
はじめに
Codexの「食品衛生の一般原則(CXC-1)」(General Principle of Food Hygiene;GPFH)最新2022年版におきまして、HACCP12手順の8手順目、HACCP7原則「適用」の第3原則目となる、「19.8 個々の CCP に対して有効性確認済み(validated)の許容限界を確立する」(手順8 /原則 3)を解説します。本小セクションは2文節にわかれ、第1文節目は許容限界確立のための基礎的要求事項についてカバーし、第2文節目には追加された「有効性確認済み(validated)」をわざわざ別枠として、特に焦点を置き別記しています。今回と次回と文節で2回に分け、解説を進めていきましょう。
なお、読み進める前に「原則」編の第38回を再読ください。また、より詳しく理解されたい皆さまには次回解説の焦点となる“妥当性確認” (validation;有効性確認済み(validated)の名詞形)についても、第40回に目を通していただくとCodexの文脈を、より正確に理解していただく扶けとなるので再読をお勧めします。
1つのCCPに複数の許容限界
まず赤字になっていない旧版から引き継いでいる箇所をおさえておきましょう。旧版ではCCPの許容限界について、複数の許容限界(加熱や冷却等での温度と時間のように)が通常考えられ得ること、そしてしばしば使用される基準として、温度、時間、水分含量、pH、水分活性(Aw)、有効塩素が挙げられることが示されています。このうち温度と時間コントロールについては第20回で、水分含量、pH、水分活性(Aw)、有効塩素によるコントロールについては第21回で、「CCPになる可能性の高い特定のプロセスステップ -ハザードと紐づけられるキーとなる側面」として詳説済みです。

ここできちんと押さえておくべきは、例えば加熱や冷却ステップであれば、温度と時間がコントロールパラメータとして通常セットであることです。たとえば品質実現のために低温加熱調理がしたければ、加熱時間をしっかりとることでターゲットの病原体を不活化できるかもしれません。また、配合や秤量、および調整ステップでは、水分含量、pH、水分活性(Aw)、有効塩素も“合わせ技”で微生物増殖をコントロールできるかもしれないわけです。
前回も触れた通り、開発した製品が(たとえば新製品への新たな添加、もしくは低温調理など品質要求により)上述の諸条件を、ワン・パラメータだけではコントロールできないかもしれないとはっきりわかった場合、この“合わせ技”で品質実現と食品安全性確保が両立できる知恵を働かせられる。ここがHACCPのお客様起点でもうかる製品実現と食品ビジネス機会となり得る側面です。
“間接的パラメータ”による現実的モニタリング
次に、新たに追加されたパラメータ「接触時間、コンベヤベルト速度、粘度、コンダクタンス、流量など」に着目しましょう。“接触時間”は初発菌数に、“コンベヤベルト速度”は要求される温度/時間パラメータの達成に、“粘度”は砂糖などを配合した時の水分活性(Aw)等に、コンダクタンスや流量は例えばパイプラインで直接的パラメータの経時的モニターが困難な場合に、現実的なパラメータとして間接的に機能し得るという可能性を盛込んでいます。
加熱でも冷却でも温度コントロールを想定すれば最も理解しやすいですが、バッチ式ならば中心温度を計測できても、ライン式だと中心温度そのものは測れないかもしれない現場は多くあるのではないでしょうか。間接的に関わる上述したパラメータでもって目標とする温度と時間を達成する、その妥当性確認をしてあれば、コントロールの保証は確保できるわけです。
“観察可能パラメータ”が実際的である場合
ここで旧版にあって新版にはない青字箇所があることに着目しましょう。「外観およびテクスチャーのような官能的指標」とあり新版ではこの代替として「ポンプ設定など観察可能なパラメータ」と記述されています。どちらも、ほぼ同じことを述べていますが変更された理由として考えられるのは、科学的・技術的な妥当性確認をする方法が容易に想像できる事例に切替えたかったのでしょう。
上述したようにパイプラインを流れる液体の加熱や冷却は、コンダクタンスや流量といったパラメータに置き換えられます。しかし、これらでも計測がむずかしい現場だって実際には存在します。そのように計測パラメータが設定できないパイプラインでは、たとえば圧力ポンプ設定を専門業者が比較校正(較正)を実施し、業者による較正済みシールを貼る場合があります。専門業者以外がバルブを触ればシールが剥がれます。したがって、その較正済みシールを目視で観察して、期限内シールがきちんと貼られていることを許容限界とすることも可能ですよ、という意味です。
第66回(前々々々回)で機械破損の使用前使用後の目視を、第65回では金属探知の正常動作確認を事例に挙げましたがこれらも観察可能なパラメータの例です。また第47回で説明した、オーダー毎にクックサーブ(調理後即提供)する極小規模の厨房であれば、焼き目や揚がり具合、肉色、弾力等のような官能的指標がよほど実際的だったりします。
したがって第48回で説明した通り、小規模営業者等向けには弾力的適用が盛り込まれた手引書を用意して、日本では2022年にHACCPの完全義務化を達成したわけですが、さて皆さまの現場は、より現実的でより実際的な許容限界が確立できているでしょうか?

月刊HACCP(株式会社鶏卵肉情報センター)
代表取締役社長
杉浦 嘉彦 氏
株式会社 鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(2005年より)
一般社団法人 日本HACCPトレーニングセンター 専務理事(2007~2024年)
国際HACCP同盟認定 トレーナー・オブ・トレーナー
月刊HACCP発行人、特定非営利活動法人 日本食品安全検証機構 常務理事(農場HACCP認証基準 原案策定 作業部会員)、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテータ、東京都および栃木県 食品衛生自主衛生管理認証制度 専門委員会 委員、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、日本惣菜協会HACCP認証制度(JmHACCP) 審査委員、日本フードサービス協会 外食産業 JFS-G規格及び手引書 策定検討委員、その他多数
作れる!!法制化で求められる衛生管理計画への道筋
監修 一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター
編集 株式会社鶏卵肉情報センター 月刊HACCP編集部
一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)による事業者支援セミナーをテキスト化した一冊です。
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