HACCP

フローダイアグラムで外せないイレギュラーステップ具体例(Codex 19.4後半各論編);HACCP 2022最新版に準拠!!

はじめに

 Codex 2022年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2部「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」の「19.4:フローダイアグラムを構築する (手順4)」について、1文節を前回と今回の2回に分けて解説しています。前回は「前半総論編」として、フローダイアグラムについてQC工程表や厨房のレシピとは必ずしも目的が同じではないため、ハザード分析のために原材料の受入れから出荷までのフロー(流れ)を俯瞰するという本来目的にかんがみて、 “モノサシ”が違う「品質」とは明確に区別をしないと、やたら詳細化され、顕著に複雑化してしまうおそれがあること解説いたしました。

 その上で、“リワーク”などイレギュラーステップこそカバーしなければならないこと、および、類似ステップある複数製品に同じフローが使える可能性を検討できることを踏まえ、2020年版に新たに加わった、①すべての投入を示す必要性、②モジュール化、③ハザードの発生、増加、減少、または混入の可能性を評価するステップを漏らさない、④ハザード分析のため明確かつ正確かつ十分に詳細である必要性、を要求事項として示しました。

 それでは以下、こうした項目についてもう少し具体的に見ていきましょう。

特定オペレーション前後のステップの実施状況を考慮すること

 Codex 2022年 最新版「食品衛生の一般原則」の第2部「HACCPシステム及びその適用のためのガイドライン」は、2020年版から大幅に具体的な「事例」を加筆しているのが特徴です。この「19.4:フローダイアグラムを構築する (手順4)」についても同様で、図示してある通り「フローダイアグラムには、必要に応じて以下を含める必要があるが、これらに限定されない」(Flow diagrams should, as appropriate, include but not be limited to the following)として、①オペレーション内のステップの順序と接続点、②原材料、成分、加工助剤、包装資材、ユーティリティ、中間製品がフローに投入される場所、③外部委託されたプロセス、④適用可能なリワーク、および再利用される場合、⑤最終製品、中間製品、廃棄物、副産物が出荷または 除去される場所、が挙げられています。


 このうち①の「順序と接続点」(the sequence and interaction)は初回翻訳では「順序と相互作用」としていました。「相互作用」は一般的な訳語ですが、フローダイアグラムがワークフローチャートであることを考えれば、これはダイアグラム間をフロー線がどう結ぶかという「接続点」のことを言っていると気がつきます。

 大切なのは製品のグルーピングや、前回解説した多品目を一つのフローダイアグラムで兼ねる、という場面です。米国のトレーニングで使用したジェネリックモデルでは、グループ商品内での若干のイレギュラー(一時保管の有無、トッピングの有無)はフロー線をダイアグラム一つ飛び越える書きぶりで1枚のフロー図にまとめており、詳しくはプロセス記述(第15回)で詳説、とても上手にフローダイアグラムを本来目的に沿うようシンプル化しておりました。

原材料、外部委託、リワーク、副産物、忘れ得ぬ失敗を繰り返さない

「②原材料、成分、加工助剤、包装資材、ユーティリティ、中間製品がフローに投入される場所」は先述の「順序と接続点」(the sequence and interaction)とリンクしますがこれも前回解説していました“すべてのインプット(投入)を含める”前提で考えると個別製品によりフロー線がダイアグラムを一つ二つ飛び越える書きぶりがあり得るでしょうし、そこはプロセス記述で解決できるのも先述の通りです。さてここで、目的であるハザード分析の背景情報という観点から考えてみると、病原菌の殺滅や硬質異物の除去などコントロール手段が特定されたステップの後での投入が、新たなハザードの導入になっていないかどうかは、基本的に深刻な問題に直結しやすい落とし穴です。

「③外部委託されたプロセス」は日本のHACCP手引書でもっと強調していただきたい、数多くの事故の原因になっているポイントです。プライベートブランド商品あるいはそれに準ずる場合、通常は委託製造に対して遵守証明や検査証明を要求し、現場監査に入るなどサプライチェーンを強化されているのが通常ですが、地方の小規模営業者では食品製造の知識がないまま丸投げという事例もよく見かけます。販売者の責任についてHACCP義務化を機会に認識し直していただきたいですが、事故の多くはそうでなく百貨店やイベント会場での特設会場で、しかも結構名の知れた名店で起こったりします。これは自社の製造能力を超えた製造や流通を外部委託する時に起こり得ます。駅弁や、うなぎ弁当等近年も毎年のように食中毒事例があるのは残念なことです。

「④適用可能なリワーク、および再利用される場合」は米国のジャック・イン・ザ・ボックスにおける牛肉パティの病原性大腸菌O157のリワークによる食中毒(1982年)が世界の教訓となっています。大手ハンバーガーチェーンにも卸されていたビーフパティですが一般家庭食材としても流通しており加熱不足により多くの被害を出しました。原因は成型ステップで除去された残さを前ステップにリワークし、それを何度も繰り返すことで病原菌が増殖する余地を与えたことで、リワークや再利用はロットの識別とセットで、サイクルカットをするコントロール手段を知るに至りました。

 最後に「⑤最終製品、中間製品、廃棄物、副産物が出荷または 除去される場所」についてですけれども、ここに含意しているのは自社が受託製造で、中間製品状態で出荷しているであるとか、非食用であるはずの廃棄物が食用として流通しないであるとか、副産物の別製品への利用、といったイレギュラーな場合も含めた食品資源の本来目的から外れた出荷先に対してまで食品安全のバトンはつなげる執行責任(Responsibility)があることを強調した項目です。皆さまは出荷先の使用要件まで契約を交わし、保証の担保を取っていますか?

杉浦 嘉彦
 執筆者 

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏

【 講師プロフィール 】
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007年より)
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数

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編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

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監修:一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター
翻訳・編集:株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部

大幅に改訂された「Codex 食品衛生の一般原則 2020」の内容を翻訳、長年の HACCP トレーニング実績を持つ日本 HACCP トレーニングセンターが監修。
付随するガイドラインや実施規格も発刊予定です。

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