive;独特の、区別されるような)となります。
実施規格、ガイダンス(手引書)も唯一無二ではない
Codex規格には、本解説の「食品衛生の一般原則(General Principles of Food Hygiene)」(CXC 1-1969)だけでなく、食肉や卵・卵製品、シーフード、野菜果実、木の実、ミネラルウォーター、大量調理施設などさまざまな実施規格、鶏肉中のサルモネラ・カンピロバクター、食品中のウイルス、魚介類の腸炎ビブリオ等のコントロールのためのガイドラインといったさまざまなハザードに対する手引書も開発されています。
これら多くは実用的・実践的で多くの現場ではHACCPシステムの適用に役立つと考えられます。そもそも日本の食品衛生法はWHO(世界保健機構)の国際ルールに基づき、こうしたCodex規格に準拠していることになっています。またISO22000など国際認証でもCodexの実施規格、ガイダンスに準拠することが要求されていますが、あくまでも一般的な規格であって、特別な用途(a specific application)であったり、異なる性質(a different nature)においては、唯一無二のものではない(not be the only ones identified)かもしれないという“適用除外”があり得ることを、Codex自身が明言していることに着目する必要があります。
日本でも手引書が数多く開発されていますが「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」であれ、「HACCP原則に基づく衛生管理」であれ、手引書自体はおのおのの事業所の衛生管理計画を「しばる」ものではありません。事業者ごとのカスタマイズを認めなければ多様な日本の食品文化を阻害することにすらなりかねないことを理解しておきましょう。
月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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